表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/158

032話 戦闘

 

 兵士たちは国王やアリシアへ向かって武器を向けた。


「何をしている、そいつを捕まえるのだ!」


 しかし、兵士たちが動くことはない。武器をこちらに向けたまま、テセウスの指示をじっと待っている。



「この国で誰が一番偉いのか、まだわかっていないようだな。お前が反旗をひるがえした以上、この国の王は俺だ。アビスネビュラの指示を受けて動いている俺が、この場では一番偉いんだよ」


 馬鹿にするようにテセウスが笑う。


 国王に忠誠を誓ってきた近衛兵は、テセウスによって他の街に配置されてしまった。残っている近衛兵は、すべてテセウスの息がかかってしまっている。



「国王が使い物にならないのなら、この国の支配体制を大きく変更する必要がある。俺が一時的に代役でもやるしかないか……」


 テセウスは考えながら、二、三歩歩く。


 そして、ふと何かを思いついたようにアリシアを見た。



「俺が国王になるなら、お前を生かしておいた方が国民の支持を得られるかもしれんな。アリシアよ、俺の后になれ。せっかく見た目がいいのだから、殺すのはもったいないと思っていたところだ」


 テセウスが、アリシアを見ながら舌なめずりする。


「断ります。あなたの后になるくらいなら、死んだほうがましよ!」


「その気の強さがいつまで続くかな。あと何回崩落が起きれば、気持ちが変わるか試してやろうか?」


 テセウスの顔に貼りついていた微笑が消える。



「やめろ! 今回の崩落で、何千人もの人々が犠牲になったことがわかっているのか!?」


 カズヤもたまらず声をあげる。



「何人死のうと問題ではない。……さあ、アリシアよ、こっちへ来い」


「馬鹿なことを言わないで、何でも思い通りになると思ったら大間違いよ!」


 アリシアの厳しい表情は変わらない。


 手元から魔力で作られた炎が湧きあがる。テセウスの暴虐を、力ずくで止めようとしているのだ。



「ステラ、俺にもブラスターを貸してくれ。これ以上、奴の好き勝手にはさせない」


「ふん、たった二人で俺と戦おうというのか? 舐められたものだ」


 戦う意思を見せたアリシアに、カズヤも同調する。


 ステラはカズヤに、ブラスターをそっと手渡した。



 テセウスが強いのはバルザードの話からわかっている。


 でも、ここで立ち向かわなければ全てが奴の思惑通りになってしまう。絶対にやらせるわけにはいかない。



「……炎風爆烈旋ファイア・バースト!」


 密かに囁いていた詠唱が終わると、アリシアの手から大きな炎が唸りをあげる。


 腕を突き出すと同時に、閃光と炎がテセウスに襲いかかった。熱風が吹き荒れ、周囲の空気を焼き尽くす。



 だが、テセウスは微動だにしない。


 ニヤリと笑ったかと思うと片手を突き出す。


 着弾と同時に轟音が鳴り響き、巨大な炎がテセウスを包み込んだ。


 視界が真っ赤に染まる。



 ――炎が晴れた後に見えたのは、無傷のまま立つテセウスだった。



「なぜ、魔法が通用しないの!?」


 アリシアは目を見開き、驚きを隠せない。



「まあ魔術ギルドの魔法だと、こんな威力だろうな。これでもましな方だが」


「……いったい、どういう意味? ギルドの魔法が弱いとでもいうの!?」



「さあ? ただお前の研究は、常にギルドから危険視されているのを忘れるなよ」


 テセウスはあざけるような視線で、口元を歪ませる。



「喰らえッ!」


 テセウスがアリシアに気を取られている隙に、今度はカズヤのブラスターが閃光を放った。


 自動追尾のレーザー光線が標的をとらえる。



「オークを倒したときの武器か……」


 光線に気づいたテセウスは、カズヤの眼では捉えきれない程のスピードで避けていく。


 その背後を、何本もの光線が追いかける。


 逃げるテセウスを追い詰めると、部屋の隅で爆音が鳴り響いた。



「どうだ、直撃したぞ!」


 しかし、光線はテセウスの身体に触れると同時に、激しい音をたてて消滅した。


 アリシアのときと同じだ。とっさにテセウスが展開した魔法障壁で、光線が弾かれてしまったのだ。


「なるほど……遠目ではわからなかったが、これ程の魔導具とは驚きだ」


 テセウスは感心したようにブラスターを見つめる。



