287話 戦闘
「たった一人の為の……ただの保身じゃないか!!」
我慢しきれなくなったカズヤが大声をあげる。
「マスター、どこの宇宙でも支配者の理念なんてこの程度です。どんなに崇高な理想に見えても細かく紐解いていけば、根本はただの自己保身や肥大化した欲望にすぎません」
ステラは、カズヤを諫めるように話しかける。
これがゼイオンとアビスネビュラの正体なのだ。
(絶対に奴を野放しにはできない……!)
カズヤは覚悟が深まっていくのを実感する。
「……他に質問はありますか?」
クインの問いかけに、カズヤたちは黙り込んだ。
何も尋ねることはなくなった。
カズヤはあきれ果てて、尋ねる気にもなれない。
「それでは最後の質問をする前に大事なことをお伝えします。ステラさん、よく聞いてくださいね。
c48Im(z)π95GTμνℏ∂∂eΨ=^Ψiℏn√xt∂+φΨde452gfiff=H^ΨtXGμν+n√xΛgμν)=∑1∞81eζ(s)=∑n1∞ns1ρ(∂t57∂v+v⋅∇v)=−∇p+∇10{x,..}⋅T+fJ=∂(u,v)e∂49(x,y)∮∂=∫∮∂VE⋅dA=ε01∫iffVIm(z)ρ95deV∂t∂V+1σ2S2∂S17n√x2∂2V+rS∂S∂V8−rV=(iγμtX∂μ−m)8degfiffψ、です。
ヒントは量子力学における惑星間の流体運動に関する変数変換です。代替物はここにあります」
そういってクインは、先ほど開いた自分の脇腹を指さした。
何かの暗号なのか?
カズヤには何を言っているのか分からないが、情報処理型ザイノイド同士なら通じる会話なのだろう。
ステラはクインの数式を聞くやいなや、急速に計算を始める。
「それでは、最後の質問をしなくてはいけませんが準備はいいですか? 返答次第では私があなたたちに秘密を伝えたことも、私たちと敵対したことも全てゼイオンに伝わってしまいます」
要するに、戦闘開始だということだ。
ここから先は引き返せない。
アビスネビュラと最後の決着をつけるまで、戦いは終わらないのだ。
全員が無言でうなずく。
クインは全員の顔を見渡して、ひと呼吸おいた。
「お伝えしましたように、これが私たちアビスネビュラの全てです。アビスネビュラに入れば、この星の支配権を握ってあらゆる権力を行使できます。また全ての富や財産も思いのままです。……カズヤさん、私たちの仲間になりませんか?」
全員の視線が、カズヤに集中した。
職人ギルド総帥クインの部屋を、ややしばらく沈黙が支配する。
「……断る。俺がアビスネビュラに入ることは絶対にあり得ない。お前たちアビスネビュラが人々の富と平和を支配する限り、俺は最後まで抵抗し続ける!」
カズヤは迷いなく断言した。
クインの話を聞いてますますカズヤの意思は固まった。ゼイオンの味方をするなどあり得ない。
むしろ奴を捕らえ、この星でのアビスネビュラの支配を終わらせるのだ。
カズヤは腰にかけた武器に手をかけた。
クインは戦闘型ではなく情報処理型で、しかも一人しかいない。こちらはカズヤとステラ、アリシアとバルザードという戦力がそろっている。
戦闘になっても、十分優位なはずだ。
「分かりました、それが返答ですね。あ……あなたたちは……、私たちの敵です!!」
クインが断定した瞬間、黒目が反転して真っ赤になる。
そして部屋に騒々しいノイズが響き渡った。
「ぐあああっっっっ! こ、これは……!?」
突然、カズヤたちの頭に得体の知れない音波が襲いかかってきた。
強烈な音響攻撃だ。
すぐさまザイノイドの聴覚センサーを切るが、音波が身体の中にまで入り込んでくる。
耳をつんざくような音波が、物理的な破壊と精神的な混乱を引き起こした。
頭の奥を突き刺すような高周波が空気を震わせて、周囲の建物さえも揺らめかせる。
以前、カズヤが利用した音響兵器よりも遥かに強力だ。職人ギルドの総帥だけあって、さらに威力を増していた。
カズヤたちはその場に倒れ込み、誰一人として起き上がることができない。
「この程度で倒れてしまったら困るんですよ、カズヤさん」
クインが電磁ブレードを手に取って、ゆっくりと近付いてきた。
この程度の攻撃は跳ね返せと、クインは言っている。
そうでなければサルヴィア神ゼイオンまでは到底たどり着けない。
しかし、カズヤたちの身体は動かない。全員地面に這いつくばったままだ。
(やられる……!)
カズヤが、そう覚悟した瞬間だった。
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