245話 静かな夜
「……よし、仕方ない。みんなで中に入るか!」
覚悟を決めたカズヤが気合を入れる。
全員で近くのハンバーガーショップへ入って行く。
すると店内にいる全員がぎょっとした顔で、カズヤたちを見つめた。
カズヤは気が付かない振りをしながら、シデンとリオラ、バルザードとピーナの4人分の食べ物を注文して席に座る。
だが、店内の視線を一身に集めているのは変わらない。日本人のカズヤと外国人風の仲間たち。カズヤをのぞいたメンバーは全員かなりの美形だ。
そして髪の色がステラの青、シデンの金、フォンの緑、ピーナのオレンジ色とかなり目立つ。否が応でも店内中の注目を集めてしまう。
カズヤはこれが苦手だったのだ。
「カズ兄、おしっこ!」
さらにピーナの催促まで飛んできた。さすがに女性用トイレにカズヤが付いていく訳にはいかない。
「ステラ、ピーナと一緒に女性トイレに行ってもらってもいいか?」
「といれ、ですか……?」
もちろんザイノイドにトイレは必要ない。知識としては当然知っていても、ステラにお願いするのは少し無理があった。
「えっとじゃあ、すまないけどリオラ。一緒に行ってもらえるか?」
「自信ありませんが……頑張ります」
他の女性陣はリオラしかいない。
結局リオラがピーナと一緒に付いて行ってくれた。まさか、こんなことでリオラに頼るとは思ってもみなかった。
「……なるほど、これはなかなか美味しいな」
一国の皇太子様が美味しそうにハンバーガーを食べている。カズヤはその様子を複雑な気持ちで見ていた。
シデンのあまりにも旨そうな食べっぷりに、カズヤも少しだけ口に入れてみる。
「う、うまい……!!」
いつもの懐かしい味だ。ただのハンバーガーのはずだが、こんなにも美味しかったのか。
思いがけず、カズヤの目に涙があふれてくる。
ザイノイドになったせいで味覚は少し変わっているが、学生時代や社会人の時のさまざまな感覚や思い出が蘇ってくる。
ハンバーガーを食べながら涙を流すカズヤ。
周りの客も含めて、全員がカズヤを奇妙な顔で見つめたのだった。
*
その日の夜。
シデンやバルザードたちは、人目につかない山の中で野宿をする。
冒険者なので慣れたものだ。
それに対してカズヤとステラとフォンは、ザイノイドなので寝る必要が無い。カズヤたちは夜通しアリシアを探すつもりだった。
「ええと、確かこの辺りだったはずだけど……」
たまたま3人は、カズヤが昔ひとり暮らしをしていた木造アパートの近くを通りかかる。この部屋で寝ていた時に、突然カズヤは異世界・惑星イゼリアに転移してしまったのだ。
「……あの、これは倉庫ではなくて家ですか? マスターがスクエアでの奴隷生活にすぐに順応できた理由が分かりました」
ステラが可哀そうな人を見るように、カズヤを見つめる。
それほど酷い建物だとは思わないが、いつも住んでいるセドナの領主館と比べたら貧相であるのは間違いない。
昔住んでいていた部屋を外から確認してみる。
すでに違う人が住んでいるようだ。窓から蛍光灯の光が漏れていて、室内の家具の影が見える。
すると不意に、カズヤが会社員だったときの感覚がよみがえってきた。
「……人間に、戻りたいな……」
思いがけない言葉が口をついて出てくる。
それは今まで戦闘や食事の時に感じていたのとは、また違った感覚だった。
「マスター……」
しんみりとした口調に気付いたステラが、心配そうに声をかける。
「いや、大丈夫……ちょっと昔を思い出しただけだよ」
カズヤは努めて気にしない風をよそおうと、家の前を離れていく。
だが自分の家を見た時から、カズヤの気持ちが少し変わっていた。
この街はカズヤが生まれ育ってきた地元だ。会社員時代のひとり暮らしの時だけではなく、学生時代の思い出も蘇ってくる。
日本にいたときの生活は今の時ほど楽しくなく、つらいことの方が多い人生だった。
だがあの時の自分は、精一杯必死に生きていた。
毎日、楽しくもない会社に頑張って通っていた。雨の日も風の日も、少しくらい体調が悪くても無理して通勤した。
あの時は確かに生きているという実感があった。
ザイノイドのエネルギーコアではなく、生身の身体に心臓が鼓動を刻んでいた。鼻や口から思いっきり息を吸い込んでいた。
そのころの自分を思い出すと感傷的になり、とてつもない懐かしさが溢れてきたのだ。
「もし日本に住むなら、やっぱり人間の方がいいよな」
「マスター、ここに帰るつもりなんですか?」
ステラが心配そうに尋ねてきた。
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