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031話 テセウスの本性

 

 テセウスがひとりで部屋の中に入ってきた。



「テセウス、あなたどこにいたの!? バルザードが探していたのに」


「あんな奴に見つかるはずがないだろう。腕だけは立つから、囮を使って遠くへ誘導しておいた」


 テセウスの態度が別人のように変わっていた。


 敬語を使わずに不遜な様子を隠そうともしていない。



「この崩落はお前がやったのだな!?」


 国王はテセウスに向かって問い詰める。


「言ったはずだぞ、国王よ。民の命は俺が握っていると。大人しく上納金を増やし、出兵していれば良かったのだ。この崩落は全てを拒否したお前の責任だぞ」


 まるで国王を臣下として扱うかのような言い草だ。



「おい、お前がそのアビスネビュラとかいうやつなのか!?」


「俺はただの末端のひとりだ。この国を支配する権限くらいはもらっているがな」


 カズヤの問いかけに、テセウスは顔色一つ変えずに答える。


 国王を前にして、こんなことを言ってのけるのか。



「せっかく俺が忠告したのに、お前は聞かなかった。そのせいで、国民が狙われることになったのだぞ」


 そう言ってテセウスは、アリシアとカズヤの方を見る。



「出兵しなかった代わりに私の命が狙われたっていうことね。捜索中に私がひとりになってブラッドベアに襲われたのも計画通りかしら」


「うまくいっていたはずが、こいつが邪魔したのだ。お前には私の邪魔をしないように警告したはずだがな」


 テセウスがカズヤを見る。



「冗談じゃない……!」


 自分たちの思い通りにならなかった責任を、こちらが背負う必要などまったくない。そもそも勝手な理屈で人の命を奪うこと自体が許されないのだ。



「その後、私がブラッドベアやオークの群れに襲われたり王宮で襲われたのも、お父様が出兵を断った報復なのね」


「そうだ。しかし、全てが妨害されてしまったので、代わりにこの街の住民が犠牲になったのだ」



 テセウスは国王の前に向き直る。


「どうだ国王よ、大人しく出兵する気になったか?」


「税を重くして苦しむのは民だ。戦争に加担して前線で苦しむのは兵士だろう。お前らの要求は到底呑めるものではないのだぞ!」



 厳しい目つきで、国王はテセウスを見返す。


 国王も決して望んで従っているわけではない。


 王都追放になったカズヤの処分が比較的軽かったのも、テセウスを信用していなかったからに違いない。



「お前たちが民や兵士を心配する必要はない。こちらの指示を実行するだけでいい。これだけの被害が出れば、さすがに目が覚めたか? 指示に従ってゴンドアナ王国への出兵を決定しろ。そして税と魔石を全て俺たちに差し出すのだ!」


 昔から問答無用で命令をきかせてきたのだろう。


 自分たちの横暴さに気がついてもいない。これが奴らのやり方なのだ。



 いっときはテセウスを、アリシアに敵対する貴族か何かの手先だと疑っていた。


 しかし、そんなレベルの相手ではなかった。敵は国家をも上回る存在だったのだ。


 テセウスがカズヤやアリシアを襲ってきた理由も、この国が貧しい原因も、全ては背後にある、このアビスネビュラとかいう組織にある。



「それならなぜ、農産物を増やすことすら許可しないんだ? より多くの税金を取りたいなら、国民が豊かになった方がいいじゃないか!」


「豊かで自由な人間は反抗しやすく邪魔になる。生かさず殺さず、明日の生活に怯える民ほど支配しやすい……まあ、俺は金をぶんどる方が好きだがな」


  カズヤの追及を受けても、テセウスは不敵に笑う。


 自分たちがお金を取るだけではなく、支配しやすくするために国民を貧しくする。あまりに高慢な考え方に、カズヤは怒りをおさえきれない。



「そんな理由なら、お前らが堂々と国を支配すればいいだけだろう。卑怯な手を使って裏からコソコソしやがって!」


「裏からの方が楽だからだ。暴動や批判を受けて失脚しても、また新たな役者に変えればいいだけだからな」


 やれやれといった態度で、テセウスは両手を広げた。



「哀れな羊どもは、黙って指示に従っていればいい。無知な者たちには、我々のような導く者が必要だからだ」


(この男、絶対に許しておけない!)


 カズヤは怒りのあまり、目の前が真っ赤になった。



 テセウスを打倒することが目標だった。


 それは自分を襲ったことに対する反撃の意味もある。


 アリシアはエルトベルクを豊かにすることを目指しているが、背後にいる組織が邪魔をしている。


 テセウスの野望を阻止することが、すべての解決の鍵なのだ。



 会話を黙って聞いていた国王が、カッと目を見開いてテセウスを睨みつけた。


「これまでは国民の命を人質にされ、お前たちに従わざるを得なかった。しかし、平気で民を殺すお前らのやり方に、これ以上我慢できん。今後お前らに従うことは金輪際ない。二度と儂らの前に姿を見せるな!」


 力強い言葉で国王は言い切った。



「…いいのか? この国が無くなるぞ」


「お前らに従っても、どうせ搾取されるか殺されるだけだ。今回の崩落で、どれだけの市民が犠牲になったのかわかっているのか!」


 国王はテセウスやアビスネビュラとの決別をはっきりと宣言した。



「仕方ない、貴様がこれほどまでに聞き分けが悪いとは思わなかった。俺の指示に従えないなら、国王を変えるしかないな」


「テセウス、これ以上市民の命を奪うことは許さんぞ! 兵士よ、こいつを捕らえろ!」



 テセウスの勝手な言い分に、ついに国王は我慢ができなくなった。部屋の外に控えていた兵士たちに指示を出すと、王の間へ流れ込んでくる。


 しかし、様子がおかしい。


 兵士がテセウスの方へ駆け出していったかと思えば、なんと国王やアリシアへ向かって武器を向けたのだ。


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