037話 再会
王宮前の広場は異様な緊張感に包まれていた。
バルザードが鋭い牙を剥き出し、周囲を威圧するように唸り声をあげている。
「姫さんと陛下はどこにいる!? すぐに教えないと、お前たちごと吹き飛ばすぞ!」
「バ、バルザードさん、落ち着いてください! 私たちも知らないのです!」
兵士たちはテセウスの命令に従い、門を警備しているだけに過ぎない。
「教えないなら容赦しないぞ。お前たちごときで、俺様を止められると思うなよ!」
「バルザードさん……。みんな仕方ない、止めろ!」
バルザードは、飛びかかってくる兵士たちを軽くいなしていく。
相手を傷つけないように気を使ってはいたが、軽々と持ち上げて放り投げる。
数人が一度に押し寄せてくるが、バルザードが吠えるたびにひとりは突き飛ばされ、ひとりは転がされる。
連携して取り囲むが、バルザードを抑えることはできない。
兵士全員をなぎ倒し、全身の毛を逆立てたバルザードがいよいよ門を壊そうかというとき。
空から声が降ってきた。
「……バルちゃん!」
ステラはウィーバーから飛び降りると、真っ先にバルザードに飛びついた。
「カズヤ、ステ坊、無事だったのか! てっきりお前らも捕らえられていると思ってたぜ!」
一緒にいた国王と王女が捕まってしまったのだ。
カズヤたちも捕らえられたと思われても仕方がない。
しがみつくステラを、バルザードは何事も無かったかのように受け入れる。
すでにバルちゃん扱いにも慣れてきたようだ。
「仲間を集めて姫さんや陛下の居場所を調べたが、どこにいるのかわからないんだ。とりあえず王宮に突撃してやろうかと思ってたんだが……」
バルザードは努めて平静になろうとしているが、アリシアや国王が心配で落ち着かない様子だ。
「俺たちは大丈夫だったけど、アリシアや国王が捕まってしまったんだ」
カズヤは王宮で起こった出来事をバルザードに説明する。
バルザードは徐々に感情が収まってきた。
「……なんだ、アビスネビュラって? そんな名前は聞いたことないぞ。世界を支配するなんて、ちょっと大げさ過ぎるんじゃないのか」
「別によくある話ですよ。世界を好きに支配するためなら権力者たちは必死に考えます。他の星でも普通に行なわれていることです」
ピンとこないバルザードに対して、ステラが重ねて説明してくれる。
「ふうん、そんなもんなのか。……それにしてもカズヤ。お前その身体はどうしたんだ? 雰囲気も変わったし、まるで別人のようだ」
バルザードはカズヤの顔や身体を、まじまじと見つめる。
「いろいろあってな、俺はもう人間じゃないんだ。気にするなと言っても難しいかもしれないが……」
カズヤは気まずそうに視線を落とす。
だがバルザードはあっけらかんと答えた。
「まあ、理由さえわかれば別に気にしねえぜ。またステ坊に何かしてもらったんだろ。お前らがやっていることは最初から理解できねえよ。でも、お前はお前だろ?」
気に留める様子のないその言葉が、カズヤの胸をうつ。
そうだ、自分の心は何も変わっていないのだ。
人間の時と同じように考えたり、同じように動くことができる。
カズヤの心には、自分がザイノイド化して異質な存在と見られる恐怖があった。またそれによってアリシアやバルザードとの関係が悪化しないかを恐れていた。
しかし、バルザードはそんなことを何も気にしていない。
もともと獣人や他の人種が入り乱れた世界だ。こんな違いや多様性には慣れっこなのかもしれない。
バルザードの話を聞いていたら、カズヤは身体がザイノイドに変わったことも気にならなくなってきた。
「……そうだな、俺の本質は何も変わっていない。まだ、この身体には慣れていないけど、以前よりも戦力になれるはずだ。アリシアと国王を助けに行こう」
カズヤははっきりと前を向くことができた。
生身の人間の時よりも遥かに運動能力が上がっている。身体の動かし方や戦い方さえわかってくれば、今まで以上に戦えるはずだ。
「ステラの調査でも、アリシアと国王の居場所はわかっていない。でも、王宮の外へ出ていった形跡がないから、今でも王宮内に囚われているのは間違いないはずだ」
「それじゃあ、さっさと突入しようぜ。俺様の仲間や陛下たちを慕う人間を集めれば、王宮を制圧するのは簡単だぜ」
バルザードの提案に、カズヤは少し考えこんだ。
「……たしかに、アリシアと国王は必ず助けなければいけない。ただ、その前にどうしてもやらなければいけないことが、あるんじゃないか?」
カズヤの言葉を聞いて、バルザードはハッとした顔を見せる。
バルザードも、先にやらなければいけない大事なことに気がついたようだ。これを解決しないことには、何度も同じ悲劇を繰り返すことになってしまう。
会話を聞いていたステラは、すでに出発の準備をしている。
カズヤたちは、エストラの地下空洞へと乗り込んでいった――
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