315話 最終章:エピローグⅡ
するとプラクトが近付いてきて、カズヤに耳打ちする。
「まさか本当にアビスネビュラを倒せるとは思っていませんでした。こんな口調ですが、シデンも心の底では飛び跳ねるほど喜んでいますよ」
「おい、プラクト。余計なことを言うな」
シデンは居心地悪そうにつぶやいた。
「まあ、小僧にしてはよくやったのじゃ。若を助けてくれたことは恩にきる」
珍しくゼーベマンがカズヤに感謝の言葉を口にする。
「カズヤさん、思いがけなく楽しい冒険でした。人間というのは本当に面白い種族ですね」
リオラがカズヤに向けて片目をつぶる。
「まだ戦後の処理が終わっていない。アビスネビュラ無き後の国家の仕組みを、もう一度組み立てねばならん」
シデンの眼差しは、すでにタシュバーン皇国の将来を見据えていた。
最後にカズヤは、アリシアとステラに話しかけた。
いつの間にかステラの腕は、いつもの情報処理型に戻っている。
「アリシア、ステラ。俺がここまで来れたのは二人のおかげだよ、本当にありがとう」
「ううん、感謝したいのはこっちの方よ。でもここからが新たな始まりね。二度とこんな戦いを生まないようにしなくちゃ」
アリシアの目は、この後の世界を見据えていた。
「別に感謝なんていりませんよ、これが私の務めですから。でもマスターにしては頑張った方だと思いますよ、ちょっとだけ格好よかったです」
いつもの調子のステラに、カズヤの口元がふっと緩む。
「アビスネビュラを倒すのは本当に大変だったな。これで社会がいい方向に変わって欲しいんだけど」
「そうね、でも自立するには思ったより時間がかかると思うわ」
カズヤの問いかけにアリシアが答える。
たとえ支配や管理が無くなったとしても、自分たちだけで考えて生きていけるかは別問題だ。強大な力に甘えて依存していた部分もあるからだ。
時間をかけながら、最適な方法を模索していくしかないのだろう。
「それよりサルヴィア教はどうするの? こんな男が神様だって知ったら混乱が起きちゃうわ」
アリシアが国民への影響を懸念する。
「まあ、無理してゼイオンのことを教える必要は無いんじゃないかな。信じる気持ちは個人的なものだから。異変を察知して変わるもよし、今まで通り続けるもよし。必要があればゆっくりと変わっていくんじゃないかな」
カズヤの方法が採用されるかは分からないが、強権を発動してまでサルヴィア教を無くすつもりはなかった。
誰もが600年前の出来事を知らずに純粋に信じている。幸せに生きられるのなら、わざわざバラす必要もないだろう。
「他のギルドはどうしたらいいかしら?」
「本来の働きに戻ってもらうのがいいと思うけど……。商業ギルドはどうしようか」
「行き過ぎた経済活動を監視する組織は必要です。ただ物を所有する概念が無くならない限り、独占しようとする者は必ず現れます」
過去の人間同士の争いを熟知しているステラが見解を述べる。
「共有するのが大事ってことか? でも、いきなり皆の物と言われても納得できるかなあ。結局、奪おうとする者が出てきそうだけど」
「難しく考えなくても、まずは余った物をみんなで分ければいいのです。そうすれば無理をしなくても自然と変わっていくはずです」
経済そのものを変えると言われると難しいが、余った物を分けるくらいならできそうだ。
ステラが知っているということは、そんな暮らしをしている人類がどこか遠い星にいるのかもしれない。
「冒険者ギルドや魔術ギルドはどうしようか。強大な力を管理する必要はあるかもしれないけど、この世界には魔物がいるしな。そもそも戦争って無くすことはできるのか?」
「人間同士のいさかいがある限り、争いは無くならないと思うの。でも、その時握りしめているのが、素手なのか武器なのかで結果は変わってくるはずよ」
アリシアが現実的な例えを使って説明する。
「いきなり無くそうとしないで、ちょっとずつ友だちを増やせばいいんじゃない? 世界中に友だちができれば、戦争しようなんて気持ちは起きないと思うから」
アリシアの言葉に、カズヤはうなずいた。
いきなり人間同士の争いを無くすことは出来ないと思うが、大きな争いにしないことは出来るような気がする。
冒険者ギルドは、冒険者の活動に協力する本来の活動に戻せばいい。
職人ギルドは有益な技術をゆっくり導入してもらい、商人ギルドは経済活動を監視する本来の健全な組織に戻す。
「魔術ギルドはどうするの? ジェダのせいで一番扱いが難しいと思うんだけど……」
「それに関しては、いい考えがあるんだ。リナに王妃と兼任してもらうのはどうかな? かつて幹部だったリナなら、悪いようにはならないと思うんだ」
「お母様が!? 意外だけど確かにいい考えかも……」
アデリーナは、ジェダとの対立によって魔術ギルドから離れた。
そんなリナなら、新しい魔術ギルドの在り方を模索してくれると思ったのだ。
そして最後にカズヤは、ずっと心で温めてきた考えを二人に伝えた。
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