233話 惑星イゼリア
「さっそくですが、アリシア殿が飛ばされたかもしれない星の情報を教えてもらえますか?」
パーセルはてきぱきと、実務的な質問をとばしてくる。
「え、えっと……。自分たちから頼んでおいて申し訳ないんだが、どうやって説明したらいいのかも分からないんだ」
パーセルに訊かれて、カズヤは戸惑った。
「地球」「日本」などと説明したところで、デルネクス人にはうまく伝わらないだろう。
「そうだな……、俺がいた星は液体の水にあふれた青くて美しい惑星なんだ。いちおう地球と呼ばれていたんだけど。ステラの話からすると、エルトベルク王国と1番近い次元にある惑星なのかもしれない」
以前ステラが、この世界とカズヤがいた世界の次元が近くなっている、と話していたことを思い出していた。
現状の知識で精一杯説明をしてみる。
「エルトベルク王国という場所が特定できていて、かつ青い星ですか。それだけ分かれば十分ですよ。すぐに周辺の次元波を調べてみましょう。……エル、話は聞こえていたか? 早急に調査を頼みたい」
パーセルの指示で、情報処理型ザイノイドのエルが調査を始める。
そして、すぐさま調査結果がパーセルに伝わってきた。
「特定できました、青い星ですね。液体の水に覆われた珍しい惑星ですから、間違いないと思います」
思いがけない吉報を聞いて、カズヤの顔がにわかに明るくなる。
「ですが、カズヤ殿が地球と呼んでいるこの惑星のことを、我々は全く知りません。私たちとは別の次元の宇宙の、さらに辺境に位置しています。少なくても、過去にデルネクス人が訪れたことはないはずです」
地球はデルネクス人にとって珍しい惑星だったのか。
以前、地球についてステラに説明したことがあったが、話が通じなかったことを思い出した。もちろん日本語も伝わらなかった。
「それで、地球に行くことは可能なのか?」
「可能です。アリシア殿のために、我々も頑張って協力します。あとはその星を管轄している宇宙人が許可してくれるかどうかですが……」
パーセルは、どこか懸念が残るような話し方をする。
「宇宙人? 別に地球に宇宙人はいないと思うけど……」
「マスター、前に話したじゃないですか。地球人が気付いていなくても、地球という惑星を外から観測している可能性があります」
「えっ、宇宙人って本当にいるのか!? 地球にいるかもしれない、みたいな話は聞いたことがあるけど」
驚愕するカズヤを見て、ステラはひどく落胆したように肩を落とす。
「はあ……大丈夫ですかマスター。いま目の前にいるパーセルが、地球人にとっての宇宙人なんじゃないですか? さすがに故障したのではないかと心配になります」
ステラが今まで一番大きなため息をつく。
隣にいるパーセルが苦笑いを浮かべていた。
「そ、そうか。言われてみればそうなのか……」
確かにパーセルたちデルネクス人は、地球から見たら宇宙人に違いない。カズヤがいるこの世界自体が、そもそも異世界なのだ。
この世界に来て以来、驚くようなことばかりが続いていて、もはや何が当たり前なのかよく分からなくなってしまった。
「科学が進歩した宇宙人同士は無用の衝突を避ける傾向があります。元々その星に住んでいたカズヤ殿を送り迎えするだけなら問題無いと思います。しかし、万が一トラブルになると困るので、我々はそれ以上の介入ができません。それでもよろしいですか?」
「ああ、送り迎えしてもらえるだけでも十分だ。ぜひ頼みたい」
「分かりました。すぐに準備を始めますので、調査と交渉のために明日まで時間を下さい。おそらく問題ないはずです」
いよいよカズヤの地球行きが、現実的になってきたのだ。
*
デルネクス人との話し合いを終えると、カズヤとステラはいったん地上に戻ってきた。
地上に降り立つと、カズヤは以前から疑問に感じていたことをステラに尋ねてみる。
「それにしても、どうして地球との次元とやらが薄くなっているんだ? 俺がここに来たのも、そのせいだよな」
「特に理由はありませんよ。宇宙の至るところで起こっている自然現象の一つですから」
「……ん、どういうことだ。宇宙全体で次元が薄くなっているのか?」
「次元に限らず全ての物は移り変わり、宇宙の変化が終わることはありません。次元の境目も、濃くなったり薄くなったりを繰り返しています。その次元の変化のなかで、たまたまマスターの世界とこの世界が繋がってしまったのでしょう。こういった事象は宇宙全体ではあり得ることです」
全ての物が移り変わるという言葉は、学生時代に聞いたことがある。
次元が薄くなって移動するのは、宇宙全体では珍しいことではないのか。
「ちなみにこの星に住む人々は、自分たちの星のことをイゼリアと呼んでいます。ただし、宇宙の中の星に住んでいるという自覚はないので、正確には自分たちが住んでいる世界全体のことを指しているのですが」
それはそうか。
カズヤも「地球」と呼ぶときには、宇宙に浮かぶ青い星を想像してしまう。
宇宙のなかの星に住んでいると知らなければ、自分たちが住んでいる星に名前を付けることすら想像できないだろう。
パーセルの話では、カズヤたちが地球に行くことは可能だし問題なさそうだ。
もちろん最悪のケースとしては、アリシアが地球にいない可能性もあり得る。しかし、「地球に行く」ということだけに、十分価値がある人たちがいるのだ。
「よし、あの人たちにも話をしてみようか」
カズヤは、同じく地球から飛ばされてきた前田たちに声をかけることにした。
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