286話 アビスネビュラの正体
「でも、ルガンは自分のことを冒険者ギルドの24代目総帥だと言っていたぞ。ジェダだって何代目とかいう話だ」
「ザイノイドの顔や身体は自由に変えられることを知っていますね。私も普段は老人の姿をしています。何度も姿形を変えながら、600年間ずっと職人ギルドの総帥を続けているのです」
「なるほど、そんな手を使っていたのか……」
ギルド総帥は全員ザイノイドだから、顔や身体を変えながら600年間ずっと同じ人間が就いてきたということか。
だからアリシアの母親である王妃アデリーナは、ジェダを疑っていたのだ。
かつてアデリーナはジェダに向かって、「前の総帥と魔力が同じだけど、あなたは何代目?」と尋ねていた。
カズヤは、ジェダが前の総帥の魔力を乗っ取ったのかと勝手に想像していたが、そうではない。
前の総帥と同じ人物だっただけだ。
アデリーナは、魔力を通して既にそのことに気付いていたのだ。
「でも、私には今でもクインがザイノイドであると判別できません。発言を聞いた後ですら確信をもてませんが……」
ステラが当惑した表情で、クインに尋ねる。
「あなたたちは、この部屋にある監視用ボットの存在に気付いていますか? 600年間の研究により、魔法を使ってザイノイドやボットを偽装する技術もあるのです。600年も経ったことで、現存しているボットは数十台程度しかないのですが」
ボットや魔法障壁を、自分たちだけが使えると思ったら大間違いだ。
アビスネビュラも認識阻害の魔法を使っていた。すでに600年も前からこの星にいるのだから、兵器に使っていてもおかしくはない。
「じゃあ、アビスネビュラというのは……」
カズヤは自分の頭を整理するように言葉に出した。
もちろん、すでに答えは出ているようなものだ。
「アビスネビュラというのは、ゼイオンがこの星を恣意的に支配するために作った独善的な組織です。デルネクス本国からの追跡を逃れるために、この星を利用して隠れていたのです。
アビスネビュラは国家の上に君臨し、武力と魔法、経済と技術力でこの世界を支配しています。……ちなみにアビスネビュラという名前は、600年前の調査船の名前からとったものですよ」
なんだと……600年前の宇宙船の名前が、アビスネビュラ号――<深淵の星屑号>だったのか。
たしかに宇宙船にありそうな名前だ。
なぜ”星屑”という異名を持っていたのか疑問だったが、これで合点がいった。
「第1階級にはゼイオン以外、だれかいるのか?」
「アビスネビュラのトップである第1階級は、ゼイオンただ一人です。彼は身体をザイノイド化してサルヴィア神を僭称し、神聖王国の奥深くで、”今も生きています”」
ゼイオンは今でも生きている……。
衝撃的な事実に、全員言葉が出てこない。
600年も前の出来事なのに、ゼイオンは身体をザイノイド化することで生き続けている。
サルヴィア教の神として、今もこの世界を支配しているのだ。
「この星でゼイオンが行なっていることは、まさに悪魔の所業です。自分のことだけしか考えていません。最悪の人間が力を持ってしまったのです。ジェダやマグロスは自分に与えられた役割を忠実に果たしていますが、私とルガンはもうやめたいのです。600年間もこの状態が続いています」
クインの悲痛な声が部屋に響いた。
デルネクス人とアビスネビュラの思想が似ていて当然だった。
デルネクス人が、アビスネビュラのトップにいるのだ。
「……私からの話は以上です。何か質問はありますか?」
クインが質問をうながすと、カズヤが口を開いた。
「では、今までデルネクス人の宇宙船が来た時に魔導兵器で攻撃したのは、ゼイオンが撃ち落とすように命令を出したということだな」
デルネクス人との戦いの最中にサルヴィア神聖王国の方向から砲撃があったし、アビスネビュラの軍団は宇宙船めがけて突撃していた。
300年前にステラが乗っていた宇宙船も、ラグナマダラに攻撃される前に何者かによって狙撃されている。
それらは全てゼイオンの指示だったのだ。
「ゼイオンが最も恐れているのが、本星デルネクスからの調査船です。自分と同じだけの科学力を持っているからです。彼は自らの行いが暴かれて本星に連行されるのを何よりも恐れているのです」
カズヤはアビスネビュラの真相を聞き心底がっかりした。
(アビスネビュラが世界を支配する理由とは、やはりその程度のものだったのか……)
カズヤの心の中に軽蔑にも似た、言いようもない失望感がわいてくる。
かつてはアビスネビュラの行動原理に、何か深い理由があるのかと疑っていた時期もあった。
手段や行ないは到底許せないものだったが、この巨大な組織にはもっと高尚な理念でもあるのかと思っていた。
全ての国と国民を支配しなければいけない、何か崇高な理想があるのかと思っていた。
世界中の資源や富を独占して、何か達成したい目標があるのかと思っていた。
人々を戦争へ導いているが、何か克服しきれない主義の対立があるのかと思っていた。
だが、そのどれでもなかった。
「たった一人の為の……ただの保身じゃないか!!」
我慢しきれなくなったカズヤが大声をあげた。
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