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242話 風神セキュリティ


 店内に入ると、ステラはすさまじい勢いで洋服を物色し始める。


「……マ、マスター、ここは天国ですか!? こんなにかわいい服がたくさんあるなんて信じられません。この柄も! この色も! セドナでは一度も見たことがありません!!」


 見たことがないくらい興奮したステラが、店内を動き回る。


 ここぞとばかりに、ザイノイドの機能を最大限発揮しているみたいだ。



 しばらくすると、手にしっかりと一着の服をつかんで戻ってくる。


 特に気に入った服みたいだ。


「まさか、それが欲しいのか……?」


「……」


 ステラは欲しいとは言わないが、じっとカズヤの目を見つめる。買わないとは言わせない、強烈な無言の圧力を感じてしまう。



 結局カズヤは、服を買わされることになってしまった。


「すみません、鈴木くん、佐藤さん……」


 鈴木と佐藤課長にもらったお金は、アリシアを捜索するための費用として渡してくれたものだ。


 その貴重なお金をさっそく使ってしまい、カズヤは申し訳ない気持ちでいっぱいだった。



 *


 カズヤたちは桜月市の繁華街に到着した。さすがに多くの人で賑わっている。


「なんか、姫さんらしい匂いはするんだがな……。邪魔な匂いが多くて、いまいち分からないぜ」


 バルザードが、鼻を押さえながら自信なさげにもらす。



 地球にはイゼリアと違った匂いがたくさん漂っている。


 香水や化粧、排気ガスや工場、店からの匂いがバルザード自慢の嗅覚の邪魔をしていた。


 ボットや衛星を使えない状況なので、ザイノイド3人の科学力よりもバルザードの鼻の方が遥かに頼りになりそうだ。



「おい、カズヤ。お前はこんなに空気が悪い場所に住んでたのか?」


 違う星でぷかぷか浮かぶのを楽しみにしていた雲助にとっても、日本の大気はお気に召さないみたいだ。



 すると、繁華街の一角から何やら騒々しい音が聞こえてくる。


 見るとたくさんのパトカーが止まっていて捜査線がしかれている。警官の数も多い。周りの会話を聞いていると、どうやら街なかで殺傷事件が起きたみたいだ。


 ちょうど被害者の女性が救急車で運ばれていくところで、カズヤは遠くから顔を確認する。


 もちろんアリシアではない。



「まあ、アリシアなら襲われても対処できるから大丈夫だよな」


 犯人の男性は隣町方面へ逃げたようだ。


 不用意に警察と関わりたくないカズヤたちは、路地裏へと道を外れた。



 そこで、カズヤは以前との街の違いに気が付いた。


 軍服姿の男性が何人も歩いているのだ。


 これが、佐藤課長が話していた風神セキュリティという警備会社の社員だろう。街なかにも関わらず迷彩柄の服を着ていて、肩で風を切って我が物顔で歩いている。



「おお、ここにもコスプレ姿の可愛い子がいるぞ! 最近流行っているのか?」


 カズヤたちは迷彩服姿の5人の男性に声をかけられた。


 メイド服を着こんだステラを見つけると、馴れ馴れしく話しかけてくる。



「おい、お前たち。ちょっとそこで殺傷事件が起きたんで話を聞かせてくれないか? 見たら分かると思うが、俺たちは風神セキュリティだぜ」


 得意気に胸元の星柄の社章を見せてくるが、そんな物には興味がない。



 ステラへの失礼な態度にカズヤはむっとする。警官ならば協力もするが、民間の警備会社の尋問にわざわざ答える必要はない。


 カズヤは返答せずに通り過ぎようとするが、5人の男が進路をふさぐ。



 すると、カズヤの顔を見た警備会社の一人が大声をあげた。


「んん、ひょっとしてお前霧山じゃないか!? 行方不明になったと聞いていたぞ。どこに行ってたんだよ!」



 あらためてカズヤが騒がしい男の顔を確認すると、それは中学・高校時代の先輩の山崎という男だった。


 後輩には威張り散らして大きな顔をするくせに、年上や教師にはぺこぺこする嫌な男だ。地元に帰ってきて、会いたい人物とは言えなかった。



「マスター、この頭が悪そうな人を知ってるんですか?」


「昔の先輩なんだが……会いたくはなかったな」


「何だと、霧山のくせに! 偉そうな口をきくな!」


 カズヤは山崎をどう扱っていいか分からなかった。卒業した後もいつまでも先輩という上下関係を持ち出して、偉そうにするのが苦手だった。



 それにカズヤが異世界に行ってから、かなりの年月が経っている。


 異世界で経験してきた命を削るような経験と、日本で過ごす平和な生活を比べると体験の重みが違い過ぎた。



「おい、霧山。何とか言えよ!」


 ふいに山崎がカズヤの肩をつかんでくる。


 もちろんカズヤの身体はびくともしない。


「な、なんだこいつ、急に身体が強くなったのか。見かけは大して変わらないくせに……。とりあえずこの可愛い子を紹介しろよ、お前なんかにはもったいないぜ!」


 もはや繁華街の事件のことなんか関係なかった。カズヤそっちのけで、ステラを連れ出そうとする。



 山崎の幼い行動に、カズヤはすっかり呆れてしまった。既にいい年齢のはずだ。まだこんなことをしているのか。


 カズヤは無言のまま通り過ぎようとする。


「おい、待てよ! 風神セキュリティに逆らうつもりか!?」


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