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049話 責任者


 演奏するアリシアとステラの周りには、円形の人だかりができて多くの市民が集まってきた。



「……どうしたんだ!? この素晴らしい曲は誰が演奏しているんだ」


「アリシア様が演奏しているのよ。隣の女性もとても上手だわ」


 二人が息のあった演奏を続けると、周りの市民たちからも手拍子が始まった。


 それはとても軽快なリズムで、見ている人を笑顔にするような曲だった。曲の終盤に差し掛かって旋律が高まりあう。


 二人は目で合図を送りあい、見事なタイミングで同時に演奏を終える。


 市民から大きな拍手が送られた。



 にこやかな笑顔を振りまいて、優雅に周囲の拍手に答えるアリシアと対照的に、歓声を受けたステラはどうしたらいいか分からず、ぶっきらぼうにその場に突っ立っている。


「ステラ、驚くほど上手だったわ! 本当に初めて弾いたの!?」


「アリシアが上手ですからね。真似をしただけです」


 ステラが少しだけ照れくさそうにしているのを、カズヤだけが気付いていた。



 二人が楽器を男性に返して礼を言い終える頃には、人波は少しずつ無くなっていった。


「ああ楽しかったわ。ステラ、これからも時々一緒に弾いてみない?」


「まあ、暇で暇で仕方がない時なら。マスターのせいで、私はとても忙しいですから」


 アリシアと目を合わせないように、ステラは居心地悪そうに答えるのだった。





「街の見回りはこのくらいでいいかしら。それじゃあ、カズヤたちは遷都事業の準備をお願いね」


 街の十字路で立ち止まると、アリシアがカズヤの方を振り返った。



 実は遷都が決まってしばらくしてから、カズヤはアリシアから王城に呼び出されて、ある相談を受けていた。背後には当然のようにバルザードが控えている。


「あの、今さらといった質問かもしれないけど……」


 執務室で待っていたアリシアの顔は、いたって真面目だ。



 しばらく押し黙っていたが、覚悟を決めると思い切って尋ねてきた。


「カズヤはこのままエルトベルクにいて大丈夫なの? すぐに逃げることも出来るのよ。このままだと、アビスネビュラに命を狙われる危険性もある。なんだかカズヤたちを巻き込んでしまった気がして……」



 確かにその質問は、カズヤにとっては今さらな質問だった。


 なぜ、カズヤがエルトベルクに協力するのか。それは、考えるまでも無いくらい当たり前の結論だった。


 まず、エルトベルクにはアリシアやバルザードといった仲間がいる。大切な人たちを放り出して、自分だけが逃げ出すことをカズヤは想像できなかった。


 そして、アビスネビュラの仕打ちが許せないというのもある。罪のない住人の命をもてあそぶアビスネビュラは、カズヤの信条と比べても許せる存在ではない。


 それに、ザイノイドとなった今の自分なら、少なからずエルトベルクの役に立てるという自負心もあった。



「もちろん大丈夫だよ。アリシアやバルたちがいるし、アビスネビュラのやり方も許せない。お願いされて巻き込まれている訳ではないよ。自分の意志で、もっとエルトベルクの役に立ちたいんだ」


「ありがとう、協力してくれるなら嬉しいわ。カズヤもステラも、とっても頼りにしているの」


 すっきりとした顔で返答したカズヤを見て、アリシアはほっと安堵した。



「その話を聞いたうえで、さらに頼みづらいことなんだけど……」


 安心したかと思ったら、再びアリシアの顔が少し曇る。まだ難しい相談が、あるようだ。


「……あの、カズヤに遷都事業の責任者になってもらえないかしら? もちろん、私やお父様も最大限協力するわ」

 

「遷都事業の責任者って……ひょっとして、街の建設や住民の移動を指揮するってことか!?」


「そうなの。貴族や役人に仕事を割り振ったんだけど、誰も責任者になりたがらないのよ」


 事情を聞いてカズヤは納得した。


 遷都なんて、誰も経験したことがない大事業だ。何から手をつけていいのか分からない。


 自信も無いだろうし、責任だって被りたくない。責任者なんて、誰も引き受けたがらないのだろう。



「カズヤは私たちが知らないような知識や技術を持っているし、ステラも付いてる。今回の活躍を街のみんなも知っているし、カズヤなら適任だと思うの」


 たしかに、ただの社会人だったカズヤだけなら務まる大役ではない。


 だが、ステラが手伝ってくれるなら話は別だ。カズヤも知らない未知の知識や技術を駆使して、手伝ってくれるに違いない。


 

「分かった、他に引き受ける人がいないなら俺がやるよ」


「本当!? 良かった、すぐにお父様に伝えておくわ」


 ほっと安堵したように、アリシアは晴れ晴れとした表情に変わる。


「カズヤは誠実で責任感もあるから、ひと安心だわ。とても頼りにしているの」


 予想外に褒められて、カズヤは息をのんだ。日本にいた時には、上司はもとより異性からも言われたことがないような言葉だった。


「そんなことないと思うけど……たぶん、俺もアリシアに頼ることも多いと思う。アリシアの人望と行動力があれば、きっとうまくいくよ」


 見つめ合った二人は、思わずお互いを称賛する。自然と笑顔があふれてきた。


「……マスター、ずいぶん仲がいいんですね。私にもそれくらいの言葉をかけてくれてもいいんですが」


 不意にカズヤの後ろから、冷気のこもった声が飛んできた。さらに何か言い足しそうな顔でステラがジトっと見つめている。


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