299話 タワー
「ジェダが恐れていたゼイオンの攻撃方法について、何か知らないか?」
最後にカズヤは、一番気になっていたことをクインに尋ねる。
「申し訳ありませんが私には分かりません。戦闘に関しては戦闘型のルガンとジェダにしか知らされていないのです」
「やっぱり、そうだろうと思ったよ。全容を把握しているのはゼイオン一人だけなんだな」
命令に逆らえないはずのザイノイドにすら全てを伝えていない。
おそらくゼイオンはジェダのような反乱を恐れて、情報をバラバラに伝えている。全体像を把握しているザイノイドはいないはずだ。
「ゼイオンは戦闘型ザイノイドすら信用しないんだな」
カズヤはパーセルが身柄を引き取る前に、最後にルガンと話したことを思い出した。
*
「ルガン、お前は本当にゼイオンの命令に心から従っているのか?」
「それを判断するのは俺の役割ではない。正しい指示が飛んでいると信じて、命令された任務を実行するだけだ」
戦闘型ザイノイドの悲哀だった。
どんな意思や感情を持っていても、戦場では命令に従うしかない。ルガンが判断を諦めたことを批判する気にはなれなかった。
「アビスネビュラの指示は確実に間違っているぞ。それはお前も気付いているんだろう?」
「気付いたとしても、逆らえないのだから従うしかない。結果は何も変わらない」
「ルガン、カズヤさんがゼイオンを倒せば抜け出せるんですよ。600年間の縛りから自由になれるんです」
クインが会話の横から入ってくる。
「自由とはいったい何だ? 自由なら人を殺すことも自由だと言うのか」
「言ってることが極端なんだよ。お前のやりたいことは人を傷つけることだけなのか?」
「いや、違うと思う。だが俺には自由というものが想像できない。自分がやりたいことなど考えたこともない。何も、何も分からないのだ……」
言葉を絞り出すと、ルガンは押し黙る。
このような質問を今まで考えたこともなかったのだろう。ゼイオンの支配から解放されれば、落ち着いて自らの気持ちを考える時間ができるかもしれない。
捕らえられたルガンは、一人で静かにたたずむだけだった。
意見を交換し終えると、カズヤたちは日の出が上ってくる方向を静かに見つめていた。
空が徐々に白んでくる。
アビスネビュラとの決戦の日が、いよいよ始まったのだ。
*
決戦の日の早朝。
連合軍の兵士たちは、黒龍ラグナマダラの訪問で目を覚ました。30mを超す漆黒の体躯から神々しいほどの威容があふれている。
つい最近まで暴れまわっていたラグナマダラを知る兵士は、恐ろしさのあまり立ち上がることすら出来ない。
『青髪の妖精から話は聞いた。あの円盤が現れる可能性が高いのだな?』
「ああ、もう少し聖都に近付けば迎撃してくるはずだ。作戦通りにはいかないかもしれないけど、頼んだぞ」
『一瞬でいいのだ。わずかな間でも奴の動きを止めることが出来れば、決して逃がしはせん』
アトモスのことを想像するだけで、ラグナマダラは覚えず口の端から唸り声がもれる。
「よし、軍を進めよう」
その間も、カズヤたちは一足先に先行して進んでいた。
兵士が対応できないほどの強い敵は、カズヤたちが引き受けなければいけないからだ。
しかし、すでにサルヴィア軍の主力が敗れているせいか、国境を越えてからの戦闘はほとんどない。
連合軍の進撃は順調に進んだ。
やがてサルヴィアの聖都が視界に入ってくる。
「……あっ、あれを見て!」
前方を見ていたアリシアが大きな声をあげる。
カズヤもアリシアが何を言いたいのかすぐに気付いた。
遠くからでも見えていた、禁足地を守るための緑色の巨大な魔法障壁が無くなっているのだ。
アリシアの研究成果がここでも発揮されていた。サルヴィア領全体で魔法が使えなくなったことで、魔法障壁も無くなったのだ。
そして、その魔法障壁が無くなった後の様子を見てカズヤは言葉を失った。
そこには異様な光景が現れている。
魔法障壁があった場所に、何本もの巨大な塔が姿を現していた。
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