004話 アリシア救出
「そこにアリシアがいるかもしれない。助けに行けないか!?」
「助けにですか? しかしこの世界についてまだ何もわかっていません。危険だと思いますが……」
カズヤの意気込みとは反対に、ステラは冷静だった。
だが万が一、アリシアが命を落としてから事情がわかっても意味がないのだ。
「危険なのは承知だ。アリシアを助けたい」
「その女性は一度会っただけですよね。再び命を危険にさらしてまで、なぜ助けたいんですか?」
「オークとブラッドベアのとき、アリシアは命を張って2回も俺を助けてくれた。今度は俺が助ける番だ。ステラはここに残っていてもいい、俺だけでもいいから行かせてくれ!」
カズヤは必死で訴えた。
アリシアを助けたいという正義感だけではない。受けた恩は返したいという律儀な面もカズヤにはあった。
ステラはしばらく考える様子で沈黙している。
「……了解しました。ただし、カズヤさんだけでは心配なので私も同行します」
「えっ、一緒に来てくれるのか!? もちろんだ、ぜひお願いしたい!」
むしろありがたい申し出だ。
仮のマスターとしての指示と受け取ったのかもしれない。
カズヤはお礼に、ステラの手をぎゅっと握りしめた。
両手を握りしめられてステラの顔に赤みがさし、一瞬だけ表情が変わる。
しかし人間らしい様子を見せたかと思ったら、またすぐにいつもの冷静な顔へと戻った。
「そうと決まったら、念のためこれを着てもらえますか」
ステラは壁の中に収納されていた服をつかむと、カズヤに差し出した。
「これはアダプトスーツといって、惑星ごとの環境の変化に適応するための強化スーツです。筋力を何十倍にも高める機能だけでなく、衝撃にも強くなっています」
アダプトスーツと呼ばれた服は青と銀のカラーリングの薄い素材でできている。
カズヤが試しに強く押してみると、瞬時に膨らんで硬化した。これが耐衝撃性が上がるということだろう。
身に着けてみるとシャツくらいの重さしかなく、手足の動作が機械によってサポートされているのがわかった。
「乗り物を用意しますので、ついて来てください」
宇宙船の壁に向かってステラが歩き出すと、音もなく壁が消えて外へとつながった。
カズヤも続いて外に出る。
するとそこには、宙に浮いたエアバイクのような乗り物が待ち構えていた。銀色のボディが光り輝き、滑らかなデザインが未来的な印象を受ける。
「私たちはウィーバーと呼んでいます。変形すれば宇宙でも操縦可能です。私がコントロールするので、カズヤさんは後ろに乗って下さい」
ステラは、軽やかに身をひるがえしてウィーバーに乗り込んだ。
カズヤはステラの後ろにまたがって、恐る恐る腰に手を回す。ステラの身体の表面は、人間の皮膚と同じくらい柔らかくてドキリとした。
いくらロボットだと言われても、こんなに近くで女性に触れるのは久しぶりだ。
ほっそりとして華奢な体つきだが、身体の芯はしっかりとしている。強くしがみついても微動だにしなかった。
「心拍数が急に上がりましたけど、どうしましたか?」
「い、いや、皮膚は人間と同じなのかなって……」
「人間の皮膚とは違います。頑丈に作られているので多少の衝撃では損傷しません。生半可な武器で斬られても、傷すらつかないでしょう」
緊張しているのをバレたくなくて、カズヤは適当な質問で誤魔化した。
「それでは、戦闘地点まで移動します」
2人を乗せたウィーバーは、宙を滑るように音もなく動き出す。
徐々に加速すると、やがて凄まじいスピードで木々の間を抜けていった。
木や岩の狭い隙間を、風を切りながら高速で抜けていく。ステラが完璧に操縦しているので、枝葉ひとつすら、かすらなかった。
そんななかカズヤは、心の中でひとり自嘲気味につぶやいていた。
(俺が行ったところで、アリシアを助けられるのかな。またいつもの癖が出てしまったのかも)
高校のあの出来事以来、余計な正義感を振りかざすと痛い目にあうと学んだはずだったのだが。
しばらくウィーバーで飛ぶと、不意に森を抜けた。
すると、魔物と戦闘している人間たちが目に飛び込んできた。
鎧に身を包んだ騎士が、剣を振るって魔物に向かっていく。
別の者は杖を高くかかげて炎を放ち、轟音とともに敵を焼き払う。
全部で20~30人ほどいるだろうか。みんな傷つき汚れていて、激戦が続いていることが窺える。
「相手はオークか……多いな」
戦っている相手は、カズヤも襲われたことがある豚のような顔をしたオークだ。アリシアの魔法で一撃で殲滅させられていた。
だが、魔物の方が数が圧倒的に多い。
