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035話 目覚め



 

 カズヤは真っ暗な夢を見ていた。



 自分は穴に落ちた。崩落に巻き込まれて、ステラの手を掴めずに、身体が落下していくのを感じていた。


 テセウスが街を崩落させる決断をしたのは、アリシアを助けた自分の責任でもあると感じていた。だからこそ、せめてできる限りの住人を避難させたいと思っていた。


 その代わりに自分の命を失ったのだ。



 ステラが助けに来てくれたのが見えた。ウィーバーが来るのを待っていれば死なずにすんだかもしれない。


 しかし、それを待っていたら助けられた市民の数はもっと減っていたはずだ。カズヤの叫び声を聞いて、多くの人が避難するのが見えた。


(俺はいつも小さな正義感で失敗してしまう……だけど、今回は最善の行動をとれたはずだ)


 カズヤがそう考えて自分をなぐさめる。



 しばらくすると、明るい光が目に入ってくるのを感じた。


 強烈なまぶしさがカズヤの方に向かって迫ってくる。


 大きな光の渦がカズヤを包みこんでいく。



(俺はまだ死んでいないのか……?)


 カズヤは、ゆっくりと目を覚ました。




 *


 カズヤがうっすら目を開けると、まぶしかった光量が瞬時に調整され、宇宙船の中の様子が視界に入ってきた。


 どうやら自分は台の上に寝かされているようだ。初めてこの宇宙船に運ばれた時のことを思い出す。



(……この数字はなんだ?)


 不思議な数字が頭をよぎる。しばらくして、それらの数字がこの部屋の温度や湿度、横たわっている身体の各部分にかかっている圧力が、数値化されたものだと気がついた。



 全身に違和感がある。


 自分の身体では無い感覚。台の上に寝ているのはわかるが、何かに接地しているという事実が、情報として送られてきている感覚だ。



「……マスター、意識が戻りましたか?」


 泣き腫らした顔をしたステラが、身体の上から覗き込んでくる。


 ステラの顔や身体には激しい損傷があり、頭の一部がえぐれたように陥没している。髪の毛が削ぎ落され、内部の金属が露出していた。



 カズヤは、それが自分のせいであることに気がついた。


 自分を助けるために、ステラは大きな損傷を受けた。自分の傷の回復を後回しにしてまで助けてくれたのだ。



「治療と移植はミスなくできたと思ったのですが……意識がなかなか戻らなくて、とても不安でした」


「……すまない、ステラも巻き込んでしまったんだな」


 カズヤはイメージした通りの言葉を発することができた。


 しかし、今までのように喉から空気が漏れ出たわけではなかった。想像した言葉が、口の中から自動的に発声されている感じだ。



「大丈夫です。このくらいの損傷はひとりですぐに直せます」


 ステラが頭をおさえながら笑って答える。


「ステラでも泣くことがあるんだな」


「当たり前じゃないですか。生身の人間の機能はほとんど持ってるんですよ。悲しいものは悲しいです」


 ステラを泣かせてしまったことを、カズヤは申しわけなく感じた。



「ここは宇宙船の中か?」


「そうです。瀕死だったマスターを連れて、宇宙船の医療ボットに駆け込みました」


「俺は死んだと思っていたが……」



「地面に激突する前に、何とか身体を掴めました。落下してくる建物の瓦礫に何度もぶつかっていたので死んでしまったかと思いましたが、どうにか連れてくることができました」


 落下している時の映像を思い出す。


 自分の身体は、落ちてきた瓦礫や建物などに何度もぶつかっていた。



「俺の身体はどうなっている?」


「生身の部分の怪我がひどくて、そのまま治療を施すのが不可能な状態でした。緊急事態だと判断して、マスターを移植する決断をしました」



 ステラはわざと遠回しな説明をしてくれている。


 カズヤは自分の身体がどうなったのか想像がついていた。



「……俺はザイノイドになったのか?」


「申しわけありません。マスターの命をつなぐにはその方法しかありませんでした。脳と中枢神経だけを残して、全身をザイノイドに移植しました」



 想像どおりだった。


(俺はあんなにも断ってきたザイノイドになってしまったのだ……!)


 急激に強烈な不安や恐怖心がこみあげてくる。



 左腕を少しあげてみると、肘の部分に機械的な部品がのぞいている。膝や他の場所にも同じように機械化された部分が露出していた。


 自分はもはや人間ではない。食事の必要も肌の感覚も、痛みや疲れも何もかも無くなってしまったのだ。



 様々な考えや感情がわき起こって、頭の中を駆け巡る。


(これから俺はどう生きればいいのだ……。そもそもロボットにとって生きるとは何なのか。食べ物ではなく、エネルギーコアを交換することが食事だとでもいうのか)



 カズヤの心が張り裂けそうにざわめき出す。



(なぜ俺を助けた。ロボットになってまで生きなければいけないのか。どうして生かした。そのまま人間として死なせてくれれば良かったのに……!)


 そんな言葉すら、頭の中を駆け巡った。


 混乱してさまざまな考えが脳裏に浮かび、今までに感じたことがない感情が心に押し寄せてくる。



 耐えきれなくなったカズヤは、思考を停止して宙を見つめた……。


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