295話 研究実践
「戦闘型ザイノイドの強制力など、魔法の力でとうの昔に外しておるわ!」
カズヤたちに戦慄が走る。
ジェダは戦闘型ザイノイドでありながら、命令に反した行動ができるのか。
クライシス・モード《危急情勢》の制約すらも自力で逃れている。
ジェダが魔術ギルドの総帥になったのは、これが目的だったのだ。
「じゃあ、お前はなぜアビスネビュラの命令に従っているんだ!?」
「別にあいつの命令に従っているつもりはない。私がやろうとしていることと、あいつの指示が近いだけだ。魔術ギルドの力でこの世界を支配する――私がやるに値する、ふさわしい宿命だろう?」
ジェダがにやりと笑う。
なんて奴だ。
ジェダはゼイオンの命令に従っていた訳ではない。
自らの支配欲と合致していたから、ゼイオンと共に行動していただけなのだ。
「お前が支配から外れていることに、ゼイオンは分かっているのか!?」
「あの男は気付いて無いだろうな。だが面と向かって逆らうつもりはない。なにせあいつには、恐ろしい手段があるからな……」
ジェダといえども、ゼイオンには大っぴらに反抗できないのか。
そのうえ警戒するほどの攻撃手段をゼイオンは持っている。
「どんな理由であれ、魔術ギルドの邪魔をしたお前たちを許すつもりはないぞ!」
ジェダが両手を広げて戦闘の構えに入る。
こいつは魔法だけでなく、近距離の格闘も強い。
「ステラ、クイン。周りの魔法使いたちを任せた。ジェダは俺たちでやる」
「分かりました」
頷いたステラとクインは、その場から飛び出すと周囲の魔法使いに攻撃を始める。
「シデン、まだいけるか?」
「当然だ、奴にイグドラの借りを返してやる。アビリティブースト《体術増幅》!」
自らの能力値を最大まで引き上げる強化魔法だ。
シデンの身体がかすかな光に包まれる。
「何を相談している。さあ、かかってこい!」
ジェダの両手に巨大な炎が現れると、カズヤとシデンを目掛けて飛んでくる。
二人はすんでのところで横にかわす。
続いてジェダが両手を広げると、空中に氷の槍が次々と生み出された。
カズヤとシデンに向かって間断なく降りそそぐ。
二人は巧みにかわすが、落ちた地面が瞬時に氷で覆われて足をとられる。
「どうした、その程度か!?」
ジェダが両手を天に向かって伸ばすと、今度は空から幾つもの雷が落ちてきた。
カズヤとシデンは、電磁シールドを展開して片手で防ぐ。
雷が収まった瞬間、いっきに距離を詰めたシデンが横払いに剣を振るう。
しかしジェダの腕から魔法で作られた剣が伸びてくると、落ち着いてシデンの攻撃を受け止めた。
ジェダは、まさに魔法使いの化け物だ。
魔法の詠唱から発動まで一切時間差が無い。一つ一つの魔法の威力が大きく、なかなか距離を詰められない。
近付いたとしても、一流剣士並みの剣術と体術を持っている。
残忍な性格まで考えると、ルガンよりも強敵だった。
ジェダの強烈な攻撃に、カズヤたちは防戦一方になる。
しかしその時、戦場に大きな変化が訪れた。
ジェダの周りにいた配下の魔法使いたちから、立て続けに悲鳴があがったのだ。
「……な、なんだ魔法が使えなくなったぞ!?」
「魔法が発動しない。紋様が……紋様が現れないぞ」
突如として、サルヴィア軍の魔法が使えなくなったのだ。
*
カズヤと別れたあとアリシアとバルザードは、ハルベルト帝国の首都を走っていた。
行き先は魔石を保管してある王宮だ。
「姫さん、その魔法にはどのくらい時間がかかるんです?」
「魔法契約を移すのには少し時間がかかると思うわ。その後の情報を書き換える作業はあっという間なんだけど」
二人が王宮に到着すると、魔石がある部屋に飛び込んだ。
アリシアはすぐさま魔石の前で呪文の準備をする。
魔法が向けられる対象は、魔術ギルド本部にあるアルカナ・ストーンだ。
「……それじゃあ、始めるわよ!」
アリシアの魔法ハッキングが始まった。
静かな声で呪文が詠唱されると、アリシアの身体から微かな光が放たれ始める。
その光は徐々に強くなっていき、アリシアを中心に小さな光の渦を作り出した。
意識を集中すると空っぽだった目の前の魔石に、不思議な紋様が浮かび上がってくる。
バルザードが近付いてよく見ると、その紋様は小さく書かれた文字だった。
どこからともなく漂ってきた無数の魔法の文字が、引き寄せられるように巨大な魔石に吸い込まれていく。
それは幻想的な美しさだった。
魔術ギルド本部のアルカナ・ストーンに刻まれていた何万人もの魔法契約が、この魔石へと移ってきているのだ。
青や緑に輝く膨大な量の文字が、回転しながら踊るように魔石に飛び込んでいく。
いつ終わるとも分からない大量の文字が、次から次へと現れては消えていく。
やがて、魔石の中が文字であふれ始めた。
魔石の周りを漂う文字の数もだんだんと減ってくる。
光の渦が静かに消えると、部屋は再び静寂を取り戻した。
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