235話 荷造り
「姫さんを探すのに、俺様が行かない訳ないだろう!」
「そうだよな……分かった、一緒に行こう。だけど、そのままの姿では行けないぞ」
「おう、分かったぜ! 俺様がすぐに姫さんを見つけてやる!」
やる気に満ちたバルザードの鼻息が荒い。
カズヤは再びタシュバーン皇国を訪れた。
「なんだ、また来たのか。出発は明日じゃなかったのか」
この世界の常識では考えられないほどの長距離を、ウィーバーを使って軽々往復していると、シデンに呆れた顔をされてしまう。
「そうなんだが、急遽リオラの助けが必要になったんだ」
「リオラの?」
「バルも一緒に来たいと言い張っているんだ。俺の星に獣人はいないから、あのままの姿では歩けない。リオラに幻術の魔法をお願いしたいと思って」
もちろん、リオラ自身の黒い翼を隠すのにも使ってもらう。
「それは分かるが、そもそもお前がいた星で魔法が使えるのか? 元々お前の世界では魔法を使えないと言ってなかったか」
「そ、そうか。そうだったな……」
確かに地球で魔法が使えるかどうかの確認を忘れていた。幻術の魔法が使えないのなら、バルザードやリオラを連れて行く訳にはいかない。
「それなら、地球で魔法が使えることを条件にお願いするよ。魔法が使えなかったら、そのまま宇宙船で帰ってきてもらうことになるけど」
「まあ、奴が希望するなら俺は反対しない。直接リオラに頼んでみるがいい」
すると、横で話を聞いていたゼーベマンが割って入ってきた。
「若! なぜ儂を連れて行かないのですか!? 未知の星など危険にあふれていますぞ!」
「爺の身体には負担が大きいだろう。それに、以前俺が留守をしていた間に第一皇子のユベスの奴が好き放題していた。タシュバーンのことを頼んだぞ」
「若~……。気遣って頂いて、嬉しいような悲しいような……」
地球に行けないことが決まったゼーベマンは、がっくりと肩を落とした。
カズヤは、リオラを呼んでもらうと今までの事情を説明する。
「……という訳で、リオラにも一緒に来てほしいんだ」
「分かりました、いいですよ。違う星に行けるなんて、想像もしてなかったので楽しみです」
思いがけずリオラは乗り気だった。
カズヤは意外にも感じたが、実はそうでもないのかもしれない。
リオラは200歳以上にもかかわらず、黒曜の翼で冒険者をしている。多種族とパーティーを組んで冒険に出かけるなんて、普通の有翼妖精族とは感覚が違うのかもしれなかった。
そして、カズヤはフォンにも声をかけた。
フォンの武力が頼りになるのは勿論だが、ザイノイドの言語能力にも期待している。日本語を話すことが出来れば、色々と助かるからだ。
「……カズヤさんの星ですか。面白そうですね!」
「ザイノイドであるフォンなら、すぐに日本語を話せるかなと思って。皇帝陛下を通訳代わりにするのは申し訳ないけど、頼むよ」
「いえいえ、まったく問題ないですよ。とても楽しみです」
フォンは皇帝だけでなく剣聖と呼ばれる立場なのだが、気さくな様子は変わっていない。
「フォン、さっそく言語データを送るわ。日本語はそれほど難しい言語ではないから大丈夫よ。敬語が少し複雑なのと間接的な表現が多いところに気を付けて」
ステラはその場でフォンに日本語のデータを送る。
「『あ、あ……。こんにちは、カズヤさん。ご機嫌いかがですか』。こんな感じでどうですか?」
「完璧だよ。相変わらずザイノイドの能力には驚かされるな」
フォンは、その場ですぐさま流暢な日本語を話し出した。
同じザイノイドであるはずのカズヤも、あらためて感心する。ステラの時も驚いたが、言語がデータ化されているとあっという間だ。
同じザイノイドとはいえ、脳が人間の時のままのカズヤには出来ない芸当だった。
これで日本語を話せるのは、カズヤとステラ、フォンの3人になる。アリシアを探す時に役に立つはずだ。
「カズ兄、ピーナも行くからね! 一人で美味しい物を食べるつもりなんでしょ!?」
「ピーちゃんが行くなら、オイラも行くぜ。違う星でぷかぷか浮かぶのも悪くないかもな」
ピーナと雲助も行きたがる。二人は完全に観光目的だ。
ピーナの透明化魔法はかなり役に立つ。どこで助けてもらうことになるか分からなかった。雲助はおまけだ。
そして、野営の準備や食料など最低限の荷物を持っていく。
「マスター、武器はどうしますか?」
「俺がいた日本は安全だからいらないと思うけど……。まあ、念のため持って行くか」
普通の剣や槍を持っていく訳にはいかないが、収納時に柄の部分の大きさしかない電磁ブレードやプラズマブレードならかさばらない。地球人には何の道具かも分からないだろう。
安全な日本で使うことになるとは思わなかったが、念のため他の装備も持っていく。
これで、地球へ行く準備は整った。
メンバーはカズヤ、ステラ、バルザード、シデン、リオラ、ピーナ、雲助、フォンの、7人と1匹になった。
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