034話 side: ステラ
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宇宙船が墜落してから多くの時間が過ぎ去っていった。
ステラは動かなくなった宇宙船のなかで、ひとりで考え続けていた。
本星へ何度も救難信号を送ったが、返信は一度もこない。どうやら肝心の通信機能が壊れてしまったようだ。
他のどのような手段を使っても、他星と連絡をとることはできない。
しかし連絡がとれないからといって、本星がステラたちを捜索しにくるとは限らない。過去に同じような事故は何度もあったが、救援が出ないときもあったからだ。
そんな条件を飲み込んだうえでの惑星調査だ。
ザイノイドは人間よりも長寿だが、それでもいつかは限界がきてしまう。
情報処理型のザイノイドは、人間種ほどではないがいくつかの権利が認められている。働く場所や主人とする人間を選ぶ権利は持っているのだ。
そのなかでステラは自分の能力をもっとも活かせる軍隊を選び、その中でも星間探査隊を選んだ。軍隊に所属する以上、上司の命令が絶対なのは人間と変わらない。
人間からの指示が無い限り、ステラは宇宙船から出ることができなかった。
(私はこのまま朽ち果てていくのだろうか……)
300年間、何度同じ問いを繰り返したかわからなかった。
あるとき、宇宙船の壁に人間が叩きつけられたのをステラは感知した。
叩きつけられた人間は何かに襲われて重傷を負っており、更なる攻撃をうければ死を免れない。
ステラは咄嗟に、この人間を宇宙船の中に引き入れた。ザイノイドは人間種の命を救うことが義務づけられている。
だがそれ以上に、300年ぶりの新たな出会いに気持ちが高まるのをステラは感じていた。300年の孤独から解放され、いつもと違った日々が始まるかもしれないのだ。
男性は背中に大怪我を負っていたが、治療には問題なかった。
回復した男性の言葉はデータベースには無かったが、それほど複雑な言葉ではない。短時間のセッションで理解することができた。
男性の名前はカズヤといい、なぜ自分がこの世界にいるのかわからないという。不思議な体験ではあるが、次元の狭間で失踪する現象はいくつも記録に残っている。
カズヤはステラたちよりも科学や文明が劣った星の出身で、知性もそれほど高くはない。
しかし、人間にとって大切なのは知性や強さではない。必要があれば、ザイノイドがサポートすればよいからだ。
大切なのは知性や技術を利用するための目的だ。それが自分勝手な欲望の為なのか、他者を思いやる為なのかで、結果は大きく変わってくる。
この男性の正直な反応には嘘がなく、誠実さが感じられた。
これまでも、自分にはもっとたくさんのことができるはずだとステラは感じていた。孤独から解放されて、能力を発揮する機会を与えてくれたカズヤに密かに感謝しているのだ。
カズヤと共に初めて宇宙船の外に出てみると、この星にも多くの問題があることがわかった。
魔物や人間との戦い、政治的な争いもあるようだ。
ステラはこの種の争いにはまったく興味がない。宇宙船のデータベースには今までの文明で起こってきた、様々な人類の衝突が無数に記録されているからだ。
しかしこんな世界でも、ステラが気に入っているものとたくさん出会うことができた。
理想的なモフモフであるバルザードに出会うことができた。ステラのお気に入りのかわいい服も見つけることもできた。
データベースの中にあったので前から着てみたかったが、宇宙船の中には用意されていなかったのだ。
ここではメイド服と呼ばれているようだが名前は関係ない。他の服には興味がないし、これ以上の服は見つけられないくらい、自分にぴったりの服だった。
そして少しずつ行動を積み重ねるたびに、ステラの心は決まってきた。
カズヤを仮ではなく、本当のマスターにしたいと思う気持ちが湧き上がってきたのだ。
この感情がプログラムであろうと、本心であろうと構わない。カズヤと一緒に過ごしたいという想いが強くなっていた。
ステラが初めて心を惹かれたのは、治療したばかりのカズヤが初対面のアリシアを助けに行くと宣言したときだ。
はじめは武器もないのに、ひとりで助けに行こうと主張していた。
得体の知れない魔物に追い掛けられ、正体不明の騎士に襲われた直後なら、恐怖におびえて閉じこもっていてもおかしくはない。
しかし、我が身を顧みずに他者を助けに行こうとするのは、誰にでもできることではない。
しかもその時に、ステラは宇宙船に残ってもいいから自分だけでも行かせてくれ、と訴えていた。ザイノイドである自分に命令することなく、選択の余地を残してくれていた。
街が再び崩落するときには、まさに命がけで見知らぬ子どもを助け出した。
カズヤがこの世界に来たせいで、想定外の展開になっていることに責任を感じているのは伝わっていた。
だが三度もアリシアを助けたカズヤを、いったい誰が責めるというのだろう。
そして一番大きく心を動かされたのは、命令によって自分のマスターになろうとしなかったことだ。
莫大なメリットがあるにも関わらず、自分がマスターを選ぶ権利を優先してくれた。
今まで出会ってきた人間たちは、私欲のためにザイノイドを利用しようとする者たちばかりだった。
だがカズヤはザイノイドである自分の意見も配慮してくれる。
寝坊や大食い、その他の行動を見ているとカズヤが平凡な人間であることは間違いない。人間だから判断を間違うこともあるだろう。
だがカズヤの身体の脆弱さや劣った知性は自分がサポートすればいい。それがザイノイドの仕事なのだ。
だからカズヤは好きに行動していい。そのために最適な手段を提供する。それは素晴らしい経験になるはずだった。
しかし、ステラは最後に致命的な失敗を犯してしまった。
まだ、この星の調査を開始したばかりだったので、地下の情報までは手に入れていなかった。
そのため、街の地下が空洞になっていることに気づいていなかったのだ。
カズヤがテセウスを追いかけて王宮から飛び出した時、いったんは命令に従ってアリシアと国王を守るために立ち止まった。
しかし実際は、命令を無視してでもカズヤを追うべきだったのだ。
街の崩落が始まり、急いでウィーバーに乗って助けに向かうが、地面が崩落する方が先だった。
カズヤの姿を見つけた時には、すでに暗い穴に飲み込まれようとしていた。
ステラの手は宙をつかみ、カズヤの身体は穴の底へ落ちていく。
それでステラは諦めなかった。
瓦礫が降り注いでくるなか、呼びかけながら身体を掴もうと必死に降下した。
落ちてくる瓦礫がカズヤの身体にあたり、激しく損傷しているのがわかる。このまま地面に叩きつけられれば命が無いのは確実だった。
ステラやウィーバーも瓦礫の衝突を受け続けた。それでも、カズヤに向かって一直線に進んだ。
そして、穴の底に叩きつけられる直前。なんとかカズヤを確保した。
血だらけになった身体をしっかりと抱きしめる。
瓦礫の雨を浴びながらも、浮上することに成功した。そして、ステラは後ろを振り返ることなく宇宙船へと向かい、すぐに治療を開始した。
どうか生きていて欲しい。
ステラは、カズヤもこの世界も気に入っていた。二人の冒険はまだ始まったばかりだ。どうかまたひとりぼっちにしないで欲しい。
ステラは心の底から願った。
しかしカズヤの怪我は想像以上で、命に関わるほどの重傷だった。
ステラの治療の甲斐もなく、カズヤが目を覚ます気配はなかった――
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