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248話 お婆さん

 

 残りの男性が、アリシアを囲んで連れていこうとする。


「もう、来たばかりで手荒な真似はしたくなかったのに……」



 日本人男性5人程度では、アリシアの相手にならない。素早く身体を入れ替えると、次々と体術のみで全員をひっくり返してしまう。


 魔法をいっさい使わなくても、まともに相手ができたのは一人もいなかった。


「くそ、こいつ格闘技でもやっているみたいだ」


 5人は、ほうほうの体で逃げて行った。



「カズヤから魔物がいない世界だとは聞いていたけど、こんなに弱くて大丈夫かしら?」


 男5人がかりで年下の女の子に負けたなどとは、恥ずかしくて他人に言うことは出来ないだろう。


「また彼らが戻ってきたら面倒ね。ここに長居しないほうがいいわ」


 悪い意味で注目を集めてしまったアリシアは、すぐにそこから離れる。



「この外見が目立つのよね。幻術の魔法で変えられないかしら」


 まずは一番目立つドレスを、周りの女性と似た服装に変えてしまう。


 すると魔法を使うために、思っていた以上の集中力が必要になることに気が付いた。



「全く使えない訳では無いけど、魔力がすごく弱くなってる……。カズヤが魔法を使えなかったのと関係しているのかしら」


 そして髪の毛や目も黒色に変えてしまう。


 外見を変えたおかげで、アリシアは周りの人々に溶け込んだ。不用意に注目を集めたり、いきなり話しかけられることはなくなる。



 少し落ち着くと、アリシアはあたりの街並みを見回した。


「カズヤが作ったクルマよりも、ずっとずっとカッコイイわね。色々な形や色があって見ているだけで面白いわ」


 この世界に魔法は無いと聞いていたが、元いた世界とは違う種類の技術力がある。特にクルマなどの工業的な面で発達しているように思えた。



 車だけでなく建物の高さにも感激する。道路は全て石で覆われていて、両脇には樹や花が植えられていた。


「子どもや女性が当たり前のように一人で歩いている。さっきみたいな人はいるけど、危険はなさそうね」


 カズヤの話も思い出しながら、アリシアは周囲の景色に見とれていた。




 アリシアがしばらく街の中をあても無く歩いていると、高齢の女性が道路脇ぎりぎりを歩いているのが見えた。


 一歩間違えれば、クルマにひかれそうな状況だ。



「あのお婆さん大丈夫かしら。クルマが横をビュンビュン行き交っているけど……」


 カズヤがセドナでトラックを作ったばかりの時も、クルマが何か分からずに突然飛び出してくる人が多かった。


 アリシアは、その時のことを思い出していた。



 すると、お婆さんが急に道路を横断しようと飛び出した。


 後ろから来た車に気付いていない。猛スピードの車にひかれそうになる。


「危ないっ!!」


 耳障りなクラクションとブレーキ音が辺りに響いた。



 その瞬間。クルマは突如として突風にあおられた。


 前輪から浮き上がると、不自然な動きで横の車線へ吹き飛ばされる。


 アリシアが事前に発動していた風魔法が直撃したのだ。



 運転手は何が起きたのか分からない。


 突然お婆さんが飛び出してきたのでクラクションを鳴らしたら、急にクルマが浮き上がって隣の車線を走っていたのだ。


 結局クルマは止まることなく、そのまま走り去っていった。



「お婆さん、大丈夫!?」


「ありがとう、お嬢さん。危ない車だったわねえ」


 どちらかというと悪いのはお婆さんの方だが、呑気な声でアリシアにお礼を言う。


 お互い言葉はまるで通じていないが、二人は雰囲気だけで会話していた。



「クルマには気を付けてね。私の国でもみんなが何度も轢かれそうになっていたのよ。クルマって便利だけど危ないわよね」


 アリシアが話しかけると、お婆さんは分かったように頷いた。


「あなたは黒目黒髪だけど日本人ではないのね。外国から来た観光客のお嬢さんかしら。良かったら、お礼をしたいので私の家へこない?」


 お婆さんはそう言うと、アリシアの腕を引っ張っていく。



「……ええと、これは付いてきて欲しいって言ってるみたいね。悪い人ではなさそうだし、大丈夫かしら」


 アリシアは誘われるまま、お婆さんの家に着いていくことにした。


 街のなかを通り過ぎると通行人の数も減っていく。その道のりは想像していたよりも長かった。



 お婆さんの家は街外れの山の途中にあった。


 周りに人家はほとんどなく、庭が付いた古くて大きい日本家屋に一人で暮らしているみたいだ。


 アリシアが行く宛も無く言葉が通じない外国人だと分かると、お婆さんは温かい食事を用意してくれる。


 そのうえ、丁寧に寝る部屋まで用意してくれた。



「ご馳走してもらった上に、服まで借りちゃったわ」


 頼るところが無かったアリシアは、お婆さんの家ですっかりくつろいでしまった。


 そのままお婆さんの言葉に甘えると、結局その家に泊まってしまうのだった。



 *


「この濁った緑色のお茶を飲むと、不思議と動きたくなくなっちゃう……。香りも落ち着くわ」


 次の日もアリシアは、お婆さんに食事を用意してもらって服まで借りていた。



 家に飾られている本物みたいに精巧な絵を見ると、どうやら娘さんが着ていた服のようだ。その娘さんが今も生きているか分からないが、少なくとも今はこの家にはいない。


 アリシアはこれからどうしようかと思案しながら、座卓でお婆さんと向かい合っていた。相変わらずお互いの言葉は分からない。



 この状況を何とかしなければとアリシアは気が急くのだが、床が草でできた部屋でお茶を飲んでいると自然とくつろいでしまう。


 足に根が生えたかのように、なかなか動き出すことができなかった。


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