259話 民家襲撃
「それより、お婆さんが無事でよかったわ。ここが襲われたらどうしようかと心配してたの」
アリシアがお婆さんに向かって笑いかける。
もちろん言葉は通じないが、カズヤを介してお互いの遅い自己紹介はすんでいた。
お婆さんは桜月市で生まれ育ち、今は独り暮らしをしている。
名前が田中さんだというのも、アリシアはカズヤから聞いて初めて知った。田中のお婆さんはアリシアを見て、娘さんのことを思い出し懐かしくなったそうだ。
お婆さんはすでに家族を全員亡くしていて、天涯孤独の身で過ごしている。そのこともアリシアの面倒を見た理由の一つだった。
日が暮れてきたので、その日は全員でお婆さんの家に泊めてもらうことにした。
7人の大所帯だが、大きな戸建てなので問題ない。
田中のお婆さんが気前よく全員に手料理をふるまってくれた。アリシアやバルザードたちが大喜びで舌鼓をうつ。
一足先にお婆さんの家に世話になっていたアリシアは、まるで自分の物のように電化製品を自慢し始める。
それをバルザードとピーナが驚きながら眺めていた。
夜遅くなると大部屋に布団を並べて、みんな大の字で寝ていた。
日本家屋で全員が穏やかにくつろぐ光景を見ると、昼間に起きた惨劇が信じられない程おだやかだった。
一方でザイノイドであるカズヤとステラ、フォンは夜通し起き、異状がないか推移を見守っていた。
「……それにしても、あの風神セキュリティの装備は普通じゃなかったな。街の中であんな武器を使うなんて、俺が日本にいた時には想像したこともなかったよ」
カズヤは風神セキュリティの装備を思い出す。
平和な日本で起きた魔物の襲撃だけでなく、応戦出来るほどの銃火器の装備がどうしても信じられなかったのだ。
「たしかに街の様子や一般人と比べると過剰な装備でした。あれだけの武器を持っているのなら、彼らの傲慢な態度も納得できます」
ステラの目にも不自然に映っていたようだ。
通常時の風神セキュリティは不遜な態度だった。街での警備活動や治安活動を、うっとうしく感じていた人も多かったに違いない。
「でも、魔物が出現すると彼らの活躍で撃退することができた。これで風神セキュリティへの感謝の声は高まるだろう。ただ……」
カズヤはどうしても違和感をぬぐえない。
あまりにもうまく行き過ぎている気がするのだ。まるで過剰な風神セキュリティの防衛力を、肯定するかのような騒ぎが起きた。
この事件で得をするのは誰なのか。
危険が迫っていることを声高に主張して、自分たち風神セキュリティの存在意義を訴えるのなら最適な事件だった。
通常ならあり得ない装備を持つ組織でも、魔物が襲ってくる危険性があるのなら不可欠だと言われてもおかしくない。
異世界イゼリアへ渡ったカズヤは、自然と出来事を疑う性質が身についていた。
「でも、もう俺はこの街に住むつもりはないし、これ以上首を突っ込むのもな……」
カズヤは悩んでいた。
この街で何かおかしなことが起こり始めている予感がする。
テセウスや魔物が、なぜ日本に現れたのか理由は分かっていない。なぜ民間組織が過剰なまでの武器を行使できるのかも理解できない。
だがカズヤはこの街に戻るつもりはない。
無事にアリシアを発見できたので、あとはパーセルを呼んで帰ればいいだけだ。
以前カズヤがイゼリアに転移したばかりの時、アリシアを救助したことが旧首都エストラの崩落へと繋がったことを思い出していた。
この事件に、どこまで関わっていいのか悩んでいたのだ。
「別にこの街に住まないとしても、気になるなら調べたらいいんじゃないですか。ここはマスターの故郷なんですよね」
「考えすぎだと思いますよ、カズヤさん。やりたいと思ったことは最後までやるべきです」
ステラとフォンが、カズヤの背中を後押しする。
「……そうだな。もう少し調べてみようか」
やがて、だんだんと空が白んでくる。
魔物の再度の襲撃がないか警戒していたが、どうやら何事もなく夜を越えられたようだ。
しかし自分の意思など関係なく、カズヤは更なる騒動に巻き込まれるのだった。
*
「……マスター、空飛ぶ怪しげな機械がこちらに向かってきています」
空が白み始めてしばらくした頃。
ステラがカズヤの注意を喚起した。カズヤの聴覚センサーにも模型のようなプロペラ音が聞こえてくる。
空を見上げると、数台のドローンが飛んでくるのが見えた。
「あれは、この世界のF.A.《フライトアングラー》ですか?」
たしかにドローンは、地球で言うところのF.A.と似ているかもしれない。
だが、なぜこんな朝早くに飛んでいるのか。
ドローンはこちらを監視するように、一定の距離で空中でホバリングを始めた。
すると突然、何かが爆発したような音が聞こえてくる。
見ると、カズヤたちに向かって砲弾が飛んできている。
「あぶないっ!」
カズヤは慌てて弾道から外れる。
ドゴォォンッ!!
着弾すると同時に激しい爆発音があがり、庭に大きな穴があいた。
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