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258話 side:遠藤アオイ

 

 武装した風神セキュリティの警備員たちは、銃火器を魔物に向けると容赦なく発砲する。


 手にしているのは拳銃やナイフなどではなく、映画で見るような戦場で使う大型の武器だ。サブマシンガンのような物を脇に抱えると狼型の魔物に向けて撃ち続ける。



 炸裂する銃撃と魔物たちの咆哮。


 かつては風神セキュリティの傍若無人な行動や、増長した態度に反発する人も多かった。だがこんなにも恐ろしい魔物を駆逐してくれるのなら、賛同する者も増えていくに違いない。



 魔物たちへ猛烈な弾丸の嵐が降り注ぐ。いつの間にか地面に設置された機関銃からも、魔物に銃弾の雨を浴びせている。


 手りゅう弾を魔物の群れに投げ込むと、爆破とともに辺りが一瞬で火の海と化した。多くの魔物が巻き込まれる。



 だがしばらく経つと、今度は魔物たちの反撃が始まった。


 狼型の魔物は強靭な体躯と常識外れの跳躍力で、風神セキュリティ部隊の背後に回りこむ。


「た、助けてくれぇ……!」


 鋭い爪で防具を引き裂くと、凶暴な牙で部隊に襲い掛かった。



 そして混沌とした戦場から、一匹の魔物が腰を抜かした遠藤アオイの方へ歩いてくる。


 醜い豚のような顔をした化け物だ。


 大きな口からは凶暴な牙がのぞき、だらしなくよだれが流れている。荒々しい呼吸音が耳に届き獣の匂いが漂ってきた。



「こ、来ないで……!」


 必死に手を伸ばして、魔物を拒否する遠藤。


 しかし魔物が足を止めることはない。


 遠藤は醜悪な魔物から目を離し、頭を抱えて身を護った。



 その時。


 遠藤の横を一陣の風と影が通り過ぎる。


 それは人だった。


 光り輝く剣を持ち、目にも止まらない速さで魔物の首を落とす。



「おい、大丈夫か! ……って遠藤だったのか」


 それは霧山くんだった。


 光る剣を手にした霧山くんが豚の化け物を倒したのだ。


 そこにいたのは遠藤が知っている影が薄い高校時代の姿ではない。魔物を前にしても恐れることなく立ち向かう一人の戦士だった。



 すると赤毛赤目の美しい女性が、遠藤の腕を引っ張りあげて立たせてくれる。


「あ、あの……」


 その隠しようもない程の美しさは、遠藤がお礼を言うのを忘れてしまうほどだ。


「ここは危ないわ。後ろの建物に入っていてね」


 女性が何かを話したが、どこの言葉か分からない。ただここから逃げろと言っているような気がした。



 すると女性と遠藤の前に、別の狼型の魔物が近寄ってきた。


「この人は、あんたの餌になんかならないわよ」


 何もない女性の腕から急に炎が立ち昇る。


 周囲の空気を巻き込んで、強烈な炎の塊が魔物を包み込む。巨大な狼は弱々しい鳴き声を残して、その場に崩れ落ちた。



「アリシア、この辺りは特に魔物が多い。手分けして倒そう」


 二人は目配せして確認しあうと反対側に向かって走りだす。


 まるでアニメや映画のような光景だ。



 信じられない体験の只中にいる遠藤は、避難することも忘れて、ただその場に立ち尽くすだけだった――




 *



 カズヤたちは魔物を見つけるたびに一撃で葬り去った。


 この程度の強さの魔物たちを相手に、カズヤたちの戦力は過剰なほどだ。


 魔物の数は200体ほど。


 以前セドナの街に襲い掛かってきた魔物の群れを考えると、それほど多くはない。風神セキュリティも、カズヤたち程ではないが確実に魔物を倒している。


 夕方までには、桜月市を歩き回る魔物の姿は完全に無くなっていた。



「やれやれ、やっと全部の魔物を倒したようだな」


「でも、この魔物がどこから来たのか分かっていないわ、この程度では済まないかもしれない」


 アリシアは懸念を口にする。



「念のため、もうしばらく警戒しようか。どこか人目につかない場所があるといいんだけど……」


「それなら、いい所を知っているわ!」


 カズヤたちはアリシアにお婆さんの家まで案内される。お婆さんは再びアリシアと出会えたことに喜びを隠せなかった。



 カズヤは山の中腹にある古びた日本家屋から桜月市を眺める。警察や救急車のサイレンがうっすらと響いて聞こえてきた。


 負傷した人々、破壊された街並み。


 桜月市が日常の風景に戻るには、かなり時間がかかりそうだった。



「魔物の数はそれほど多くありませんでしたので、あの風神セキュリティという組織だけでも十分応戦できたはずです。もちろん、その場合はもっと被害が拡大していたと思いますが」


 ステラの分析を聞いてカズヤはうなずく。



 思っていたよりも魔物の数は少なかった。


 何より魔物が出現したのが桜月市と周辺の街だけだったのだ。


 街全体がとんでもないパニックに襲われたせいで、警察に怪しまれていたカズヤ達どころではないだろう。


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