倍以上もいそうな大きな群れが、人間たちに襲いかかっている。
「カズヤさんが出会った、アリシアと思われる女性もいます。どうやら味方と合流できたようです」
ステラが教えてくれた方向を見ると、たしかにアリシアがいた。
肩に届くくらいの赤い髪と、鮮やかな赤色の目。
間違いなかった。森の中にひとりでいたアリシアは無事に仲間と合流できたようだ。
魔法使いの装いをしたアリシアは、杖を握りしめてオークに攻撃していた。アリシアの杖から竜巻が起こり、敵を巻き込んで吹き飛ばす。
そして自ら戦いながらも、周りの騎士たちに次々と指示を出していた。
「えっ……!? ちょっと待ってくれ、あのブラッドベアが3体もいるのか!」
群れの奥のほうで全長5m以上はある、ひときわ大きな魔物たちが目に入った。
魔法が効かずに、手も足も出ずに逃げ出した相手だ。
しかも3体もいる。
必死になって騎士たちが戦っているが、ブラッドベアはまったくひるむ気配を見せていない。
人間ひとりに対してオークを含めて複数の魔物が攻撃してくるので、人間側はかなり苦戦している。
このまま傍観していたら、全滅してもおかしくない雰囲気だ。
「これはまずいぞ、何か手助けしないと……。ステラ、俺でも使える武器はないか!?」
「これはどうでしょうか。ブラスター《光線銃》と呼ばれる一般的なライフルです。どんな運動音痴でも使えるように開発されたものなので、カズヤさんでも大丈夫なはずです」
「そ、そうか。それは助かるな……」
カズヤは引きつった顔で返事する。
ステラに悪気はなさそうだが、ストレートな物言いに少し自信をなくしそうになる。
「持ち主の思念を読み取る武器なので、敵をはっきりと定めてください。あとは自動照準なので、大体の方向に向けて発射するだけで光線が命中します」
操作が簡単でほとんどが自動化されている。
確かに、これならカズヤでも使えそうだ。
ステラの腰にまわしていた手を外して、ブラスターを受け取った。
カズヤは右手でブラスターを構えると、まずはオークを標的として念じてみる。思念を読み取るというのがよくわからないが、試しに敵としてはっきりイメージした。
そして魔物の方へ銃口を向けて照準を合わせ、意を決してトリガーを引いてみる。
するとまぶしいほどのレーザー光線が、激しい勢いで飛び出した。
光線は目にも止まらないスピードで、カズヤが狙っていたオークに直撃する。撃たれたオークは叫び声をあげて吹き飛ぶと、起き上がってこない。
なんと、たった一撃で倒してしまったのだ。
「これは凄いぞ!」
別のオークに狙いを定めると、手あたり次第ブラスターを発射する。
カズヤは次々とオークを倒していった。
「な、なんだ、あの攻撃は!? あっという間に蹴散らしていく」
「彼は味方か? どんどん魔物が減っていくぞ!」
魔物が倒されていく様子を見て、戦っている騎士たちからも大きな歓声があがる。
「こんなに便利な武器なら俺でも戦える。……そうだ。思念を読み取るのなら、こんなこともできるのか?」
試しにカズヤは、ブラスターから複数の光線が出る様子をイメージしてみる。
すると、予想どおり3本の光線が発射される。
そのうち2本の光線が魔物に直撃して、2体とも動かなくなった。
「おおっ、やったぞ」
やはりイメージしだいで複数の光線を同時に出すことは可能なのだ。3本しか出なかったのは、カズヤの想像力の限界だったのかもしれない。
「カズヤさんどうやったんですか? いきなり複数の光線を出すなんて、なかなか出来ないですよ」
ステラが驚いた表情でカズヤを見つめた。
褒められると悪い気はしない。
カズヤが頭に浮かべたのは、今まで見てきたアニメやゲームでよくある攻撃だ。映像を知っているのでイメージもしやすい。
「こんなに簡単に扱えるなら、もっと他の攻撃はできないかな……」
今度は、光線が魔物を追いかける映像を念じてみる。
その映像を強く念じたままトリガーを引いてみた。
すると、曲がりくねった3本の光線が発射されて、逃げようとするオークを追いかけながらヒットした。
3本の光線で3体の魔物を仕留めることができた。しっかりイメージさえできれば、追尾機能を持たせることもできる。
これでブラスターの効率性が一気に上昇した。
「凄いです、カズヤさん! 初めてでこんなに使いこなせるとは思いませんでした」
普段は冷静なステラが驚きを隠そうともしない。
ここまで称賛されると、少し照れくさくて頬が緩んでしまうのだった。
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