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026話 カズヤの命令

 

「それよりカズヤさん、襲撃のときに怪我をしていませんか?」


 ステラは食事の片づけもそこそこに、再びカズヤの体調を気にし始めた。



「まあ、アダプトスーツも問題なく使えてるし、大丈夫じゃないかな。このスーツの力って、もっと強くすることはできないの?」


「強くするのは簡単ですが、その力の反動に生身の身体がどれだけ耐えられるかが問題なのです。カズヤさんの脆弱な身体なら、関節部の機械でサポートしても20倍程度が限界です」


 なるほど、身体に密着したスーツでは、反作用による負荷も考えなくてはいけないのか。



「自分で気づいていない部位を怪我しているかもしれません。少し調べさせてください」


 そういうと、再びステラがカズヤの身体を調べようとしてくる。


「大丈夫だって、何も問題ないって!」


 あわててカズヤが飛び退いた。


「そんなことを言っていたら診断ができません。よく見せてください」


 ステラは何かと理由をつけて、身体を触ろうとしてるのかと勘ぐってしまう。



「わ、わかったって……それにしてもステラの腕力は凄いな。ザイノイドの強さっていうのはどれくらいなんだ。ロボットということは、身体能力も人間とは違うのか?」


「用途や個体差もありますが、握力や跳躍力、瞬発力は人間の50倍以上あります。もちろん疲れることはありません」


 やはりザイノイドは恐ろしいほどの身体能力だ。アダプトスーツの比ではない。なかでも疲れを知らないというのが、一番大きなメリットかもしれない。



 ステラが返答して動きが止まった隙に、気になっていたことを矢継ぎ早に尋ねてみた。 


「以前、ザイノイドが自我を持つことがあると言っていたよな。それなら人間の指示に従わない奴もいるんじゃないのか?」



「ソウイッタケースもあります。ですから私たちザイノイドは、基本的には人間の指示で動くように制限されています。作戦に反しない限り、ザイノイドには人間種の命を救う義務がありますし、人間種を殺せないようにプログラムされています」


 ザイノイドには、そんな制約があるのか。


 デルネクス人とかいう人間たちは、ロボットの活動をかなり制限していたようだ。



「ザイノイドの権利ってどうなってるんだ? 見た目も中身も、人間とほとんど変わらない気がするけど」


「準人間扱いになっていて、基本的には人間を補佐するのが役割です。そのような制限をうけているのは、能力的にはるかに優れたザイノイドを人間たちが恐れたからでしょう」



 カズヤは元の世界のロボット三原則を思い出す。ザイノイドには人間と同じ人権は無いということか。


 人間がザイノイドを恐れたというのは想像がつく。自分より優秀な知的生命体を警戒しているのだ。


 もちろん問題がある気もするが、ザイノイドを作ったデルネクス人とやらが作った決まり事だ。


 そのおかげで命を助けられた面もあるし、カズヤが考えることでもない。



「今の私は軍の船から離れて独自に行動しています。ですからカズヤさんは仮のマスターという扱いなのです」


「じゃあ、いずれはステラが俺から離れて、他の人の指示に従うこともあるっていうことか。……まあ、俺はマスターになるなんて器じゃないしな。今のステラは、割と自由に行動できるんだな」


 何気ない口調でカズヤが返答する。



 だがそんな何気ないカズヤの一言で、ステラの身体に緊張が走った。


「元軍属である私には、誰に従うかについての重大な決まりがあります。敵でない限り事実を伝えるようにプログラムされているので、正直にお答えしなければいけないのですが……」


 ステラは今までにない真剣な顔でカズヤを見つめている。



「もしカズヤさんが私に専属的なパートナーになるよう命令した場合、特定のマスターがいない私は、その命令に従わなければいけません。これには私の意思は一切関係ありません」


 一時的に軍隊を離れたといっても、ザイノイドには人権的に制約がかかっているということか。


 カズヤは何気なく、とんでもなく大事な質問をしてしまったらしい。



「カズヤさん……私をどうしたいですか?」



 ステラが真剣な表情で尋ねる。


 人間の補佐をすることを目的としたザイノイドは、誰かをサポートすることが目的で存在している。すべての乗組員が死亡してしまった今のステラの状況は、野良ザイノイドのようなかなり特殊な状況だ。


 カズヤが一言命令さえすれば、今後もステラを思い通りに支配できるということだ。 



 ステラは身体を硬直させたまま、じっとカズヤの返事を待っている。



「……いや、特に何もしないけど。プログラムされている決まりだとしても、それはステラの権利じゃないとおかしいよ。俺が命令することではないかな」


 カズヤは悩むことなく、当たり前のこととして答えた。


「い、いいんですか!? ザイノイドを支配下に置けるのは、かなりのメリットがあると思いますが……」


 普段は滑らかに動くステラの身体が、どこかぎこちなく震えている。



 たしかに、これだけ優秀なザイノイドを思い通りに使えるのは、かなり有益だろう。


 だが、ステラにだって自分の指揮官を自由に選ぶ権利があるはずだ。命令して無理やり決めるのは間違っている気がする。



「メリットは大きいかもしれないけど、やっぱりステラが自分で選んで決めるべきだよ。ただまあ、急にいなくなるのは困るから、その時がきたら前もって教えて欲しいかな」


 カズヤはあっけらかんと、笑いながら答えた。


 ステラは目を真ん丸にして固まっている。



「そうですか……わかりました。専属的なマスターが決まるまでは、カズヤさんに協力しますので」


「ありがとう。別のマスターが決まるまでよろしくね。……ふわぁっ、色々あって疲れたから、少し眠らせてもらってもいいかな」


「わかりました。情報が集まりましたら報告します」


 カズヤはステラの返答を待たずに、ベッドに横になる。



 そんなカズヤの寝顔を見ているステラの顔には、うっすらと柔らかい笑みが浮かんでいるのだった。


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