302話 アビスドーム
地球でも見られないほど発達した、先進的な未来都市が広がっていた。
1km四方ほどの広さに、ガラス張りの革新的な形状の建物がひしめきあっている。
曲線的なデザインの建築物は光を反射する透明な金属で作られていて、鏡のように周囲の景色を映しだしていた。
道路は空中に浮かんだ透き通った素材でできていて、その下を美しい水が流れている。滝のように流れ落ちると公園の噴水へとつながっていた。
道路の両脇には樹木が植えられていて、都市のなかに森が広がっている。
想像を上回る未来都市が、突如として目の前に現れた。
カズヤの背後にある聖都の街並みは、2階建ての木造や石造りの建物が立ち並ぶ居住区だ。普段見かける街並みとのギャップに、脳が処理しきれないほどの違和感がある。
ただ一人、この未来都市の存在を知っていたクインだけは冷静だった。
「これがサルヴィアの本当の姿です。住んでいるのはゼイオンを信奉する貴族と上級聖職者、上級騎士団だけです」
そんな人間たちだからこそ、すでに避難したのだろう。やはりここでも街を歩く人の姿は見えない。
「あ、あれは……!」
カズヤが指さす未来都市の端には、巨大な砲身をもつ魔導兵器が幾つも備えられていた。
これが以前、デルネクス人の宇宙船を狙った兵器だろう。
300年前のステラやラグナマダラの時に存在していた物かは分からない。しかしパーセルたちが来た時に、宇宙船を狙っていた兵器なのは間違いなかった。
クインが先頭を歩いて未来都市の案内をしてくれる。
「この街にゼイオンがいるのか?」
「あの建物の中にいるのは間違いないと思います」
クインが見つめる先には、巨大なドーム型の建物がそびえ立っていた。
*
ゼイオンがいるというドーム状の建物は、日本にあるドーム球場の半分くらいの大きさがある。
少なくとも一人の人間が住むには大き過ぎる建造物だ。
「あのドーム状の建物はアビスと呼ばれていて、この都市の中で最も安全な場所なのです」
「あれもクインが作ったのか!?」
「はい、攻撃兵器アトモスと対をなす防御兵器です。あの中にいる限り、どのような攻撃も通用しません」
職人ギルド総帥ともなると、この辺りの建設には全て関わっているようだ。少しだけ誇らしげに聞こえるのも、無理ないのかもしれない。
ドームの入り口らしき場所に来ると、クインが振り返る。
「この建物の中は、ゼイオンを守る為のあらゆる兵器が仕込まれています。ゼイオンがこの建物から出てくることは考えられないため、会う為には中に入るしかありません。どうしますか?」
クインの説明を聞いて、カズヤは一瞬だけ立ち止まる。
「少しでもいいから、こいつを外から破壊することは出来ないのか?」
「この星の武器では不可能だと思います。この都市に備えられているあの魔導兵器で攻撃しても、びくともしません」
クインは未来都市の端にある、先ほどの魔導兵器を指さした。
宇宙船を落とすほど威力がある攻撃を、この近距離から放っても壊せないならどうしようもない。
「カズヤ、ちゃっちゃっと入ろうぜ! やばくなったら逃げればいいだろ」
やる気満々のバルザードが急かしてくる。
確かにそうだ。
進まないことにはゼイオンを捕まえられない。ここまで来て敵前逃亡することは考えられない。
「よう、こんな所で何を立ち止まっているんだ?」
カズヤがドームの中に入る覚悟を決めたとき、ちょうど後ろからレオたち5人の戦闘型ザイノイドが近付いてきた。
「敵の騎士団は敗走したから、後ろの人間たちに任せてきたぜ。仲間を殺して600年も生きているっていう奴の顔を、俺たちにも拝ませてくれよ」
レオたちが立ち止まる様子はない。
彼らからすれば、そもそもゼイオンを捕らえるのは自分たちの任務だ。カズヤたちだけに任せておけないのだろう。
思いがけず力強い仲間が増えた。
カズヤはアリシアと頷き合うと、ドームの中へと入っていった。
せまい通路を抜けると、突然広い空間に出る。
球場のような広々としたスペースに高い天井。まるで野球選手にでもなったかのような気分だ。
警戒しながら天井を見上げると、いくつもの砲台がカズヤたちの動きに合わせて付いてくるのが見える。壁にはブラスターの銃身が埋め込まれていた。
足下の地面には魔法陣のような紋様が幾つも描かれていて、どんな効力を持っているのか想像もつかない。
備えが万全なのがうかがえた。
そして巨大なドームの中央に、2人の男性が立っているのが見える。
そのうちの一人はよく知っていて見たくもない男だ。すました顔でこちらを見ている。
戦争の最中に敵味方に武器を売りつけて荒稼ぎをたくらみ、日本では別動隊を指揮して騒動を巻き起こした男。
商業ギルド総帥のマグロスだった。
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