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246話 SNS


「マスター、ここに帰るつもりなんですか?」


 ステラが心配そうに尋ねてくる。


「いや、もしもの話だよ。魔物が棲むイゼリアにいるならザイノイドの方が便利かもしれない。でもこの街に住むのなら人間の方がいいなと思っただけだよ」


「そうですか……」



 今まではイゼリアという異世界にいたので、カズヤはザイノイドである自分を受け入れていた。


 それにザイノイドになってからは怒涛のような勢いで、アビスネビュラとの戦闘や遷都の建設事業が続いていた。


 あえて忙殺されて、考えないようにしていた面もあったかもしれない。



 だが日本に帰って来たことで、自分がザイノイドである違和感が強くなっていた。日本での些細な経験に思いを馳せてしまっている。


 カズヤはもっと故郷の匂いを感じたかったし、季節の風に直接吹かれたかった。


 気温の変化を肌で感じたいし、腹の底まで食べ物を味わいたい。視覚や聴覚のセンサーではなく、自分の目で景色を見たいし音を聞きたい。



 外観は同じに見えるが、今の自分はザイノイドであって人間ではない。周囲の見慣れた風景と隔絶された感覚が残っていて、元の人間のときには戻れない疎外感があった。


 平和な日本に戻ってきて、人間であることの良さを思い出したのだ。



「それは素敵な経験ですね。辛いことや苦しいことがあっても、それが人間の素晴らしさだって小説に書いてありました。僕たちには味わえない感覚です」


 フォンが、しみじみとした口調でつぶやいた。



 *


 その後もカズヤたちは歩きまわったが、やはりアリシアの痕跡は見つからない。


 すでに誰かの手を借りているかもしれないし、夜は屋内で寝ている可能性もある。それにもしアリシアが警察に保護されているとしたら、見つけられなくても当然だ。



「マスター、このまま歩き回るばかりでは埒があきません」


 隣にいるステラから厳しい突っ込みをうける。確かに、目視で街を歩き回るだけでは限界があった。



「そうだな、少し方法を変えてみるか……でも現代の日本だったら、どんな手段があるんだっけ」


 今では珍しくなった公衆電話を見つけると、カズヤは鈴木に電話をかけてみる。



「鈴木くん、夜遅くに申し訳ない。今日一日歩き回ったんだが、アリシアの手がかりが全く見つからなかったんだ。警察に頼らないで人探しをするには、どうしたらいいと思う?」


 1年半近くこの世界にいなかったブランクを考えると、最近までこの世界にいて、かつ年齢が近い鈴木に聞いた方が早いと考えたのだ。



「そうですねえ……。あっ、SNSを利用するのはどうですか。帰ってきてから投稿したら閲覧数が半端無いんですよ。俺も前田も地元なんで知り合いが多いですし」


「SNSか……」


 もちろんカズヤもSNSのことは知っていたが、日本にいた時はほとんど使ったことがない。どれだけの効果があるのか、いまひとつピンとこなかったのだ。



「カズヤさん、試しにやってみましょうよ。アリシア様の写真はないですか?」


「アリシアの映像か。ステラ、持ってるか?」


「お好みのをどうぞ」


 隣にいるステラに尋ねると、空中にアリシアの映像を映し出す。なぜか少しだけ不機嫌そうだ。



「それを僕のスマホに送ってもらえますか?」


「すまほに送る、ですか……?」


 珍しいステラのきょとん顔が見られた。



 いくら機械同士とはいえ、規格が同じことはあり得ない。


 結局もう一度鈴木に会って、映し出したステラの映像を直接写真に撮ってもらうことにする。


 ザイノイドにあるまじきアナログな方法だった。



「じゃあ、後は俺と前田に任せてください!」


 鈴木や前田の知り合いに人探しをお願いすると、情報は瞬く間に拡散されていく。


 そしてなんと、すぐにアリシアらしき人物の情報が集まってきたのだ。



「見つけた! 間違いない、アリシアだ!!」


 興奮を抑えきれずに、カズヤの声がうわずる。


 ネット上にアリシアの情報が出回っていた。


 やはりここに来た当初は異世界の服装をしたうえに美人だったので、かなり目立っていたのだ。



「すごい美人の外国人がいた!」

「ファンタジー物のコスプレが似合ってる娘発見」

「髪を赤く染めて、赤いカラコンを入れてて本気度高い!」

「アニメ好きの気合が入った観光客だ。ただ、何のキャラか分からないけど」



 なかにはアリシアを隠し撮りした者もいたみたいだ。SNSには、アリシアの写真がたくさんあがっている。


 それ自体は褒められた行為ではないが、結果的に地球に来ているアリシアの写真を目にすることができた。



「服装も、セドナにいた時のままだ」


 アリシアの服装は、やはり式典向けの黄色のドレスのままだった。


 何かの街かどのイベントで、プロのモデルがコスプレしているかのような場違い感がある。



「やっぱり、アリシアは地球にいたんだ! しかも、これが撮られたのはつい最近じゃないか」


 日付を見ると2日前だ。


 アリシアがいなくなった日と同じだ。城内から失踪した時間から逆算すると、ここに飛ばされた直後の写真みたいだ。


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