269話 衣替え
カズヤとステラは、フォンが乗っていた宇宙船のバトルセクター《戦闘区画》を訪れていた。
マグロスの攻撃によって傷ついた、カズヤの身体を修理するためだった。
「なんか、カッコいい部品があるといいよな」
カズヤはまるで服でも選ぶような気軽さで、バトルセクター《戦闘区画》の部品庫をあさっている。
アリシアを探すために惑星イゼリアから日本に行った時、カズヤは商業ギルド総帥マグロスによる濃酸攻撃を受けてしまった。
そのせいで身体の表面が溶けてただれてしまい、動きづらくなっている。
ステラやフォンも仲間を守るために盾になったのだが、最前線にいたカズヤが一番大きな被害を受けていた。
日常生活を過ごす分には問題ない程度だったが、戦闘になると一瞬の遅れが命取りになってしまう。
ステラは面倒くさがるカズヤを急き立てて、ハルベルト帝国まで引っ張ってきたのだ。
「どうも気に入るものが無いんだよな……」
髭が生えないはずの顎を撫でまわしながら、カズヤはあちこち探した。
それでなくてもカズヤは思いがけなく日本に戻ったことにより、ザイノイドとしての自分と、人間としての自分の在り方について深く考えるようになっていた。
剣と魔法の異世界イゼリアでアビスネビュラと戦っている限りは、ザイノイドとしての戦闘力は大きな武器だ。
だが普通に生活するだけなら、やはり人間の方がいいのではないかとも感じる。
そんな中での身体のパーツ選びなので、いまいち気乗りがしない。ステラに催促されたので、カッコいい服を選ぶくらいの感覚でやって来たのだ。
「それじゃあ、元の土砂運搬型の身体に戻しますか?」
「元の身体かあ……。せっかくだから、もっとこうカッコよくて強いのがいいんだけどな」
幼い男の子のような我がままを聞いて、ステラはため息をつく。
今日のステラは、日本に訪れた際に見つけた和風タイプの新しいメイド服を着ていた。着物のように前衿が重なった形をしていて、袖の部分が長くなっている。
実は日本からの帰り際に、無理して追加で何着か購入していたのだ。
そのステラも以前の戦闘型ザイノイドとの戦闘のため、普通の情報処理型よりもはるかに強くなるように改造されている。
戦闘時には背後に5機のA.F.A.《アサルト・フライトアングラー》が飛び回り、同時に操作しながら攻撃する。
それは一般的な戦闘型を凌駕するほどの強さだった。
「このあと、サルヴィアを調査しに行くことを考えたら運搬型はな……。戦闘力は落としたくないし」
日本から新首都セドナに帰ってきたカズヤの頭の中は、サルヴィア神聖王国のことでいっぱいだった。
今までの情報を整理すると、サルヴィア神聖王国とアビスネビュラとの関係がかなり深いことが分かったからだ。
デルネクス人が乗った宇宙船への砲撃は、サルヴィア神聖王国の方角から飛んできた。バルザードの冒険者ランクが剥奪されたのも、サルヴィア国内の洞窟での出来事だった。
各国に配備されている教会や、そこに自由に出入りする神聖騎士団の存在。マグロスの話だと、日本からの他の転移者が捕らえられている可能性もある。
身体の準備が整ったらサルヴィア神聖王国の調査に行くことを、カズヤは皆に相談していた。
「カズヤさん。どうしても気に入らないなら、一度パーセルさんの宇宙船を訪ねてみたらどうですか? ここにある部品より良い物があるかもしれませんよ」
二人のやり取りを後ろから眺めていた、フォンが声をかける。
フォンがまとう衣服は、彼が治めるハルベルト帝国の権威と威厳を体現するかのような豪華さだった。
深い紫色と濃い赤紫色の最も上質な絹で織られていて、随所に金糸で複雑な模様が刺繍されている。全身の至るところが大小様々な宝石で彩られていて、日本に訪れた時には思いがけず遊興費の資金となった。
フォンが言うには権威的な服装に敬意をはらう人も多いので、新皇帝としての統治に役立てているとのことだった。
「なるほど、その手があったか。試しにパーセルに聞いてみるか」
フォンの提案に、カズヤはうなずき返した。
パーセルの宇宙船はステラたちよりも、300年後にデルネクス本星を出発している。いくらデルネクス人の科学技術の進歩が遅いとはいえ、ここよりもいい装備を持っている可能性がある。
さっそくステラがパーセルに連絡を入れて事情を話すと、カズヤたちは宇宙船に来るように促された。
「……カズヤ殿の身体はかなり酷い状態ですね。濃酸をかけるなんて信じられない攻撃をするもんです」
カズヤとステラが宇宙船に乗り込むと、艦長のパーセルが出迎えてくれた。
濃酸で焼けただれたカズヤの身体を見て、パーセルは眉をひそめる。
その隣には戦闘型ザイノイドのうちの一人、レオが控えていた。かつては前艦長オルガドの命令によりカズヤたちと戦ったこともあった。
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