042話 真実の流布
ポン、ポン、ポポンッ!!
激しい火花が空中にほとばしり、明るい空に戦いの始まりを告げる軽快な音が響きわたった。
「な、なんだ……。何事だ!?」
カズヤの合図で広場の上空に、無数の花火が打ち上がったのだ。
予想外の出来事に、テセウスも呆然と立ち尽くしている。観衆の視線も釘づけになり、処刑人も戸惑いで手を止める。
その直後、ステラのウィーバーに乗り込んだカズヤが、処刑場の一番高い場所に降り立った。
「カズヤ! 生きていたの!?」
カズヤの姿を見つけて、アリシアは目を輝かせる。
「アリシア、いま助けに行く!」
「貴様、穴の底へ落ちて死んだと思っていたが、生きていたのか!」
用意していたショーの邪魔をされ、テセウスは憤怒の表情でカズヤを睨みつけた。
「お前の悪事をみんなにバラすまでは、死んでも死にきれなくてな。お前こそ、これまでの責任をとってもらうぞ!」
カズヤの周りに兵士が押し寄せてくる。
しかし、ステラが足元へブラスターを掃射して立ち止まらせた。かわして突進してくる兵士を、ステラは軽々とつかんで放り投げる。
カズヤはアリシアを捕らえている兵士を体当たりで吹き飛ばし、力づくで助け出した。
するとアリシアはまっしぐらに駆け寄り、そのままカズヤに抱きついた。
「ちょ、ちょっとアリシア、どうしたんだ!?」
「穴に落ちて死んだとばかり思っていたの……生きていてくれて嬉しい!」
解放された興奮のせいなのか、思いがけない行動にカズヤはうろたえる。
「どさくさに紛れてズルいですよ、アリシア。マスターから離れてください」
ステラが二人を強引に引きはがす。
「マスター、国王を助けなくていいのですか」
「そ、そうだったな」
不機嫌そうなステラに促されたカズヤは、処刑台に囚われていた国王のもとへ向かう。
無事に助け出して、国王をステラのところまで連れてくる。劣悪な環境にいたせいか顔色は悪かったが、国王の瞳からは、なおも光は失われていなかった。
カズヤは用意した拡声装置を使って広場の観衆に語りかける。
「みんな、話を聞いてくれ! 今のテセウスの話は全部でたらめだ。昨日の崩落は全てこのテセウスの仕業なんだ。それを止めようとした国王に、全ての責任をなすりつけようとしているんだ!」
もともと国民から国王への信頼は厚いのだ。
カズヤの話を聞いた観衆は再び騒然とする。
しかし突然現れたカズヤの言葉だけでは決め手にかける。
どちらを信じたらいいのか戸惑っているようだった。
「そんな戯言で民衆を扇動しようというのか」
テセウスが馬鹿にしたような表情でカズヤを見つめる。
「証拠か、証拠が欲しいなら見せてやるぞ」
カズヤは再び拡声装置を握りしめる。
「みんな、これを見てくれ! テセウスが昨日、みんなを人質にして国王を脅しているところだ」
みんなの注目を処刑台に集めると、3階建ての建物くらいありそうな大きなホログラムのモニターが浮かび上がらせる。
そこに昨日のカズヤたちとテセウスの映像が流された。
『エルトベルクの領土を提供しないから、ゴンドアナ王国の侵攻によって奪ってやったのだ』
『増税を認めないので国王の私財を没収してやった』
『ゴンドアナ王国への出兵をしないので、代わりにアリシアを殺そうとしたのだ』
『アリシアの殺害を三度失敗したので、街を崩落させて住民を殺すことに変更する』
『この街全てが空洞の上に建てられている。指示に従わないなら更に街を崩落させてやるぞ』
テセウスが国王を脅迫する姿が大画面に映し出される。クッキリとした映像に聞き間違いのないような大音量だ。
「お、おい、これって……」
大きなざわめきが、さざなみのように広がっていく。
全てがテセウスの演説内容と食い違っている。
観衆は昨日の王宮で何が起こっていたのか、はっきりと理解したのだ。
「これは幻術の魔法だ。騙されるな!」
テセウスが大声を張り上げる。
しかし、国王への信頼を忘れていない観衆は、映像が事実であることに気がついた。
テセウスへの非難の声をあげ始める。
「くそ、うるさい奴らだ。力尽くで抑えろ。広場にいる奴らを兵士に排除させるのだ!」
テセウスの命令で、警備をしていた兵士達が観衆を押さえつけようとする。
しかし、それと同時に、広場の外からもっと多くの兵士が中へなだれ込んできた。
民衆を抑えようとする兵士と、それを止めようとする兵士たちが衝突する。
そして、その衝突から抜け出したひとりの戦士が、兵士の妨害を軽々と乗り越えて処刑場の上に降り立った。
「たった2年で随分と多くの兵士たちを誘惑してくれたな! ただ、どんなにそそのかそうとも、陛下や姫さんを慕う奴らの方が多いんだぜ!」
啖呵を切って現れたのはバルザードだった。
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