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044話 決着

 

 バルザードとステラが驚愕する声が響く。


 しかし、テセウスが魔石を取り出した瞬間に、カズヤが動いた。


 カズヤの姿が一瞬消える。



 次の瞬間。


 カズヤの手にはテセウスが持っていた魔石が握られている。まばたきする間もない程の素早さだ。


 カズヤはその魔石をゆっくりと握りつぶした。



「手下を置いて逃げるなんて、どこまでも卑怯な男だな」


 テセウスは、魔石を握っていたはずの自分の手を見つめて呆然としている。


「……奴の動きがわからなかった。Aランク冒険者だった俺が気づきもしないなんて……」



「まだ俺は身体の動かし方に慣れていないし、剣を振るうのも上手じゃない。それでも、お前に一撃を与えることくらいはできるんだぜ」


 カズヤは拳を固く握りしめる。


「……これで最後だ!」



 大きく振りかぶってテセウスの顔を思い切り殴りつける。顔面を直撃した勢いで、テセウスは後方に吹き飛ばされる。


 壁に激しく叩きつけられたテセウスは、意識を失って地面の上にだらしなく横たわった。



「この攻撃でも命を落とさないんだから、Aランクというのは伊達じゃないみたいだぜ」


 バルザードが笑いながらテセウスを拘束する。


 そして、その後ろから深刻な顔をしたステラが駆け寄ってきた。



「マスター、何で魔石を壊したんですか!? 転移なんて宇宙船を動かすくらいの莫大なエネルギーが無いとできないんですよ。せっかく分析するチャンスだったのに!」


 悔しそうなステラの追及を受けて、カズヤは苦笑いするしかなかった。




 *


 無事に国王とアリシアを助け出し、テセウスを捕らえることができた。


 広場での兵士たちの争いも落ち着き、しだいに混乱が収まってくる。助け出された国王が民衆に向かって手を振ると、大きな歓声が起こった。



「カズヤ、大丈夫!? テセウスの攻撃をまともに受けていたけど」


 心配したアリシアが、真っ先にカズヤの元に駆け寄ってくる。


「ああ、大丈夫だよ。穴に落っこちたせいで、ステラと同じ身体に変わったんだ」



「そういえば顔や雰囲気は変わってないけど、身体は随分違うわね」


 アリシアの目が、むき出しになった肘の機械部分に向けられる。


「ザイノイドという人種なんだ。でも、おかげで戦闘でも少しは役に立てそうだよ」




「少しどころか、テセウスを倒してしまったけどね……。それでもカズヤであることには変わりないのね、安心したわ」


 アリシアがにこりと笑う。


 このアリシアの何気ない一言が、カズヤの気持ちを大きく揺さぶった。



 ――カズヤであることには変わりない



 その一言に救われた気がした。


 自分が人間だと主張できる部分は脳や神経ではない。以前と変わらない「心」だと思えたことが、傷ついた心を癒してくれる。


 アリシアの両腕の傷を気遣ったときのカズヤの言葉を、どこか思い起こさせる返答だった。



「無事にお父様を助けて、テセウスの暴挙を止めることが出来てよかったわ。カズヤがいなかったら大変なことになっていた。もう何回助けてもらったかわからないわね。カズヤ、本当にありがとう!」


 アリシアはカズヤの手を、両手で力強く握りしめる。



「そ、そうかな……そう言ってもらえると嬉しいよ」


 カズヤの顔に自然と笑みが浮かんでくる。


 自分の判断に自信が持てないこともあった。独りよがりの正義感で孤立することもあった。


 だが少なくとも今回に限っては、自分の判断が正しかったのだと実感がわいてくる。



「それにしても、テセウスは何でこんなことをしたのかしら。Aランクまで上り詰めたら、富や名声はついてくるのに……」


 兵士に連れていかれるテセウスを見て、アリシアがポツリとつぶやいた。



「別に珍しいことではないですよ。理由もなく自己中心的な振る舞いをする人間は、どこの世界にも存在しますから」


 アリシアの疑問を、ステラがあっさりと否定する。



「姫さんは優しくて常識があるから想像できないかもしれませんが、世の中には考えられない行動をとる人間もいるんですぜ」


 バルザードもステラに同意する。


 二人が言っていることはほとんど同じだ。


 どちらかというとカズヤもアリシアのように、何が原因となったのか過去を探りたくなる方だ。しかしこの世界には、理解できない悪業を快楽的に行なう人間も存在するということなのか。



「……そう、テセウスのことはしっかり調べた後に判断した方がいいわね。まずは皆に経緯を伝えて落ち着かせなきゃ。そのあと今後について皆で相談しましょう」


 そう言い残すとアリシアは、父親の国王の方へ走っていく。


 バルザードもその後ろをついていった。




 残されたカズヤは黙って二人を見送る。


 そして不意に、隣にいるステラに向かって話しかけた。


「ステラ、こんな言葉はただの気休めかもしれないけど……」


 言うべきかどうか少し迷ったあと、意を決して口にする。



「俺はザイノイドになったけどアリシアを助けたいと思ったり、テセウスを許せない気持ちは人間の時と変わらなかった。この気持ちが、何かのプログラムの影響を受けたとは思えないんだ」


 カズヤはステラの瞳を見つめて、はっきりと伝える。



「ザイノイドにだって心はあると思うんだよ。だから、ステラの気持ちだって本物じゃないかな」


 ステラは一瞬、思考が追いつかないかのように動きを止める。


 思いもよらない衝撃を受け、微動だにしなかった。


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