038話 王都潜行
三人は2台のウィーバーに乗って、崩落が起きた地点の上空に来ていた。
ウィーバーの運転ができるカズヤはひとりで乗っている。ハンドルを握って行きたい方向をイメージすればよいので難しいことは無い。
その後ろで、ステラとバルザードが大騒ぎしながら乗っていた。
「ちょっと、バルちゃん! モフモフ気持ちいいですけど目をふさがないでください。落ちたら死んじゃいますよ」
バルザードが悲鳴をあげて、運転するステラに後ろからしがみついているのだ。
「だけどよおお、こんな空飛ぶ馬なんて乗ったことがねえよ! いったいどんな仕組みで飛んでやがるんだこれは!? 絶対信用できねえよ!!」
「ただの反重力ですよ」
「まんじゅう力!? ますます信用できねえよお!」
バルザードは高い所が苦手なのか。
仕組みもわからないウィーバーに乗る怖さは、カズヤにも理解できる。
三人はアリシアと国王を助けるよりも先に、まずは地下にいるテセウスの部下たちを捕らえることを優先した。
指示に従わない国王への見せしめとして、テセウスは複数の場所を崩落させた。奴はいつでも住人の命を人質にするだろう。
例えバルザードの仲間を集めて王宮を襲撃しても、追い詰められたテセウスに街の崩落を利用されてしまう。
そうすると、また同じ過ちを繰り返すことになってしまう。
これ以上の暴虐を繰り返させないために、地下に潜ることを優先したのだ。
「こ、これは……!?」
カズヤはエストラの地底まで降りると、その光景に絶句した。
目の前に広がるエストラの地下空洞は、想像を遥かに上回る巨大な空間だった。
遥かに見上げないと空や地上が見えないほど深く、左右は一度に目視ができないほど広い。
地下に潜む巨大な空洞を目の当たりにした衝撃は大きかった。
穴が空いたのなら、何かで塞ぐことはできないかとカズヤは考えていた。だが、とても塞げる広さではないことを痛感した。
空洞ではゴオオオッという風の音が、あたりの岩に反響して響いている。
「地上で聞こえていた街鳴りの正体は、この音だったんだな……」
カズヤは、エストラの市場で聞いた街鳴りの音を思い出した。
地下の空洞に風が吹き込み、その反響した音が地上でも聞こえていたのだ。
ひょっとしたら、エストラには井戸が少なくて水不足になりやすいという話も、この空洞部分と関わっているのかもしれない。
そして地底には、地上から落下してきた大量の建物や道路の残骸、人らしき遺骸が降り積もっていた。
カズヤは思わず目を背けてしまう。
崩落部から光が漏れているとはいえ、地下は真っ暗だ。
しかし、カズヤはザイノイドの視覚センサーにより、その惨状を昼間のようにはっきりと見てしまった。
「俺様がいない隙に、こんなことをしやがって……」
夜目に長けたバルザードも直視してしまったようだ。
喉元から、唸り声がもれている。
「生存反応はありません」
ステラの無情な宣告を聴きながら、カズヤは心の中で手を合わせる。そして、テセウスに二度と繰り返させないことを犠牲者たちに誓った。
「マスター、何ヶ所かで怪しげな動きをしている工作兵がいます」
「どこにいる?」
「空洞の天井部分に洞穴の通路があり、そこの6箇所に工作兵が3~4人ずつ潜んでいます」
「天井部分の地面に、更に空洞があるのか……」
地底の空洞と地表が繋がっている部分に、更に通路のような洞穴があり、そこにテセウス配下の工作兵たちが潜んでいる。
ただでさえ脆い地表部分が、さらに虫食いのように穴が空いている。地盤の脆弱さを考えると人間の時なら鳥肌が立ちそうなくらいだ。
「内部通信で、彼らの場所と戦力の詳細を送ります」
カズヤがザイノイドになったおかげで、ステラとの通信は遠隔でも外部に漏らさずに詳しい情報を伝えることができるようになった。
カズヤの脳は人間のままなので情報処理能力は劣るが、送られてきた情報を把握する程度のことはできる。
ステラから送られてきた情報をもとに、カズヤは念入りに工作兵の場所と数を確認した。
「よし、工作兵たちを捕まえに行くぞ!」
ここからの対処には少し注意が必要だ。
奴らは何らかの通信装備を持っているのは間違いない。王宮からテセウスが指示を出していたからだ。
カズヤたちの攻撃を受けたことがバレてしまうと、地上のテセウスに連絡が伝わってしまい街の崩落に繋がりかねない。
「ステラは怪しい動きをした奴がいたら攻撃してくれ。俺とバルザードは工作兵の殲滅に専念する」
ぶっつけ本番になってしまうが、全身がザイノイドになった身体の使い方は実戦で覚えていくしかない。
ウィーバーで空洞の天井部分まで上がると、そこから降りて通路の中に入る。
通路の壁や天井を見ると土がむき出しになっていて、ところどころ石材で補強されている。奴らが人工的に地面をくりぬいて造っていたことがわかった。
「マスター、前方に4人います」
「俺様が先に行くから、カズヤは後ろからついてこい」
バルザードは頼もしく宣言すると、剣を片手に堂々と正面から突っ込んでいった。カズヤも短剣を手にしながらあわててその後を追う。
ザイノイドとしての、カズヤの初めての戦闘がはじまった。
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