234話 メンバー選出
カズヤは同じく地球から飛ばされてきた前田たちに声をかけることにする。
「えっ……。それって本当ですか!?」
セドナで生活をしていた前田と鈴木、佐藤課長の3人に伝えると、唐突な話にしばらく呆然としていた。地球に帰れるなんて、すでに期待もしていなかったのだろう。
しかし話の内容が呑み込めると手を取り合って喜んだ。もちろん、全員地球に戻りたいという希望だ。
こうしてアリシア捜索のついでに、前田たち3人が地球に帰還することが決まったのだ。
「よし、次は……」
カズヤは今度はタシュバーンに住んでいる、高校生だった吉野マキにも声をかけてみることにした。
「……そんなお話があるんですね。私のことを心配してくれてありがとうございます。でも私はタシュバーンに残りたいです」
前田たちと違って、マキはこっちの世界――惑星イゼリアに残りたいと主張した。
「そうか、君の意見は尊重するよ。ただせっかくだから、地球にいる君の身内に何か伝えることはないか?」
「ありがとうございます。そうですね、ちょっと待ってください」
カズヤの言葉を聞いてマキは手紙を書き始めた。
書きたいことは普段から考えていたのだろう。文章を書くスピードはとても早かった。
「すみませんが、この手紙を私の叔母に届けてもらえますか。『私は遠い国で元気に生きている』と書いておきました」
「分かった。約束は必ず果たすよ」
渡された手紙をカズヤはしっかりと受け取った。その手紙は親族への思いが込められていて、どこかずっしりと重みを感じるのだった。
マキに地球帰還の話を伝え終わると、ステラがカズヤに尋ねてきた。
「ところでマスターはどうなんですか。そのまま地球に帰ってしまうんですか?」
「いいや、戻らないと思う。俺は前田さんたちと違って向こうの生活に未練は無いし、何よりこっちの方が面白い。大切な仲間もいるしな」
カズヤは母親と死別していて、父親は再婚して新しい家庭を持っている。
父親と仲が悪いというわけではないが、どこか距離がある関係だ。
もしカズヤの捜索願が出されていたら取り下げてもらうように、マキみたいに手紙を出すくらいで十分だろう。
今さら職場に顔を出したとしても、退職扱いになっているに決まっている。ずっと無断欠勤していることになるし、そもそも仕事にも未練が無かった。
「……それに、俺が勝手に地球に行ったら、ステラたちも困るだろう?」
「いいえ、私は別に何も困りませんけど。マスターが行くところに私も付いていくだけですから」
当然といった口調でステラが答える。
その返答にカズヤの方が驚いた。例えカズヤが地球へ行こうとも、ステラはどこまでも付いていくつもりなのだった。
そんなカズヤたちの様子を見ていたシデンが、興味深そうに尋ねてくる。
「なにやら聞き慣れない話が聞こえてきたが……。カズヤ、お前がいた世界へ行くというのか?」
「そうなんだ。どうやら自分の星に戻れるみたいなんだ」
「そうか……それならば俺も連れて行け」
「……は?」
シデンの予想外の言葉に、カズヤはすぐに反応できなかった。
冗談で言っているのかと思ったが、シデンは真顔だ。くだらない冗談を言う性格ではないことも知っている。
「聞こえなかったのか。俺もその星に連れて行けと言っている」
シデンは表情を変えずに、同じ言葉を繰り返した。
「いやいや、行っても何のメリットも無いと思うぞ。無事に帰ってこられる保証もないし。それに仮にもシデンは皇子だろう?」
「仮には余計だ。無事に帰ってこれる保証がないのは魔物退治だって同じだろう。皇子の立場が問題ならば冒険者なんて許されていない。なにより、お前にはたくさんの貸しがあるはずだが……」
「ま、まあな、その話を持ち出されると弱いな……分かったよ、シデンも連れていくよ」
シデンに貸し借りの話を出されたら、カズヤには断れない。まさかシデンが、このような状況で持ち出してくるとは思わなかった。
カズヤは人差し指で、痒くもない頬をポリポリと掻く。
ひょんなことから今までの借りを返すために、シデンを地球に連れて行くことになってしまった。
いざ地球に行くとなったら、他の誰を連れて行くかが問題だ。
「申し訳ないけど、さすがにバルが行くのは難しいと思うんだ……」
カズヤはバルザードに経緯を説明しながらも断りをいれる。狼顔の獣人が日本の街を歩くのは難しいと思ったからだ。
「おいおい、冗談だろ!? 姫さんを探すのに、俺様が行かない訳ないだろう!」
バルザードが必死で反論する。
たしかに気持ちはよく分かる。主君のアリシアを探すのに、護衛のバルザードが行かないなんて我慢できないはずだ。
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