257話 山崎と遠藤
日本の住宅街で、傭兵集団と魔物が戦闘する光景には違和感しかない。
「……でも、そんな場合じゃない、少しでも多くの魔物を撃退しないと」
風神セキュリティの銃火器による攻撃は、確実に魔物の数を減らしている。こうなったら銃火器だろうと魔法だろうと、魔物を倒してくれるなら何でもよかった。
だがカズヤが戦いに赴こうとしたとき。
突然、風神セキュリティの隊員の一人に呼び止められた。
「……おい、お前は霧山だな。俺たちの邪魔をするな!」
それは昨日出会った先輩、山崎だった。
「またお前か。こんな状況で何を言ってる? 魔物を倒す目的は同じだろう」
「それが邪魔だと言ってるんだ。この場から離れないと、どうなっても知らないぞ!」
山崎は持っていた拳銃の銃口をカズヤに向けた。
信じられない暴挙に、カズヤは開いた口が塞がらなかった。
「……それはおもちゃじゃないぞ。人に銃口を向ける意味が分かっているのか?」
「この魔物を倒すのは俺たち風神セキュリティの役目だ。邪魔をするな!」
山崎はただの脅しのつもりだろうが、冗談ではすまされない。
次の瞬間。
カズヤの姿が山崎の視界から消える。
そして山崎が反応できない速さで銃をつかみ取った。
「な、なに……!?」
腕力だけで捻じ曲げると銃はギギギッという音をあげながら、飴細工のように容易く変形した。
カズヤは鉄くずとなった銃を山崎に向かって放り投げる。
「こんなくだらないことをしている間に、襲われている人がいるかもしれない。邪魔しているのはお前の方だ」
カズヤは山崎には見向きもしないで、魔物に向かって走り出した。
「カズヤさん、魔物の数は200体ほどです。どうやら、この街周辺に集中して出没しています」
上空からリオラが教えてくれる。
200体程度なら大したことはない。
地球の重力のせいで若干身体が重たいが、C級やD級の魔物なら何体いようと問題ではない。魔力が弱まっていようと関係なかった。
この場にはイゼリア最強の戦力が集まっている。この程度の魔物相手には過剰なくらいの戦力だ。
「俺たちも魔物を倒すんだ!」
カズヤの号令でステラやフォンたちが飛び出した。アリシアやバルザード、シデンたちも続いていく。
カズヤたちは武器を手にすると、桜月市の中心部へと走り出した。
*
遠藤アオイは、高校を卒業すると地元の会社に就職した。
高校の同級生の一人が霧山くんだったのだが、当時は目立たない存在だった。
卒業後には存在をすっかり忘れていて、行方不明になったという噂を聞いて初めて思い出したくらいだ。
最初のうちは仲間内で噂になっていたが、やがてその噂も忘れられていく。卒業とともに連絡がとれなくなる友人は他にもいたからだ。
そして昨日久しぶりに霧山くんと出会った。
その姿は以前とは見違えるほど変わっていた。
顔や体格はほとんど変わっていない。
だが顔つきに精悍さが増して自信にあふれていた。そして一緒にいた青髪の女性は、モデルのように顔が整っていて美しかった。
そんなことを思い出しながら、遠藤アオイはゆっくりとベッドから起き上がる。
今日は仕事が休みだ。
朝も遅くに目覚めると、昼前には繁華街へ向かって家を出る。そこで友だちと買い物ついでにランチをする約束をしていたのだ。
いつもの道のりを急ぎ足で歩いていく。
青く晴れ渡った気持ちがいい空だった。
しかし、遠藤がしばらく歩いていると街の異変に気が付いた。
けたたましい車のクラクションが鳴り響き、大きな叫び声が聞こえてくる。取り乱した様子で走ってくる人たちを何人も見かける。
「えっ……?」
広い交差点の角を曲がると、あり得ない光景が広がっていた。
見たこともない巨大な生き物が、街中を歩き回っているのだ。
豚のような顔をした二足歩行の動物が通行人を襲っている。軽自動車と同じくらい大きな犬型の動物が、走り回っているのも見える。
はじめは映画の宣伝やイベントの一環だと思って好奇の目を向けていた人々も、ゴブリンらしき生物が通行人に襲い掛かると、その錯覚は一瞬で吹き飛んだ。
カフェの窓ガラスは豚の顔をした魔物の一撃で粉々に砕け、別の豚の魔物はたった一体で車を持ち上げて軽々とひっくり返した。
交通は完全に麻痺していて、信号を無視する車と逃げ出す人々がぶつかりそうになっている。
わずかな数の勇敢な警官が人々を誘導しようと奮闘していたが、混乱は収まる気配を見せていない。
足が震えて腰をぬかした遠藤は、道路わきに座り込むので精一杯だった。
「あっ、あれは……」
そこに武装した風神セキュリティの警備員たちが現れた。
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