273話 ホワイトハッカー
魔法を唱えるたびに魔術ギルドの本部から許可をもらっているなんて、想像もしていないはずだ。
「そもそも魔法を使うのに、魔術ギルドの許可が必要なのが問題だと思うのよね。だからアルカナ・ストーンにある契約情報を抜き取って、他の魔石に写すことが出来ないかずっと研究していたの」
写すための魔石が必要だから、廃鉱山で巨大な魔石を採ってきたのか。
「でも魔法契約を抜き取るなんて、そんなことが本当に可能なのか?」
「可能よ。現に私は何度もアルカナ・ストーンに入りこんでいるし、試しにうつしかえたりもしてみたわ」
すごいことを研究したみたいだ。
そもそも微弱な魔力を辿っていくこと自体が難しい。幼い頃から母親のアデリーナと一緒に魔力過剰症と向き合ってきた、アリシアにしか出来ない芸当だろう。
「そうか、その魔術ギルドのアルカナ・ストーンとかいう魔石を壊してしまえばいいのか」
「だめだめ、そんなことしたら全員が魔法を使えなくなってしまうわ。そこで私の研究が行き詰まってたんだけど、以前ステラがデルネクス人の宇宙船から情報を抜き取っているのを見て思いついたの。その写し取った契約内容を、さらに書き換えてしまえばいいんだって」
デルネクス人に捕まった振りをして、アリシアとステラが宇宙船に乗り込んだ時の話は聞いていた。
アリシアは目の前にある巨大な魔石に、魔術ギルドの魔法契約を移動して書き換えようとしている。
それが横取りするという意味なのか。
「でもそれって……ハッカーがやってるのと同じじゃないか」
アリシアの説明を聞いているうちに、カズヤの口から思わず漏れてしまう。
アリシアが話しているのは、コンピューターのハッキングと同じ考え方だ。メインコンピューターにアクセスして情報を抜き取って、書き換えて成りすまそうとしている。
王女様がハッカーになるなんて想像したこともない。それに、とんでもなく高度な魔法技術が必要な気がする。
「アリシア、多分それって俺がいた世界ではハッキングという行為なんだ。悪用するのは問題だけど、それを防ぐために善意でする人もいたんだよ」
「ふうん、やっぱりどの世界でも同じことを考える人っているのね」
カズヤが地球でのホワイトハッカーについて教えると、アリシアは納得がいったようだ。
アリシアが話しづらそうにしていた理由もよく分かる。一歩間違えれば真逆になる、難しい行為だからだ。
「もし成功したら、魔術ギルドはこっちの魔石に写しとった魔法契約をいじれなくなるし、エルトベルクの魔法を復活させることができるわ。逆に、アビスネビュラの魔法を使えなくさせることも出来るかも」
アリシアが魔術ギルドの魔法契約に依らない、古代魔術を皆に教えているのは知っていた。
それだけでなく、使えなくなった魔法を戻せないかも研究していたのか。
もし本当にこれが成功したら、魔術ギルドの不当な支配を終わらせることができるかもしれない。
「それはすごい話だぞ。もし実現できたら魔術ギルドに怯えずに、みんなが今まで通り魔法を使えるってことか」
「そうなの。でも大規模に情報を吸い出せるのかは、やってみないと分からないわ。それにこの魔石をサルヴィアの魔術ギルド本部近くに置いた方が、やりやすいと思うのよね」
近い方がいいのは、ネットに例えると通信速度のようなものかもしれない。
「それなら、サルヴィアの西隣にあるハルベルト帝国に運んでしまおうよ。フォンに管理してもらえば大丈夫だろ」
カズヤの提案に、アリシアは頷いた。
この研究がうまくいけば、魔術ギルドに一泡吹かせられるかもしれない。カズヤは、いずれこの研究が果たす役割の大きさを想像した。
「……それで、カズヤの身体は他にどんな機能があるの?」
「空を飛べるだけじゃなくて物を引き寄せたり、映像を見せたりもできるんだよ」
「面白そうね。それならこんなことも出来るのかしら?」
カズヤの新装備に、アリシアも興味を持つ。
二人は奇術師の装備の使い方について、あれこれ話し込むのだった。
*
カズヤの身体の準備が整うと、いよいよサルヴィア神聖王国へ向かうことになった。
「それじゃあ、サルヴィア神聖王国の下調べに行ってみるか!」
「まずは情報集めと様子見、よね」
アリシアも行く気満々だ。
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