262話 黒幕の正体
フォンは両手で戦車の下からつかみあげると、砲身を下にして車体をひっくり返してしまう。
ステラはあえて主砲の正面から近付いていくと、飛んできた砲弾を素手で受け止めた。
つかみ取った砲弾の勢いを利用して、ダンスのようにくるりと一回転しながら投げ返す。
自らの砲撃が直撃した戦車は、轟音をあげて爆破した。
リオラは上空から結界の魔法を展開し、戦車の砲撃を次々と跳ね返す。
砲弾が結界に触れたところで爆発した。
そして空から放たれた魔法は戦車のキャタピラを粉砕する。身動きが取れなくなった戦車はなす術もなく沈黙した。
異世界イゼリアの攻撃と魔法の力は、鋼鉄の要塞である戦車すらも軽く上回っていた。
カズヤはその間を悠々と進んでいく。
この先に、今回の騒動の主犯が待ち構えているはずなのだ。
*
カズヤがコンクリート製の正面の門に到達すると、待ち構えていた隊員が壁の上から銃撃してくる。
しかし豆粒のような銃弾は、カズヤに当たっても何の影響もない。
ステラがブラスターで反撃しているうちに、カズヤは渾身のパンチを門にくりだした。
コンクリート製の門は一撃で脆くも崩れ去る。
そしてその奥に、カズヤたちを出迎えている男がいた。
その男は、こちらを向いて静かに立っている。戦場にいるとは思えないほど余裕にあふれていた。
「あ、あいつは……!? なぜこんな所にいるんだ!」
男の姿を見たカズヤが驚愕の声をあげる。そいつがここにいるとは想像もしていなかった。
だが男の姿を見たカズヤは、桜月市で起こっている異変の全てを理解した。
なぜイゼリアの魔物が桜月市に出現したのか。
なぜ地方都市の一つに過ぎない桜月市が、新たな地方税や独自通貨を導入しようとしているのか。
なぜ風神セキュリティがこれだけの装備を持っているのか。
この桜月市では、今までの日本の常識ではあり得ないことが立て続けに起こっている。
だが、これだけのことを実現できる男がそこにいた。
余裕にあふれた金髪碧眼の男が、うっすらとした笑みを浮かべてこちらを眺めている。
そこには惑星イゼリアの商業ギルド総帥――マグロスが立っているのだった。
「なぜ……なぜお前がこの世界にいるんだ!?」
「驚いているのは私の方ですよ。あなたたちこそ、どうやって来たんですか?」
驚いていると言っている割に、マグロスは落ち着いた口調で疑問を返す。
「風神セキュリティの黒幕はお前だったのか! 魔物を解き放ったのもお前の仕業だろう!」
「もちろん、そうですよ。そのような指示が出たからです。ですが、あなたたち相手には効果が無いと進言したんですがね。あの方はあなたたちを少し甘く見過ぎています。失った装備だけでも、いったい幾らかかるのか分かりません」
マグロスは、やれやれといった風に大げさにため息をつく。
この世界にテセウスを連れて来たのも、マグロスの仕業なのだろう。
桜月市の市民を恐怖におとしいれて過剰な装備を求めるように仕向ける手段は、魔物を放つ手法と同じだからだ。
「地方改革党だとかいう政党が、市議会を乗っ取ったのもお前のせいだな!?」
税金を増やしたり独自通貨を導入する動きは、こいつなら可能に違いない。地方の一都市としては異常な動きだが、マグロスならやりかねない。
「権力者が好む物はどこの世界でも同じですからね。金と権力をちらつかせれば指示に従わせるのは簡単です、おまけに相手の弱みも握れますしね。これだけの装備を整えるのに、この国や他国にも莫大な金額をばら撒いたのですが。まったく頭が痛いですよ」
マグロスの手法が常軌を逸しているのは、アリシアの話を聞いて知っていた。
国や地方に、どれだけのお金をばら撒いたのか想像もつかない。
「せっかく以前から準備していたのですが、あなたたちのせいで台無しです」
「以前からって……おい、待てよ。ひょっとして、イゼリアで転移者を捕らえていたのはお前の仕業なのか!?」
カズヤの頭にピンとくるものがあった。
なぜマグロスが地球のことに詳しいのか。
地球の情報を集めるために、転移者を捕まえていた可能性を疑ったのだ。
「ええ、よく分かりましたね。そういえば、あなたも転移者でしたか。転移者が来る前には次元がゆがみます。それを調べる装置さえ持っていれば、転移者が現れる場所は簡単に分かりますから」
だからすぐに捕まえることが出来ていたのか。捕まえた者たちから地球や日本の状況を調べていたに違いない。
日本からの転移者を捕まえていたのは、やはりアビスネビュラだったのだ。
「なぜ転移者を捕まえる!? いったい何を企んでいるんだ!」
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