289話 天敵
「危ない……!」
思わずカズヤから悲鳴がもれる。
しかし、雷撃が建物に直撃する寸前。
街の上空にシャボン玉のような七色の光が広がった。雷撃はシャボン玉に弾かれて周囲へ散っていく。
巨大な円盤兵器アトモスの攻撃が、何かによって防がれたのだ。
<カズヤさん、首都防衛用の魔導兵器です>
フォンから内部通信が入る。
以前、カズヤたちを困らせた魔導兵器は、首都を守るためにも使われていたのだ。
そして間髪入れずに、アトモスを狙った砲撃が飛んでくる。フォンからの援護射撃だ。
今度は攻撃用の魔導兵器だ。
何十発もの魔法を束ねたような強力な攻撃がアトモスに向かって飛んでいくが、瞬時に移動してかわされる。
一瞬、姿が消えたかのような尋常でない速さだ。
魔導兵器の攻撃は、一発たりともアトモスに直撃しない。
するとアトモスが再び攻撃態勢に入る。
集まってくる強烈な光は先ほどよりも眩しく、肉眼だったら直視できないほどの明るさだ。
「今度は防げない……もう一発来るぞ!」
カズヤは大きな声でみんなに呼びかける。
そしてアトモスの砲台から、まばゆい光球が発射されようかという時。
今度は突然。
円盤を襲う黒い影が現れた。
ラグナマダラだ。
巨大な黒龍が自身の5倍近くはある円盤に襲いかかる。
円盤をつかみかかろうと飛びついた。
しかし、円盤は瞬時に移動して攻撃をかわす。
アトモスは溜めていた強烈な雷撃を、ラグナマダラに向かって放射した。
バシイイイイイイッ!!
巨大な光の玉がラグナマダラに直撃する。
しかし雷撃の直撃を受けても、ラグナマダラは動じない。
全身で稲光を弾くと、さらに距離をつめて突進していく。
「なぜ、こんなところにラグナマダラが……!?」
カズヤは突然の戦闘に、呆然としながら上空を眺めた。
「ラグナマダラはアトモスの天敵です。なぜか出現するたびに、どこからともなくラグナマダラがやって来るのです。理由は私にも分からないのですが……」
クインが自信なさそうにつぶやく。
しかしカズヤには、その理由が分かった気がした。
ラグナマダラはこの円盤がデルネクス人によって作られたことを分かっているのだ。
カズヤたちが転移してきた時の次元の歪みに反応するくらい、ラグナマダラは感覚が鋭敏だ。
目の敵にしていた300年前の物ではないが、アトモスはデルネクス人の生き残りが作った兵器だ。
自分に首輪を付けた敵の仲間だと、本能的に気付いていた。
ラグナマダラは円盤に向かって火炎を放射する。
アトモスがゆらりと揺れたかと思うと、瞬時に場所を変えた。そして一瞬でその場から飛び去ったかと思うと姿を消す。
ラグナマダラが現れたことで、アトモスは逃げ出したのだ。
「……ラグナマダラ、ありがとう。助かったぞ!」
カズヤが大声でラグナマダラに話しかける。
カズヤとステラは、すでに声だけでなく内部通信でラグナマダラと会話できるようになっている。
しかし存在に気付いてもらうために、あえて大声で呼びかける。
『お主たちもここにいたのか。やはりあの円盤は我に首輪を付けた者たちと関係がありそうだな』
ラグナマダラの声が、その場にいた全員の脳内に響いてきた。
「……こ、これはラグナマダラの声ですか!? カズヤさん、なぜそんなに親し気に会話できるんですか!?」
一番驚いたのはクインだった。
無理もない。今まで何度も円盤を襲ってきた時のラグナマダラは、首輪を付けた時の理性を失った凶暴な状態だった。
首輪を外されたラグナマダラの理性的な会話を聞いたのは初めてだった。
「まあ、色々あってな」
「ラグナマダラさんは私の友だちですよ」
「と、友だちですか……」
相変わらず距離感がバグっているステラの台詞にクインが固まった。災害クラスの黒龍が友だちである理由が想像できないのだろう。
「ラグナマダラ。あれは首輪を付けたデルネクス人の命令で作られた円盤だから、あながち間違ってもいないぞ」
カズヤは、ラグナマダラの言葉に返答する。
『やはりそうか、だがそれだけではない。あの円盤が多くの生き物を根絶やしにするのを、我は何度も見てきたのだ。この星の生命への敬意がない物の存在は、絶対に許しておけん』
脳内にラグナマダラの怒りが伝わってくる。
「たしかに天罰と称して、ゼイオンがあの円盤を使って村や森を焼き払ったことは何度もあります。ラグナマダラが襲ってきたのは、そのことも関係していたのですか……」
クインはラグナマダラの襲撃に納得したようだ。
自分の首輪のことだけでなく、アトモスがたびたび大地を焼き払う行為も許せなかった。
『あの円盤の動きは素早く、なかなか捉えることができん。……だがいずれ、必ず決着をつけてみせるぞ』
そう言い残すと、ラグナマダラは泰然として飛び去った。
ラグナマダラのおかげで、円盤アトモスの攻撃を防ぐことができた。首都の建物や住民にも被害はなかったようだ。
しかしアトモスの襲撃を回避してホッとしたのも束の間、再びフォンから内部通信が入った。
<……カズヤさん、東の国境からサルヴィア神聖王国が侵攻してきました。同時に街なかでヴェノムベイン傭兵団が住民を襲撃しています>
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