282話 職人ギルド総帥
「怪しいよな。でも結局会いに行こうと思ってたんだ。奴らの罠に乗ってみないか?」
相手の方から会ってくれるなら話は早い。
総帥を探しだす手間が省けたと思えばいい。
カズヤの問いかけに全員がうなずいた。もともと敵の本陣に乗り込む覚悟はしてきたのだ。
カズヤたちは、用意された馬車に乗り込んだ。
馬車はそのまま職人ギルド本部へと向かっていく。
ハルベルト帝国首都の真ん中にある広場を中心に、冒険者ギルドの反対側に職人ギルドの本部がある。
一行を乗せた馬車は、職人ギルド本部の前で停車した。
本部の建物は木材で作られた立派な造りだ。職人たちのこだわりが感じられる、素晴らしい建築技術だった。
「奥の部屋で、総帥が待っていらっしゃいます」
男に案内されたカズヤたちは、堂々と正面から入ると建物の一番奥の部屋に案内された。
扉の前で、カズヤはいったん立ち止まって皆の顔を確認する。開けた途端、いきなり襲い掛かってくる可能性があるからだ。
ステラ、アリシア、バルザードを見回すと、全員がゆっくりと頷いた。
覚悟は出来ているという合図だ。
カズヤはゆっくりと扉を開けた。
*
「皆さん、ようこそいらっしゃいました。あなたがカズヤさんですね。突然お呼び出しして申し訳ありません」
「き、君は……!?」
カズヤは絶句した。
部屋の中には予想と違って、一人の美しい女性が待ち構えていたのだ。
髪の毛はうすいピンク色のショートヘアー。男性のタキシードのような正装をピシリと着こなしている。
カズヤよりも長身で華奢でほっそりしている。作業で使うのだろうか、手には黒い革の手袋をはめている。
年齢は想像もつかないが、凛とした人形のように端正な顔立ちで男装の麗人という言葉がよく似合っている。
この女性が職人ギルドの総帥なのか。
職人ギルドなので、ドワーフのような毛むくじゃらの気難しい男性をカズヤはイメージしていた。
「私は職人ギルド総帥のクインと申します。カズヤさんには以前からお会いしたいと思っていました」
話し方は丁寧で落ち着いている。
だが、これすらも演技なのかも分からない。
絶句するカズヤを放置して、クインと名乗った女性はにこやかな笑顔をうかべる。
その女性を見たカズヤは、ある既視感を覚えていた。このような容姿の女性を普段から見慣れているからだ。
「……ひょっとして、君もザイノイドなのか?」
人間離れした美しさ、年齢不詳の落ち着いたたたずまい。
ステラやフォンたちと全く同じだった。
「そうです。やはりすぐに気付きましたね。私も普段の姿ではなく、本来の姿に戻って挨拶したかったのです。正確に言うとステラさんと同じ、情報処理型のザイノイドです」
ルガンもザイノイドだったが、やはり職人ギルドの総帥もザイノイドなのだ。
今は美しい男装の麗人だが、普段は違う姿をしているということだ。わざわざザイノイドの姿に戻ってまで、カズヤたちを招いてくれている。
しかし、それでもどのような意図で呼び出したのか、カズヤには全く想像がつかなかった。
「……君が職人ギルドの総帥か。なぜ俺たちを招いたんだ?」
「あなたたちに大事なお話をしたいと思ったからです。まさに今が頃合いなのでしょう」
大事な話とは何なのか。
カズヤの警戒は、まだ解かれていない。
「いったい何の話だ?」
「あなたたちが一番興味を持っている、アビスネビュラについてです」
「……な、何だって!?」
もちろん、カズヤたちはアビスネビュラについて探るためにここに来た。
それを、わざわざ向こうから話してくれるというのか。
「あなたもご存じのように、我々四大ギルドの総帥は全員アビスネビュラに属しています。私も第2階級という高い位を与えられています」
そう言うとクインは机の上に置いてあるアクセサリーを手に取って、カズヤたちに見せた。
それは鳥をモチーフにした、キラキラと光る宝石で作られた装飾品だった。
「これはアビスネビュラ第2階級である証、金剛の鳳凰です」
元ハルベルト帝国皇帝のグラハムが、金色のバッジを自慢気に見せてきたのを思い出した。
このバッジがアビスネビュラに属している証拠になるのだろう。
「クインと言ったな。なぜ君がアビスネビュラについて教えてくれるんだ?」
カズヤは、いまだ不信感いっぱいで尋ねる。
「私はカズヤさんたちの活躍を今までずっと注視していました。あなたたちはこの600年間で、初めて明確にアビスネビュラに反旗をひるがえした存在なのです」
たしかに、今までにも局地的にアビスネビュラに反抗した存在はいたかもしれない。
だが、国を挙げて徹底的に抵抗したのは、カズヤたちが初めてだと言われたら納得がいく。
「何とかカズヤさんたちに接触して真実をお話したいと思っていましたが、どのような方法を使えば良いのかずっと悩んでいました。私は今の役割を続けていることに、正直うんざりしているのです」
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