270話 奇術師の装備
その隣には戦闘型ザイノイドのうちの一人、レオが控えていた。
かつては前艦長オルガドの命令によりカズヤたちと戦ったこともある。
しかし艦長がパーセルに変わった今では、レオたち5人の戦闘型もカズヤの味方だ。
レオたちは以前のような敵意を微塵も感じさせず、さばさばした態度で接してくる。カズヤと争ったのも、ただの命令だったと割り切っているようだ。
そのせいか、いつしかカズヤも過去の衝突をすっかり気にしなくなっていた。
「たしかに戦闘型の部品なら在庫はありますが、カズヤ殿のお気に召すか分かりませんよ」
パーセルはカズヤたちを修理室に連れて行く。ここはかつてステラが、エルという情報処理型ザイノイドと戦ったことがある場所だ。
「こんなのはどうですか? パワーだけなら前の部品の2倍以上ありますよ」
「うーん……。こんなにゴツいと普段の生活が大変そうだな」
パーセルが、戦闘型ザイノイド用の両腕の特製部品を見せてくれる。
腕だけが極端に太くなったロボットのような部品だ。たしかに強くはなりそうだが、生活に支障が出るほど大きい。
「でも、それ以外はフォンが乗ってきたバトルセクター《戦闘区画》にあるのと大して変わりないんだよな……」
こうしてザイノイドの装備を見ていると、以前ステラが話していた「デルネクス人の科学技術はほとんど進歩していない」、という言葉の意味がよく分かった。
そのおかげでカズヤたちでもパーセルの部隊に勝つことが出来たのだが、期待していたような部品は何処にもない。
並べられた装備を見て気落ちしたカズヤを見て、一緒に付いてきたレオが口を開いた。
「艦長。そんなことなら、こいつにあの装備を見せたらどうだ?」
「ああ、あれですか。でもあれは役に立たないから使わない予定でしたよね。空を飛んだり重力波を出したり、面白い機能は付いてるんですが……」
「な、なんだその面白そうな装備は!?」
パーセルがもらしたつぶやきを聞いて、カズヤの様子が一変した。
「私たちが”奇術師の装備”と呼んでいる実験機材のことですよ。重力をコントロールしたり、映像を見せたりトリッキーな機能がついているんですが、なにぶん扱いが難しくて……レオたちはいいんですか?」
「俺たちがあんな使いにくいのを装備する訳ないだろう。これ以上実験台にされるのはごめんだぜ、そんな機能が無くても十分戦えるからな」
パーセルの提案をレオは面倒くさそうに断った。
「それより、さっき空を飛べるとか言ってなかったか!?」
パーセルとレオの会話をさえぎるように、カズヤが食い気味に尋ねる。
気になったのは新装備の機能についてだ。
「ええ、脚の部分には重力をコントロールする機能が付いているので、短い時間ですが空を飛ぶことができます。実戦例が無いので、誰かが使ってデータを頂けると嬉しいのですが……」
「ぜひ貸してくれ! その奇術師のなんとかってやつを試してみたい!」
「分かりました、こちらも助かります。レオ、持ってきてもらえますか?」
カズヤは実験機材という言葉より、空飛ぶ機能にひかれたのだ。
せっかく剣と魔法の異世界に来たというのに、ザイノイドになったカズヤは魔法を使うことができない。
人間の身体のときには体内に魔石が無かったり、ザイノイドのときは魔導人形のように魔石を利用出来ない。
せっかくの異世界なのに魔法に関しては消化不良だった。
だから魔法のように空を飛べる機能があると聞いて、カズヤは思わず飛びついたのだ。
レオが持ってきた腕と脚の部品は、見た限りでは従来の戦闘型と大きな違いはない。少しだけ太くなった部分に、新たな機能が詰め込まれているようだ。
ステラがただれたカズヤの両腕を取り外して、奇術師の腕を接続点に慎重にはめ込んでいく。同様に両脚も奇術師の装備へと交換した。
やがて新しい部品が中枢システムと同期し始める。
カズヤは試しにゆっくりと立ち上がると、部屋の中を歩き回った。
「重力制御のリミッターを外したままにしてありますが、まだ実戦例が無い試作品なので扱いには気を付けてください。実証実験で適切な数値を知りたいのです」
「その重力なんとかって、どうやって操るんだ?」
「ブラスターとかと同じですよ。基本的にはイメージを変換して機能させます」
「ふうん……」
試しにカズヤは、遠くに置かれた小さな部品に向かって右腕を伸ばしてみる。こっちに引き寄せてみようと思ったのだ。
すると小さな部品がカタカタと動き出した。しかし、それ以上は動かない。
「んん、コツがいるのか……」
カズヤが腕の向きを変えたり目をつぶったりして、どうにかして引き寄せようと試みる。
あれこれ試しているうちに、部品が大きく揺れ始める。
すると、急にカズヤの右手に飛び込んできた。
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