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238話 帰宅

 

 カズヤは地球の地面をしっかりと踏みしめる。


「……そうか、匂いを嗅いでも分からないんだったな」


 カズヤは思い切り空気を吸い込んで、懐かしいふる里の匂いを確かめたかった。


 しかし、今はそれが出来なくなっている。五感がデータ化されたザイノイドの身体が恨めしかった。


 その代わりイゼリアに転移したときに、空気が透き通っていると感じたことをカズヤは思い出した。日本の空気は、イゼリアと比べたら工場や排気ガスで汚れてしまっているのかもしれない。



「……それと、なんか身体が少し重く感じるな」


「イゼリアより重力が少し大きいようですね。特に影響はありませんが」


 カズヤのつぶやきに、ステラが答えてくれる。イゼリアに転移したときに、身体が少し軽く感じたのは気のせいではなかったのだ。


 無事に到着した前田さんたち3人は、ホッとした表情を浮かべていた。



「うわ、まずいなあ。こんなに連絡がきているよ」


「本当だ、私も!」


 残りわずかなスマホの電源を入れた鈴木と前田が、画面を見て驚いている。着信や通知の嵐だ。佐藤課長も同じだった。



 カズヤたちは山中から出ると、近くの道路を歩き始めた。時々、通り過ぎる車を、カズヤたちは興味深く眺めている。


「以前、セドナで見たクルマと形が違うな。こっちの方がかっこいいぞ」


 シデンが、カズヤが作ったトラックと比較し始める。



「まあ、あれは運搬用のトラックだからな」


 あのトラックは遷都のために人や物を運ぶためだけの物だ。最新型の乗用車と比較するのは勘弁して欲しい。



 そんな違いをワイワイ話しながら、道路脇を皆でぞろぞろと歩いて移動する。


 途中で何人かの住人とすれ違うが、誰もがこちらの集団を見て不思議そうな顔をして通り過ぎていった。



「ここから家へ行く道が分かれるんですけど……」


 交差点で鈴木が立ち止まった。


 ここから先は、前田たち3人の家の方向が違うようだ。それぞれが帰り道を確認している。この先どうするか相談し始めた。



「3人とも地元ではどんな扱いになっているか分からないから、くれぐれも注意してくれよ」


 半年以上誰にも何も言わずにいなくなっているので、死んだものとして扱われている可能性もある。突然帰宅したら、さぞ驚かれるだろう。



「あと、鈴木君と前田さん。お願いしていたことは大丈夫かな?」


「もちろんです。カズヤさんたちには命を救ってもらった恩がありますから、何でも言ってください!」


 カズヤは、日本に着いたら服を貸してくれるように、前田と鈴木にお願いしていたのだ。



 地球に降り立つにあたって、カズヤなりに日本でも違和感が無い服装を選んできたつもりだった。しかし実際に来てみると、自分たちの服装がかなり浮いている気がしたのだ。


 前田さんたち3人は、飛ばされてきた時の仕事着に戻っているので問題ない。見た目だけなら、異世界で過ごしていたとは想像もつかないだろう。



「俺と前田は一人暮らしだったから、このまま部屋に入っても大丈夫だと思うんですが……。問題は部屋がそのまま借りられているかどうかです」


 3人が日本にいなかったのは約半年だ。誰もいなくなった部屋を、家族が解約している可能性は高い。



「行ってみないと分からないよな。とりあえず頼むよ」


 男性陣は鈴木から服を借りて、女性陣は前田から借りることにしている。


 待ち合わせの時間と場所をお互い確認すると、男性陣と女性陣がその場でいったん別れた。



 鈴木の家には、カズヤとシデン、バルザード、フォン。前田の家にはステラとピーナ、リオラが向かう。


 その間に、佐藤課長はそのまま帰宅するつもりだ。


 家族と一緒に住んでいたので、大騒ぎになるのは間違いなかった。




 *


 カズヤたち男性陣5人は10分ほど歩くと、鈴木が住んでいたアパートに到着した。


「どうか開きますように……」


 鈴木が緊張しながら鍵を開ける。


 ストンと鍵が回ると、ガチャリとドアが開く。さいわい部屋は放置されたままで、鈴木が借りた時のままだった。



「多分ですが、部屋のなかは変わっていないですね。ちょっと記憶が曖昧ですが」


 捜索のために警察や家族が入ったのか、家具や物の配置が少し変わっているだけだ。換気されていないので、少しかび臭い匂いがして埃が積もってしまっている。



「……どうやら、戻って来るのがあと3ヶ月遅かったらヤバかったみたいですよ」


 家の中をガサガサと探索していた鈴木が、家賃を引き落としていた通帳を眺めながら指を折りつつ計算している。



 家賃を口座自動引き落としにしていたので、何も言わなくても支払われ続けていたみたいだ。


 家賃が入ってくる間は、大家もそのままにしていたのだろう。ここに帰ってきて欲しいという、家族の願いもあったかもしれない。



「すみません、服を貸す予定でしたね。そこの押し入れに、洗濯したままのやつが掛けてあるはずです」


 鈴木が押し入れの中から、カズヤたちに合いそうな服を幾つか選んで出してくれる。


 まずは、シデンが服を羽織ってみた。



「このようなものは着慣れないが、どうだろうか?」


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