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028話 王都の異変

 

 静かなエストラの朝を、想像もしたことが無いような災厄が襲った。


 宿屋で眠っていたカズヤは、部屋を震わす大きな振動で目を覚ました。


 いくつかの大きな衝撃が起こった後に、激しい揺れが襲ったのだ。



「じ、地震か!?」


 あわててベッドの上に起き上がる。


 宿屋全体が激しく揺れていた。部屋だけではない。この辺り一帯が大きく揺れているのだ。



 木造でできた建物は軋みながら大きく歪んでいて、今にも崩れそうだ。


 大波の上の小舟に乗っているような強烈な揺れに翻弄される。部屋の窓を見ると薄日の明かりがさし込んできている。


 すでに朝方だ。


 この世界にも地震が存在するのかは知らないが、カズヤの経験からするとそうとしか考えられない。


 そして、建物や地面が崩れた大きな破壊音と住民の悲鳴が、外から立て続けに聞こえてきた。



 隣の部屋にいたステラが、カズヤの部屋に飛び込んでくる。


 ここまであわてたステラを見るのは初めてだった。



「カズヤさん、すぐに避難しましょう! この場所が落下する危険があります!」


「落下だって!? いったい外で何が起きてるんだ?」


「街の地面の一部が崩壊して落ちています。崩落はこの辺りにも迫ってきています」


「な、なんだって!?」



 街の地面が崩壊……? そんな現象は聞いたことも見たこともない。


 カズヤは部屋からあわてて飛び出すと、急いで階段を飛び降りる。他の宿泊客たちも外へ逃げ出していた。



 外に出ると街は大混乱だった。


 大地が唸りをあげて震え、石畳の道が不気味な音を立てて軋んでいる。石造りの壁が崩れて、瓦礫が狭い路地に降り注いでくる。


 寝間着姿の住民たちで溢れかえり、大きな音がする方とは反対方向に逃げ出している。街の人たちは足元をふらつかせながらも、安全な場所を求めて走り回っていた。



「カズヤさん、乗ってください! 上空に行きます」


 いつの間にかウィーバーに乗り込んでいたステラが、カズヤに手を差し出す。


「うわあっ……!」


 ステラがカズヤの手をつかまえると、片手で軽々と持ち上げてウィーバーに乗せた。



 ウィーバーは一気に加速して遥か上空から街全体を見下ろした。


 空からの景色を見てカズヤは息をのんだ。


 街の一部が崩れて大きな穴のような空洞が出来ており、そこにあったはずの建物がすっかり無くなっていたのだ。



 街全体の8分の1は消失したように思える。


 何が建っていたのか覚えていないが、他の場所から類推すると数千人は住んでいそうな広さだ。


 穴の中は暗く、底が見えいくらい深い。落ちてしまった人達の生存を期待するのは、楽観的過ぎると言わざるを得なかった。



 しだいに揺れと騒音が収まってくる。


 街の安全な場所と崩落したエリアがはっきりとわかれていた。地上に残った人と落ちてしまった人の明暗もわかれてしまっている。



 ウィーバーに乗ったカズヤは、逃げ遅れた住民を何人か助けることができた。


 しかし、多くの街人が暗い穴に飲み込まれていくのを見てしまった。目の前で家が崩壊して呆然と見つめる人もいた。家族を探して叫びまわる声が耳に残って離れない。


 甚大な災厄を前に、カズヤは何と言っていいのかわからない。


 あまりに突然の悲劇に、激しい鼓動が収まらなかった。



「なんてことだ……地震とも違うようだが、この世界ではよく起こることなのか!?」


「どうやら地震では無さそうです。バグボットの情報によると、街の外で大きな揺れはありませんでした。一部だけの局所的なものです。突如として地面が崩落しました」


 確かに上空から見ると、街の外には何の異変も無い。それどころか穴の部分以外の街にも被害が無さそうだ。



「地盤の問題か?」


「それもあると思いますが、崩落の直前に不自然な爆発が起きていました。それが崩落のきっかけになっています」


 眠っていたカズヤも不自然な爆発を感じていた。これほどの災害が人為的だとでもいうのか。



「カズヤさん、城からアリシアが出てきました」


 ステラが言った方に目をやると城から兵士の一団が出てきており、そこにアリシアがいるのが見えた。



「アリシアの方に近寄ってくれ!」


 近寄ってきたウィーバーを、初めて見た兵士たちは驚いている。


「カズヤ! 住民たちが王宮に逃げてきているわ。何が起きたの!?」


「突然、街の一部に大きな穴があいて崩落したんだ。穴の部分にあった地面が消えてしまった」



「地面が崩落!? 何てことなの……穴はどこにあるの?」


「俺たちが止まっていた宿の隣のエリアだ。崩落自体はすでに止まったようだ。底が見えないくらい深いから望みは薄いかもしれないけど、落ちた人の救助が必要だと思う」


 アリシアは額に手をやって考えると、すぐにてきぱきと指示を出した。



「兵士たちをすぐに住民の救助に向かわせましょう。それと原因を探らないといけないわ。お父様に報告に行くから、カズヤも一緒に来てくれる?」


 ついてきていた兵士をそのまま街へ向かわせて、住民の避難を手伝わせる。


 カズヤはアリシアと共に城内へ入った。



「そういえば、バルザードはどこにいるんだ?」


「実はあの後、テセウスの行方がわからなくなってしまったの。バルくんに探すようにお願いしてたんだけど、まさかこんなことが起こるなんて……」


 このような状況で、バルザードがいないのが心細く感じられる。



(……お前は取り返しのつかないことをした。後悔するぞ)


 昨晩のテセウスの捨て台詞が頭をよぎった。


(まさか、奴がこんな大災害にまで関係してることはないよな)


 カズヤの頭の中で、テセウスの脅迫が何度も響いていた。


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