280話 決闘:ルガン
「バルくん、離れて! ……ファイア・バースト《炎風爆烈旋》!」
アリシアが放った幾つもの炎の塊が、連続してルガンに飛んでいく。大盾に次々直撃すると激しく爆発する。
しかし、ルガンは微動だにしない。
ルガンは一歩も引かずにカズヤたちの攻撃を受けきった。日本の時と同じだ。やはりいつもの攻撃では絶対防御は崩せない。
逆にこちらの攻撃が終わったタイミングを見計らうと、カズヤに狙いを定めて突進してくる。
再び猛烈な攻撃を受け、カズヤは避けるだけで精一杯だ。
「これじゃあ、防戦一方だ……」
今までの攻撃では、いっこうに突破口が見つからない。
「こうなったら……ルガン、面白いものを見せてやるよ!」
カズヤは従来の戦い方を変えることを決意する。
日本でもカズヤたちの攻撃は全て防がれた。単純な力押しでは絶対防御は崩せない。
今までと違う方法でないと効果がない。
「グラビトン・ゼロ《無重力浮遊》!」
ルガンの大剣が、カズヤの身体を捉えたかと思った瞬間。
攻撃が大きく空振りした。
「な、何だと……!?」
そこにカズヤの姿は無い。
宙に浮いたままルガンを見下ろしていた。
戦闘で初めて、奇術師の力を使ったのだ。
地上に降り立ったカズヤは、ルガンに向かって右腕をのばす。
「奇術師の腕……グラビティ・コマンド《重力操作》!」
カズヤの右腕から、ルガンの全身を後ろに吹き飛ばす強烈な力が働いた。
「な、なんだこの力は。魔法ではないのか……!?」
さすがのルガンも、重力による攻撃を受けたのは初めてだったのだろう。意表をつかれて動揺を隠せない。
両足を開いてしっかりと踏ん張り、身体を前がかりにして動かないように抵抗する。
「ぐおおおおっ……!!」
身体が吹き飛ばされないように必死に耐える。
極大の重力を与えられても、ルガンは筋力のみで受け止めた。
「耐える力が強いのは分かっている。それなら、反転したらどうだ」
カズヤは突如、重力場を逆向きに加速させた。
吹き飛ばそうとしていた力が、今度は引き寄せる力へと変わる。
前掛かりになって、こらえていたルガンの身体が、反発する重力を受けて一気に引き寄せられた。
「バル、今だ!」
「分かってるぜ!」
急激に距離を縮めたルガンは、カズヤと剣を交える。
その後方を、バルザードが狙っていた。
「おらああっ!」
バルザードの槍が、ルガンの背後を攻撃する。
ガキィンッッッ!!
激しい音が響き、ルガンの鎧を大きく削りとった。
絶対防御を使っているルガンに、初めて攻撃が通ったのだ。
「やはり絶対防御は、大盾の前面が一番強かったんだな」
カズヤはルガンの戦い方を見ていて、正面で相手の攻撃を受け止める場面が多いことが気になっていた。
絶対防御は全身を覆うように展開されているが、攻撃を防ぐときは必ず身体と大盾の前面で受け止めている。
その間、両脇や背後から攻撃を受けるシーンは見たことがない。
それはつまり、真正面からの攻撃には無類の強さを誇るが、両脇や背後に対する防御は未知数ということだ。
今まで誰も、ルガンの背後をとれなかっただけだったのだ。
「背後ですね、A.F.A.《アサルト・フライトアングラー》を回り込ませます」
カズヤの作戦に気が付いたステラは、5機のA.F.Aをルガンの背中に誘導する。
「容易く攻撃させんぞ」
ルガンは背後を狙われないように、訓練場の端に背を向ける。
「それも無駄だよ……グラビティ・コマンド《重力操作》!」
カズヤは右腕を前に突き出す。
ふたたび急激な重力で、ルガンの身体を引き寄せる。
「ぐおおっっっ……!」
ルガンの姿勢が前のめりに傾いた。
「フレイム・インフェルノ《疾風業炎舞》!」
そこにアリシアの竜巻のような炎が、態勢を崩したルガンの頭上と背後から襲い掛かる。
暴風をまとった炎の嵐が、ルガンの身体を包み込んだ。
「くっ……!」
ルガンが熱波に耐えきれずに前に飛び出す。
その瞬間を、カズヤは見逃さなかった。
「これでお終いだ、ルガン!!」
ついにカズヤの攻撃が、ルガンの身体をとらえた。
プラズマブレードが、側方からルガンの右脚を直撃する。
――鋭い刃が膝から下を刈り取った。
斬り飛ばされた右脚が宙を舞い、ぼとりと地面に落ちる。
しかし、そこから血が流れ出ることはない。
切断された断面には、人間の肉や骨は見当たらない。
「な、なんだって……!?」
カズヤは目の前の光景を受け入れられず、思わず言葉が漏れる。
そこにはただ、機械のような電子部品が無機質に姿を見せているだけだった――
読んで頂いてありがとうございます! 「面白かった」「続きが気になる」と思ってくださった方は、このページの下の『星評価☆☆☆☆☆→』や『ブックマークに追加』をして頂けると、新規投稿の励みになります!




