029話 国家元首の暴露
国王は明らかに動揺している様子が見て取れた。
昨日の冷静さは失われていて、顔面が蒼白になっている。
「お父様、状況は把握されてますか!? 住人の救助はどうしますか」
「ああ、これは私のせいなのだ……! テセウスへの追及を止めなかったばかりに……」
アリシアは指示を求めるが、国王はうわ言のような言葉を吐くばかりで要領を得ない。
「お父様、どうしたのですか? すぐに穴の底へ救助を出さなければ」
いつもと違う国王の様子にアリシアも戸惑った。
「カズヤさん、緊急の報告があります!」
「ステラ、いきなりどうしたんだ? 今でなきゃ駄目なのか」
「後には出来ません。ここにいる全員の安全のためです」
ステラが突然、話の途中に割って入ってくる。
緊迫した表情だ。
「衛星からの情報を分析したのですが、この街全域の地下が大きな空洞になっています。この城も空洞の上に建っています。すぐにここから避難してください」
「えっ、何だって!?」
カズヤに寒気が走る。
街全体が空洞の上……。この王宮の地下も巨大な空洞になっているというのか。
「F.A.《フライトアングラー》とバグボット達を、すぐに穴の底におろしました。映像を見る限り、そもそもこの街全体が薄い地表で支えられているだけのようです。何かの衝撃で、いつ更に崩壊してもおかしくありません」
自分の足元が巨大な空洞になっていて、その薄皮一枚の地面の上に立っている……。
そう考えると急にカズヤの足が震えてきた。
足がすくみ、地面に立つ力が失われていく。
この街に入ったときに、ステラが感じていた足下の違和感とはこのことだったのか。
「残念ながら、地下に落ちた人たちの生存は期待できません。穴の深さは100m以上あり、落下の衝撃に耐えるのは不可能です」
絶望的な結果に、全員がその場に立ち尽くす。
「奴らの言っていたことは本当だったのだ! 奴らの命令に大人しく従っておけば、こんなことは起きなかったのだ……!」
話を聞いた国王は、さらに取り乱した。
「お父様、落ち着いてください。奴らってだれですか!?」
話が見えてこない国王に対して、アリシアが厳しい口調で尋ねる。
アリシアの叱責をうけて、国王は若干の冷静さを取り戻す。
「……アリシア、お前がこの国を継ぐ時がきたら伝えるつもりだったが、そんなことを言っている場合では無さそうだ。今すぐにお前が知っておかなければいけないことがある」
国王はアリシアの目を見ながら、声のトーンを落とした。
「しかし、これはこの国の根幹に関わる重大なことだ。他の者たちの前で奴らの話をするわけにはいかない」
国王は、カズヤとステラを見て目で退室を促してくる。
話をするだけでも恐ろしいことのように国王の声は震えていた。
しかし、そんな国王の様子を意に介さず、ステラが国王に向かって話しかけた。
「奴らって、地面を壊して崩落させた人たちのことですか? 彼らはまだ穴の下で爆弾のような物をしかけていて、いつでも爆破できる準備をしていますけど」
「何だと! なぜお主はそんなことまでわかるのだ!?」
予想外の発言に国王は戸惑いを隠せない。
ステラの情報は、一般人には到底知り得ないはずのことだ。
「バグボットが、穴の下にいる不審な人物たちを捉えています。彼らが全てを爆破すれば、街全体を一気に崩落させることもできるでしょう」
国王は言葉を失い、固まってしまう。
しばらくして、国王はおもいつめた表情でアリシアの方へ向き直った。
「そこまで知っているなら、一緒に聞くがいい。アリシア、真実を話そう……この街が200年前に魔物を駆逐して造られたという話は、実は嘘なのだ」
「えっ!? 魔物を駆逐した騎士団のリーダーが、私たちのご先祖様なのではないですか?」
「違う、本当は違うのだ。我らの祖先は争いに負け、行き場が無くて途方に暮れてさまよっていた。その時に奴らから与えられた土地が、このエストラなのだ」
「えっ……!?」
想定していなかった話に、アリシアは言葉に詰まらせた。
為政者によって、歴史が都合よく作り変えられるのはよくある話だ。
別の情報を振りまき、言い伝えや書物を作り変えてしまえば、間違った歴史が正しいものとして残っていく。
200年前の出来事だったら当時を知る人はもう生きていない。争いに負けたという事実を、後世に伝えたくなかったのかもしれない。
とはいえ、カズヤが聞いていた話とはあまりにも真逆の内容だ。
「この街の地下がこんなにも不安定だとは知らなかったが、ある組織の指示でここに建設された。私も戴冠する際に初めて真実を教えられた。この街は奴らが指定した場所に造られたのだ」
国王の話によると、この場所に国や街を建設するなら彼らからの援助を得られるし、今後攻められることもない。
その代わり、国の運営に彼らが口を出すということだった。
行き場を失い流浪の民だった祖先たちは、安住の地を手に入れることと引き換えに、彼らの指示に従うことにした。
そして、敗北と服従の歴史を覆い隠すために、嘘の歴史を広めるように画策したのだ。
アリシアは動揺を隠せず、ショックで固まっている。
自慢の国や首都の歴史が自分が知っていたのと違っていたら、動揺するのもやむを得ない。
「その、ある組織っていうのは、いったい何ですか?」
固まっているアリシアの代わりに、カズヤが国王に質問する。
国や街を造る場所を指示できるとは、相当な権力を持っていないと不可能だ。
「この世界を動かしている者たちのことだ。名前すら滅多に表には出てこない。彼らがこの世界を実質的に支配しているのだ」
「それは何という名前なんですか?」
「簡単には口に出せぬ。存在を認める以上、従うか抵抗するか選ぶしかなくなるのだ」
カズヤは思い切って尋ねてみるが、国王は答えない。
しかし気を取り直したアリシアが、父親の国王に強く要求した。
「……お父様。それなら、なおさら名前を知らないといけません。従うのか抵抗するのかを選ぶ為にも」
娘の言葉を聞き、国王は苦しそうな表情で押し黙った。
「もはや隠し通すことはできません。国や民の為にも、真実を明らかにしなければ」
アリシアは父親に真実を打ち明けるよう促した。
しばらく沈黙を保ったあと、国王は振り絞るように声を出した。
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