「くそ、まだだ……!」


 カズヤはブラスターを投げ捨て、拳を握りしめる。


 いつものようにアダプトスーツを着ている。ブラッドベアを圧倒した腕力なら、テセウスに通用するかもしれない。



「まだやるつもりか? 構えも知らない素人に何ができる」


 カズヤの手が少し震えている。


 戦闘経験の少なさを見抜いたテセウスが嘲笑する。



「お前の思い通りにはさせないぞ!」


 勇気を出して突進し、思いっきり右の拳を振りかぶった。



「ほう……速いな」


 テセウスの目が見開かれ、カズヤの拳が剣をかすめた。


 間一髪のところでかわしたテセウスは、よろめきながら足を踏みしめる。



「以前とは別人の動きだ。貴様、この短い期間に何をした?」


 背中を斬り捨てた時のカズヤとは、まったく違うことに気がついた。


 鋭い眼光がカズヤを射抜く。



「まあいい、それでも俺の相手にはならん。指示に従わなかったことを後悔するがいい、……死ねえっ!!」


 テセウスの剣がカズヤに襲いかかる。


「う、うわあっっっ!」


 必死に身をよじるが間に合わない。


 カズヤは身体ごと吹き飛ばされる。息ができないほど壁に強く叩きつけられた。



「ブ……ブラッドベアの一撃よりも重い、これが元Aランクの強さなのか……」


 カズヤの視界が揺れ、声がかすれる。


 ブラッドベアを楽に倒したアダプト・スーツだったが、テセウスには通用しない。


 カズヤの取れる攻撃手段は、他に思い当たらなかった。



「やはりお前は、あの時確実に殺しておくべきだった。とどめをさそうとした瞬間に崖に吸い込まれて姿を見失ったのだ。まさかこんな形で再び邪魔されるとはな!」


 テセウスは剣を握り直し、獲物を見定める猛獣のようにジリジリと近寄ってくる。


 離れていてもテセウスの殺気が伝わってくる。


 倒れ込んだカズヤに防ぐ手段はない。



「これで、終わりだ!」


 テセウスが大きく剣を振りかぶった。


 カズヤは思わず目をつぶる。



 ガシイイイッッッッ!!



 全身に受ける突風のような衝撃。


 だが、聞こえたのは自らを貫く音ではない。


 激しい金属音。


 テセウスの攻撃はカズヤまで届いていない。



 カズヤがそっと目を開けると、テセウスの剣は止まっている。



「……カズヤさんを傷つけるのは、私が許しませんよ」


 攻撃を片腕で受け止めたステラが、微動だにせず立っていた。



「ブラッドベアを倒した女か!」


 ステラの想像以上のスピードと腕力に、テセウスは驚愕する。



 たまらず剣を振り回すが、すでにステラの姿はそこにはない。


 かるくステップを踏み、軽やかに攻撃をかわす。


 素早い動きでスカートがふわりと舞い上がり、テセウスの剣が空を切る音だけが虚しく響いた。



「くそっ……!」


 自らの攻撃がステラに通じないことがわかると、テセウスは踵を返して逃げ出した。


 王の間を駆け抜け、重厚な扉を乱暴におし開けて外へ飛び出していく。


「逃がすか、テセウス!」


 すぐさまカズヤも後を追う。



「カズヤさん、待ってください!」


「俺はテセウスを追う! ステラはアリシアと国王を!」


 カズヤも扉の外へと駆け出した。



「気をつけてください! 簡単に逃げ出すなんて、何かおかしいです」


 しかしステラの警告は、カズヤの耳には届いていなかった。



 テセウスは王宮の門を軽々と飛び越えて、街の奥へと入っていく。


 カズヤもその後を全力で追いかける。



 だがしばらく走ると、テセウスは街の往来の真ん中で急に足を止めた。


「ははっ、まんまとおびき寄せられやがって!」


 こちらに向き直り、優越感に満ちた顔で笑う。


「街と共に沈め!」


 テセウスが、勝ち誇ったように言い放った。


 次の瞬間。



 ゴゴゴゴゴゴゴッッッ!!!!



 突然、激しい振動が街を震わせる。


「な、何だ!? ひょっとして……」


 カズヤの脳裏に、朝方の悪夢がよみがえった。


 読んで頂いてありがとうございます! 「面白かった」「続きが気になる」と思ってくださった方は、このページの下の『星評価☆☆☆☆☆→』や『ブックマークに追加』をして頂けると、新規投稿の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