263話 ライゼリアス
「なぜ地球からの転移者を捕まえる!? いったい何を企んでいるんだ!」
「理由はあの方にしか分かりませんよ。まあ、だいたいの想像はつきますがね。私は与えられた仕事に最善を尽くしているだけですから」
この一連の事件は、アビスネビュラのトップが指示していたことだ。
アビスネビュラが日本にまで触手を伸ばしていることに寒気がする。
しかし、余裕たっぷりのマグロスには以前と違うことがある。
そこがつけ入る隙のはずだ。
「だけどな、マグロス。今回は、お前の頼りになる部下がいないようだぞ」
「ヴェノムベイン傭兵団のことですか? 確かにそうですね。まさか、あなたたちがここに来るなんて夢にも思いませんでしたから。今更呼んでも間に合いませんしね」
自らの弱みすらも堂々とさらけだす。
これが本音なのかハッタリなのか分からないのが、マグロスの怖いところだ。
「このチャンスを逃すつもりはないぞ。お前を捕まえて、アビスネビュラの作戦を白日の下にさらしてやる!」
「もちろん、私も黙って捕まるつもりはありません」
カズヤが宣戦布告した瞬間、マグロスは手に持っていた装置を起動した。
その瞬間、後方の建物から何かが飛び出してくる。
「……雨か!?」
飛んできたのは何かの液体だった。
「マスター、この液体は危険です!! すぐに電磁シールドを!」
「何だって、くそ!」
カズヤはとっさに電磁シールドを展開させると、隣にいたアリシアを抱きかかえる。すでにアリシアも魔法を詠唱し始めていて上部を魔法障壁でカバーする。
ステラたちも防御シールドや盾、リオラの魔法障壁で防ぐ。
その雨は電磁シールドや魔法障壁をつたって地面に触れると、コンクリートを溶かし始めた。
「何の液体だ、これは!?」
「ただの濃酸の雨ですよ。少しばかり強力ですがね」
周囲にある建物や備品には一顧だにせず攻撃してくる。この見境のなさがマグロスの恐ろしさだ。
「な、なぜだ!? 液体がシールドを突き抜けてくるぞ!」
電磁シールドで防いでいるはずの液体が、沁みとおって中に入ってくることにカズヤは気付いた。
濃酸の液体がシールドの隙間からたれてくる。
「もちろん、ただの濃酸では芸がありません。当然ですが魔法も込めています」
カズヤの身体の表面が、うっすらと溶けはじめる。
攻撃手段に気付いたステラとフォンが、身体をはって他の皆を守っている。ザイノイドは身体の作り直しが効くが、生身の身体が溶けてしまったら一大事だ。
濃酸の雨は降りやむ気配はない。
さらに勢いを増して降り注いでくる。
「こんな攻撃をするなんて、お前は何を考えているんだ!?」
「もちろん勝利の為ですよ。私に与えられた役割を最大限果たすためです」
マグロスは表情ひとつ変えていない。
カズヤたちは身動きがとれない。濃酸がカズヤの身体の表面を溶かしていく。
だが、このまま防いでいるだけではジリ貧だ。
カズヤは濃酸の雨を受けながらでも突撃する決意を固めた。
その時だった。
「……雲ちゃん!」
後ろからピーナの声が響いてくる。
半透明化したピーナの手元から、いきおいよく雲助が飛び出してきた。
「まったく人間っていう生き物は程度ってものを知らないよな。空と地面を汚すにも限度があるぜ」
雲助はモクモクと拡大していくと、雲の獣と呼ばれる姿に変わっていく。
そして、降り注ぐ雨を吸い込み始めた。
その姿に一番驚いたのはマグロスだった。
「ま、まさかライゼリアス!? 雲の獣がここにいるとは……。あなたたちは一体何者なんですか、イゼリアの大精霊まで味方に付けているなんて……」
「お前、ライゼリアスを知っているのか!?」
「惑星イゼリアの空を司る大精霊ですよ。まさか敵に回るとは予想もしていませんでした……」
巨大化して雲の獣となった雲助が、降ってくる雨を飲み込んでしまう。
そして全ての雨を吸い上げると、溢れだした液体を地面へと流していく。その液体は無害化されているのか、地面の濃酸をきれいに洗い流していった。
濃酸の雨が降り終わると、無防備なマグロスだけが残される。
「……残念ながら私の完敗です。武力では、あなたたちに敵いませんから。これが私の最大の攻撃だったのですが」
観念したマグロスは、抵抗する気を失っていた。
とんでもない攻撃だったが、雲助のおかげで立場は逆転している。アビスネビュラの幹部であるマグロスを捕まえる絶好のチャンスだ。
「奴を捕まえるぞ、アビスネビュラについて吐かせやる!」
さきほどのマグロスの濃酸の雨のせいで、カズヤの身体は動きが鈍くなっている。
いちはやくカズヤの言葉を聞きつけたフォンが、マグロスへと飛びかかる。
ガシイイッッッ!!
しかし、思いがけない激しい衝突音が鳴り響いた。
フォンの強烈な攻撃が何者かによって防がれてしまう。
「えっ!? この人は……」
フォンはイゼリアでは剣聖と呼ばれるほどの強さをもっている。フォンの攻撃を防げる相手など、そう沢山はいない。
だが、その一人が目の前にいたのだった。
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