314話 最終章:エピローグⅠ
「くそ……マグロス、私を助けろ!!」
マグロスは予想もしない言葉を口にした。
「やれやれ、ゼイオン。まだ気が付いてないのですか? あなたの私への支配権はすでに解かれています。どうやらクインがクライシス・モード《危急情勢》を解除したようですね。もはや私があなたを助ける義理はないんですよ」
クインが惑星イゼリアで、宇宙船のクライシス・モード《危急情勢》の解除に成功していたのだ。
ゼイオンはついに、マグロスにまで見放された。
「くそ、くそっ、くそぉ……!! この私が敗北するなんて……!」
全てを失ったゼイオンが、地団太を踏んで悔しがる。
「このままお前をパーセルに引き渡すだけでは、何百年も被害にあった人々が浮かばれない。この腕には、お前にちょうどいい機能があるんだよ」
アビスネビュラの600年間の愚行を振り返ると、引き渡すだけでは許されるとは思えない。
とカズヤは右腕をゼイオンに突き出した。
「今までに自分が何をやってきたのか、身をもって思い知るといい。……ミラージュビジョン《幻影虚像》!」
カズヤが奇術師の腕を発動させる。
パーセルから聞いていた幻術の機能だ。
今までアビスネビュラとゼイオンが行なってきた悪行の数々を、映像と感覚で疑似体験させる。
「ぐああああっっっっっっ!!」
戦争、飢餓、人身売買、虐殺、拷問、奴隷、強制労働、差別……。
アビスネビュラが行なってきた数えきれないほどの残虐な仕打ちを、今度は被害者の立場として体験させる。
映像だけでなく音声や痛み、苦しみや匂いまでをも模倣する。
臨場感をともなった仮想現実だ。
「お前が心の底から後悔するまで、ずっと見せ続けてやるよ。お前はザイノイドだからいつまでも見ていられるよな」
カズヤは、うずくまって苦しむゼイオンを拘束する。
ついに、アビスネビュラ第1階級――サルヴィア神を僭称するゼイオンを捕まえたのだ。
続いてカズヤはマグロスの元へと歩いていく。
マグロスは平然とした顔で、カズヤと向き合う。
「みっともなく命乞いをするつもりはありませんよ。私がクライシス・モード《危急情勢》でゼイオンの命令に逆らえなかったのは事実です。しかし、富の収奪という極上のゲームを楽しんでいたのは事実ですから」
悪びれる様子は全くない。
「この場で私を破壊しますか? あなたたちには武力では敵いませんから、好きにしてください」
降参するように両手をあげる。
「いまはお前の処遇まで考えられない。とにかく勝手なことをしないように拘束する。大人しくしてろよ」
マグロスは抵抗することなく、手枷を付けられるのだった。
*
すべての戦いが終わったことを確認すると、パーセルの宇宙船が桜月市郊外の山へと降りてきた。
カズヤは、ゼイオンとマグロスの身柄をパーセルに引き渡す。
父親の仇を見つめるパーセルの眼差しは厳しかった。
「ゼイオン。何百年逃げようとも、我が父子の手からは逃げられなかったな。600年間のお前の罪を、きれいに清算する時が来たのだ」
パーセルが宇宙船の独房にゼイオンを閉じ込める。
これでアビスネビュラは崩壊するはずだ。惑星イゼリアを支配していた不当な経済支配や戦争は、少しずつ無くなっていくのだ。
みんなは戦いで傷ついた心と身体を気遣うように声をかけ合った。お互いをいたわり合うような、平和であたたかな時間が流れる。
カズヤは近くにたたずむフォンに声をかけた。
フォンはいつもと変わらない飄々とした様子で、左手にはすでに新たな本が握られている。
「お疲れ様、無事に終われたのはフォンのおかげだよ。今後のハルベルトのことも頼んだよ」
新しい統治体制が固まっていないハルベルト帝国には、まだまだたくさんの課題が山積みになっているはずだ。
「いえいえ、とんでもないですよ。ハルベルトは国家としてはまだ生まれたてです。巨大な軍事国家ほど戦争が無くなると、軍事力を持て余して自滅すると歴史の図書館が教えてくれています。ゆっくりと規模を縮小して、平和な国家へ変わっていきますよ」
フォンの口元にわずかに笑みが浮かぶ。
控えめな仕草だが、女性のような美しさがより際立つ。
ドキリとしたカズヤは思わず目を逸らしてしまった。
「カズヤ、お前がいなきゃ勝てなかったぜ。姫さんも無事だったし言うことねえよ」
バルザードは今までの緊張がとけたかのように、見るからにホッとしていた。
「さて帰ろうか。腹いっぱい食って、ひと眠りしたい気分だぜ」
ニヤリと笑うと、拳で軽くカズヤの肩を叩く。
しばらくして、黒耀の翼がカズヤの元に歩み寄ってくる。
「カズヤ、この勝利に感謝する。これでイグドラにも、苦しませてしまった民たちにも示しが付く」
シデンは満足げにうなずいた。
するとプラクトが近付いてきて、カズヤに耳打ちした。
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