039話 ザイノイド無双
ザイノイドとしての、カズヤの初めての戦闘がはじまった。
工作兵がカズヤたちを発見する。
地下での戦闘を予想していなかったのか、身に着けている武具は軽装だ。
そのうちのひとりが、トランシーバーのような小型の箱を握りしめたのが見えた。魔導具には、きらびやかな魔石がはめられている。
その瞬間、ステラのブラスターが光線を放った。
「ぐあっっ!」
工作兵は手をおさえてうずくまる。
あれが通信道具だったのだろう。これで、ここからテセウスや他の工作兵に伝わることは防げたはずだ。
バルザードは今までの鬱憤を晴らすような突撃を仕掛ける。突然の攻撃に、工作兵たちはまったく対抗できていなかった。
すると、バルザードが制圧している隙間から、ひとりの兵士がカズヤの方へ躍り出た。
兵士はカズヤに狙いを定めると、剣を握りしめて斜めに切りかかってきた。
「遅い……!」
その攻撃は、カズヤの視覚センサーにはスローモーションのようにうつっていた。
まるでコマ送りのように、剣先が軌跡を描いていく。
カズヤは剣筋を見極めると、軽々とかわす。
人間のままなら、剣が直撃して致命傷になっていただろう。
だが、今なら相手の動きを見た後からでも十分間に合う。ザイノイドの反射能力は、それほど人間離れしたスピードなのだ。
直前までは間違いなく当たると思った攻撃をかわされてしまい、工作兵は呆気にとられる。
たまらず剣を振り回すが、カズヤはかすることすら無く全てをかわした。
「な、なんで当たらないんだ!?」
兵士の当惑が伝わってくる。
しかし、当たる方が難しいほどスピードが違う。
それにもし直撃を受けたとしても、この程度の威力ではザイノイドの皮膚には傷一つつかない。
カズヤは、今までにないくらい余裕を持って対処した。
相手が疲れてきたのを感じると、腕に手刀を入れる。
敵はたまらず剣を落とした。
その隙に素早く近寄って体当たりを喰らわせる。相手は激しく吹っ飛ぶと、壁に衝突して崩れていった。
「おい、やるじゃないか、カズヤ! まるで別人のような動きだな!」
「まあ実際、別人みたいなものだからな」
驚いているバルザードに、カズヤは自嘲気味に返した。
もう、以前のひ弱だった頃の自分はいない。
ザイノイドになったことは正直今でも嬉しいことではない。
しかし、この世界で思いのままに生きるには、ある程度の強さが必要だ。これは人間としての生を犠牲にして手に入れた力だ。
だからこそ割り切って、思いきり使いこなしてやるのだ。
カズヤが壁に叩きつけた相手は起き上がってこない。
どうやらそのまま意識を失ってしまったようだ。
「マスター、ちょっとやり過ぎです。壁の振動が崩落を誘発する危険性があります」
最後に体当たりで吹き飛ばしたのは、さすがに力の入れすぎだった。気持ちが先走ってしまい、まだ力加減がよくわかっていない。
「これが奴らの通信道具だな」
通信道具と思しき魔導具を拾うと、バルザードに見せた。
「こいつは、めったに手に入らない高級な魔導具だぜ。これがあるだけで戦場の優位性を大きく変えるくらいだからな」
「マスター、私が借りてもいいですか? 持ち帰って仕組みを調べたいです」
魔導具をステラに渡すと、メイド服の懐にしまいこむ。
この世界の魔法についてステラの理解が深まれば、もっと有利な状況を作れるはずだ。
そして、最後にこの場所にある一番危険な物を処分しなければならない。
「……これが爆弾か?」
カズヤが見つけ出したのはバスケットボールくらいの大きさで、結晶のような輝きを放っている魔石だった。
薄いガラス細工のような塊のなかに、煙のような魔力が怪しげに揺らめいている。
「巨大な魔石だな。この大きさだと、とんでもない爆発力がありそうだ。魔法が埋め込まれているから、うまく処分しないと危険だぜ」
バルザードの説明に納得したカズヤは、慎重に魔石を回収した。
別の地点を確認すると、三人は迅速に移動した。
「次は俺に行かせてくれ。全部ひとりで仕留めてみせる」
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