312話 増援
「に、二体目だって……!?」
カズヤたちは呆然として立ち尽くし、足が止まる。
その中で一人だけ、冷静に状況を判断して動き出す者がいた。
「カズヤさん、二体そろったら危険ですよ。まずは最初の奴から片づけましょう」
飄々とした声で最初に動き出したのは、戦闘経験豊富なフォンだった。
女性のような美しい柔和な表情はそのままに、敵の死角へと踊り出る。
フォンは電磁ブレードの出力を最大まで上げて攻撃を放つ。
「随分身体は丈夫みたいですね。まともに攻撃なんかしませんよ」
狙いはゴルドヴァイスではなく、足元の地面だ。
フォンの一撃は地面をえぐり取る。
木々をなぎ倒し岩石をはねのけながら、土砂を吹き飛ばしていく。剣聖の渾身の一撃は地形すら変えてしまった。
ゴルドヴァイスの左脚の地面が消え去り、深い窪地に変わる。
急に足場を無くしたゴルドヴァイスは、支えを失ってよろめきだす。
その隙をバルザードが見逃さなかった。
「どんな相手だって、攻め続けるしかねえさ。ボルトブリンガー《暴雷槍撃》!!」
バルザードがゴルドヴァイスの左足首の腱をねらう。
ガアアアアアッッッッッ……!!
急所を傷つけられたゴルドヴァイスが、思わずうめき声をあげる。
裂けた大地に足を取られると、身体が大きく左に傾いた。
次の瞬間。ステラが足元へと飛び込んだ。
ゴルドヴァイスの身体を支える左脚をつかむと、渾身の力をふり絞って持ち上げた。
「こんな身体になって……マスターに嫌われたらどうしてくれるのよ!!」
フォンが作った穴へと投げ飛ばす。
ゴルドヴァイスは態勢を崩し、激しい地響きを立てて大地にくずれ落ちた。
「……姫さん!」
ゴルドヴァイスが倒れるやいなや、アリシアが飛び込んだ。
アリシアの狙いはゴルドヴァイスの頭部だ。
のたうち回って地面に横たわり、ゴルドヴァイスが振り回す腕をバルザードが払いのけて援護する。
「知らない星に連れてこられて可哀そうだけど、暴れられたら困るのよ。ディス・ラプション《粒子崩壊魔法》!!」
暴れまわる腕の隙間からゴルドヴァイスの頭部に触れた瞬間、渾身の魔法が炸裂する。
ノヴァコラプス《星界破壊弾》すら消滅させた、とっておきの魔法だ。
二度目の実戦ともなると、以前よりも遥かに速いスピードで魔法が広がっていく。
グガアアアアアッッッッッ……!!
ゴルドヴァイスの頭にアリシアが触れた部分が、跡形もなく消え去っていく。頭頂部が消え失せたかと思うと、目から鼻、口へと次々無くなっていく。
頭がすっかり消滅した時には、完全に活動を停止していた。
あのゴルドヴァイスを何とか倒すことができたのだ。
「……油断するな、二体目が来るぞ!」
カズヤが、ゴルドヴァイスを倒して放心状態のアリシアたちに向かって声を出す。
一体目を倒して息をつく間もなく、二体目のゴルドヴァイスがすぐ間近に迫ってきていた。
<……カズヤ殿、支援します。至急そこから離れてください>
その時、カズヤの内部通信にパーセルから連絡が入った。上空を見上げると、きらりと光るものが見える。
「みんな、この場を離れるんだ! 衛星攻撃だ!」
警告するカズヤの叫び声が響くやいなや、ゴルドヴァイス目掛けて天から落雷のようなレーザー光線が降り注いだ。
軍事衛星の攻撃だ。
レオたち戦闘型ザイノイドが、ゼイオンの軍事衛星の奪取に成功したのだ。
敵の攻撃兵器を逆手にとって、パーセルの反撃が始まった。
空の裂け目から現れた光の矢が、豪雨のごとく次々と地面に突き刺さる。その爆発は大気と山々を震わせた。
突然の天からの攻撃に、ゴルドヴァイスは頭を押さえて立ちすくんでいる。
「このチャンスは逃さないぞ。グラビティ・コマンド《重力操作》!」
カズヤはゴルドヴァイスの真っ赤な両目を狙って重力攻撃を放った。
目を潰すように、両手を思いっきり握り締める。
ギャアアアアアッッッ!!
両目を潰されたゴルドヴァイスが、空が裂けるほどの叫び声をあげる。
「……異形の怪物よ、異邦の地で滅びるがいい。アビリティブースト《体術増幅》!!」
能力増強魔法を使うと、シデンの全身が光に包まれる。
光り輝くシデンはゴルドヴァイスの左腕を狙って剣を振るった。鋭利な魔法剣はゴルドヴァイスの肘から下を吹き飛ばす。
さらなる叫び声が嵐のように空気を震わせる。
痛みに我を忘れたゴルドヴァイスは、山をも砕く膂力と地を裂く腕力で暴れまわった。
その腕の一振りは崖崩れを起こすほどの威力だったが、闇雲に手足を振り回すばかりでカズヤには届かない。
一体目の時に作った大穴に足をとられると、盛大な地響きをたてて仰向けに倒れた。
激痛に呑まれたゴルドヴァイスは、最後の一撃を狙うカズヤに気付いていなかった。
「これで……終わりだぁ!!」
奇術師の力で空高く飛びあがると、首を目掛けてプラズマブレードを叩きつける。
光り輝く剣閃を、魔物の首元におし込んだ。
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