261話 近代兵器
隊員による進撃を、前方に飛び出したフォンが受け止める。
サブマシンガンによる銃撃を素手で受け止めると、相手の武器を横取りして握りつぶす。ぐしゃぐしゃになって放り出された武器を見て、敵は戦意を喪失した。
ステラはサブマシンガンを奪うと相手の足元目掛けて発射する。嵐のような弾幕に隊員たちは一歩も近付けなくなった。
「ドラフトバニッシュ《絶風圧殺奪》!」
お婆さんを守りながら後ろで様子を見ていたアリシアが、遠隔で窒息魔法を唱える。
家の横から接近しようとしていた隊員たちが、酸欠で失神して次々と倒れていく。
そして迫撃砲を破壊してきたバルザードとシデンが、後方からやってくる別の装甲車に飛び掛かった。
「よいっしょおおお!」
バルザードが装甲車の前面を力ずくで押さえて動きを止めると、シデンが素手で扉をはがしてしまう。
車内から逃げ出してきた隊員は、両手をあげて降参した。
近代兵器が敵に回っても全く問題ではない。
異世界イゼリア――カズヤたちの圧勝だった。
戦意を喪失して地面に倒れている者たちを、カズヤたちが拘束していく。
「くそ、霧山め! なんでこんなに強いんだ!?」
倒れている隊員の中に、先輩だった山崎がいた。
「おい、これは風神セキュリティの仕業だな。誰の命令だ!?」
「ちょ、ちょっと待ってくれ霧山。俺は悪くないんだ、本部の命令だから仕方なかったんだよ。警察がお前やテセウスに気を取られている隙に、ひと波乱起こすだけだったんだ」
聞かれてもいないことをベラベラと喋りだす。
カズヤはすぐに保身に走る山崎に返事をする気にもなれない。無言で近寄ると、右腕に備えられた電気ショックで気絶させた。
「こいつらに指示を出している奴がいる。敵は風神セキュリティの本部にいるぞ」
カズヤは山腹にある巨大な施設を睨みつけた。
*
突然襲ってきた風神セキュリティの襲撃者たちを捕らえた。
カズヤたちは首謀者を捕まえるために、山中にあった本部の建物へと向かう。
やがて建物の一部が見えてきた。
上空から見ても大きく感じたが、間近で見ても体育館3個分はありそうなほど巨大だ。
そして本部にたどり着いたカズヤたちを、信じられない兵器が待ち受けていた。それは本部の正門の前にずらりと整列している。
「カズヤ、何だあれは? トラックとも違うようだが……」
バルザードには、何の乗り物なのか想像もつかない。
だが、その兵器はカズヤを驚かせるのに十分だった。
「……せ、戦車だって!? 正気か、ここは日本だぞ!」
「全部で10台あります。すでに戦闘態勢に入って待ち構えています。注意してください」
ステラの報告どおり、並んでいる戦車は10台。日本の住宅街で姿を見るとは想像もしていなかった。
先頭の一台が砲塔を旋回させると、主砲をカズヤに向ける。
照準器を合わせる一瞬の沈黙のあと、この近距離でいきなり発射された。
「人間相手に撃つのかよ!!」
すでにカズヤは人間では無いが、そんなことを忘れるくらいの衝撃だ。
あわてて電磁シールドを展開させて、砲弾の向きを変えて弾き返した。道路脇に着弾して側溝と民家の塀を吹き飛ばした。
「戦車が市街地で撃ってもいいのか!?」
攻撃を防ぎながらも、あり得ない出来事にカズヤは驚愕する。
「面白そうな兵器じゃないか。どれだけ頑丈が俺が試してやろう」
風神セキュリティの好戦的な態度が裏目に出てしまう。いきなり攻撃されて、黙っているほどカズヤたちは大人しくなかった。
戦闘が始まったことを確認したシデンが、電磁ブレードを手に戦車に向かって突撃していった。
主砲の旋回が間に合わない戦車隊は、フルオートの機関銃射撃でシデンを狙う。
だが、すばやい動きのシデンを捕らえられない。
シデンは手にした電磁ブレードを振り上げると、戦車に突き刺した。その威力は戦車の装甲をものともせず、内部の機構まで粉砕する。
鋼鉄の身体がやすやすと切り裂かれると、白煙をあげて破壊されてしまった。
「俺様にもやらせろよ!」
雷の魔法を身にまとったバルザードが、単身で戦車部隊へ突進する。機関銃の一斉掃射を右へ左へと軽々とかわしていく。
「ほらよっ!」
雷撃を伴ったバルザードの攻撃は、戦車の電子システムを完全に破壊する。爆発音が轟くと、たった一撃で戦車の機能を停止させてしまった。
後方から、アリシアの力強い呪文が聞こえてくる。
「フレイム・インフェルノ《疾風業炎舞》!!」
風と炎が合体した魔法が戦車に襲いかかる。巻きあがった炎が戦車を包み込み、耐えきれなくなった操舵手たちが逃げ出してくる。
火花が飛び散り炎に包まれ、破壊された残骸が周囲に散乱する。
砲撃が間に合わないと判断した一台は、フォンを目掛けて体当たりしてきた。
しかし、フォンは片手で戦車の突進を軽々と止める。
そのまま両手で下からつかみあげると、砲身を下にして車体をひっくり返してしまった。
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