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252話 side:カズヤ

 

 不意に、アリシアの目に涙があふれてくる。


 今まで我慢してきた寂しさが、抑えきれないほどわき上がってきてしまった。


 知らない街で頼る人もなく一人で心細くさまよっている。これが、この先ずっと続くかもしれないのだ。


(……もう二度とカズヤとは会えないかもしれない。いつでもバルくんが傍で護衛してくれていた。お父様や兵士たちも近くにいた。王女である私は、やっぱり皆に守られていたのね……)


 あらためてアリシアは、自分が特別扱いを受けていたことを実感する。



 こっちの世界にたどり着いた時には、自分が置かれた状況をまだ実感できていなかった。お婆さんの家に泊まっていた時も、どこか旅行気分があったかもしれない。


 しかし、暗い公園のなかで一人で座っていると、言いようもない孤独感に包まれてしまう。冒険者として誰もいない森の中で過ごすのともまた違っていた。



 一人でベンチに佇むアリシアの前を幸せそうなカップルたちが時折行きかい、アリシアに不思議そうな視線を向けてくる。


 アリシアは人通りが少ないベンチに移動すると、その上に横たわった。


(起きていても悲しいことばかり想像してしまう。もう寝ましょう。私にはテセウスを捕まえるという使命がある。その先のことは、決着が付いてから考えればいいわ)


 アリシアはベンチの上で目をつぶった。



 ちょうどこの日の昼過ぎ、カズヤたちが地球に到着していた。みんなが隣町の桜月市でアリシアを探し回っているとは夢にも思わない。



 そしてベンチで横たわるアリシアの様子を、遠くから見つめる男たちの姿があった。


 だがそのことに、魔力が弱っていたアリシアは微塵も気付いていないのだった――




 *


 カズヤたちはSNSの情報が途絶えたあと、再び足で探すことになった。


 すでに日付が代わり、早朝から歩き回っているが新たな手がかりは見つからない。



 すると一羽のカラスがピーナのもとへやってきた。


「……カズ兄。この鳥さんが、全身がぼやけた不思議な人が山の方に歩いて行ったって話してるよ!」


 全身がぼやけた不思議な人……? 


 カラスが人間のお化けでもみたのだろうか。たしかに奇妙な話だが、アリシアの捜索に繋がるとは思えない。



「こっちだって!」


「お、おい。ちょっと待てよ!」


 ピーナがカラスを追いかけて走り出してしまった。


 カズヤたちは慌てて追いかける。



「ピーちゃん、オイラに乗りなよ!」


 ピーナは途中から雲助に乗り込むと、カラスに従ってどんどん飛んでいく。街なかからも随分遠くなってしまった。



「頼むから勝手に行かないでくれ!」


 ピーナが一人で宇宙船に乗り込んだことを思い出してしまう。


「カズ兄、もっと向こうだって!」


 とうとう町はずれの山の麓まで来てしまった。



 その場所にたどり着いた途端。


 今度はバルザードが大声をあげた。


「……おい、この辺りから姫さんの匂いがするぜ! 間違いない、たしかにこの辺りにいたはずだ!」



 バルザードが確信をもって宣言すると、鼻をヒクヒクさせて匂いをたどって歩き出した。


 カズヤとステラは、今度はバルザードの後をついていく。バルザードの進む方向は、ピーナが向かっている方向と同じだった。



<……シデン。バルがアリシアの匂いに気付いたみたいだ。ピーナも手がかりらしきものを見つけた>


 シデン組に連絡して、すぐに合流する。



 バルザードの鼻を頼りに坂道を登っていくと、ぽつんと建っている昔ながらの日本家屋を見つけた。


「カラスさんが、この家にいたって言ってるよ!」


「ここだ! 姫さんが、この家にいたのは間違いないぜ」


 二人は同じ家を指さした。一見すると誰も住んでいないような古くさい建物だ。



 カズヤは、二人を信じて玄関のベルを鳴らす。


 すると、家の中から白髪頭の優しそうなお婆さんが姿を現した。


「……あの、朝早くにすみません。ここに赤い髪と目をした女性が訪ねてきませんでしたか?」



 だが、お婆さんはかぶりを振る。


「いいえ、赤い髪の女性は来ませんでしたよ。可愛らしい外国のお嬢さんは来てたけど……」


「外国のお嬢さん……? あっ、ひょっとして!」


 お婆さんの言葉で、カズヤは自分の思い込みに気が付いた。



 アリシアは幻術の魔法が使える。赤髪赤目のドレス姿のままなら街で目立ってしまう。


 変装していて当たり前なのだ。


 赤髪やドレス姿を目印に探していたのが、見つからなかった原因の一つだったのかもしれない。



「とても綺麗で親切なお嬢さんだったわよ。日本語が話せなかったけど、この家に2日ほど泊まっていったわ」


 その女性がアリシアで間違いない。


 カラスが話していた全身がぼやけた人間というのは、幻術魔法で姿を変えたアリシアのことだったのだ。



「でも、そのお嬢さんはもういないの。昨日の朝、この新聞の事件を気にして出て行ってしまったのよ」


 お婆さんが、ごそごそと後ろの方から新聞を取り出す。


 それは別の日のテセウスの記事だった。



「……お、おい、こいつは!?」


「テセウスじゃないか! なんで奴がこの世界にいるんだ!?」


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