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231話 失踪

 

「カズヤ! 姫さんがどこにいるか知らないか!?」


 慌てた様子のバルザードが部屋の中に飛び込んでくる。



「えっ、知らないけど……。ドレスの準備をしているんじゃないのか?」


「いや、それがだな、着付けの最中メイドたちが目を離した隙に、姫さんが見当たらなくなったんだ。城内だから連れ去られた訳ではないと思うんだが……」


 城内が少し慌ただしくなっている理由が分かった。



「急用で、どこかに行ったんじゃないのか?」


「誰にも何も言わずに出かけるのは、いくら姫さんでもあり得ないと思ってな。少なくとも、今までそういうことは一度も無い」


 バルザードは少し不安げな口調だ。



 しかし、城の門や部屋の扉の前には衛兵が立っていて、警備は万全だ。


 それに、ここにはステラがいる。


 何百ものボットを同時に操作するステラがいる状況で、他国からの諜報員や暗殺者が城に入り込む余地はない。



「バルちゃん、ちょっと落ち着いてください。少なくとも24時間以内に、この城への不審者の侵入はありません。もっと遡って調べますか?」


 ステラが、すぐさまボットと通信して状況を確認する。


「いや、それだけ分かれば大丈夫だぜ……そうだな、もう少し探してみるか。カズヤたちも心当たりがあったら教えてくれよな」


 バタバタと激しい足音をたてながら、バルザードが部屋から出て行った。


「たしかに、アリシアが何も言わずにいなくなるのは珍しいな。アリシアの身に何かあったら大変だ。ドレスの着付けに行った前後から、近くで不審な動きはなかったか?」


「いいえ。念のため調べましたが、そのような動きは一切ありません」


 ボットを使っても、不審者の気配は無い。


「じゃあ不審者じゃなくて、アリシアの方を探してもらえるか?」


「分かりました」


 城外だけでなく、城内にもステラのボットは飛んでいる。


 城は国王夫妻が寝泊まりしているので、特に警戒している場所だ。ボットを使って集中的に調べれば、どんな人間であれ、すぐに見つかるはずだった。


「……おかしいですね。全てのセンサーを使っても、アリシアの気配が一切感じられません」


 ステラが首をかしげる。


「城の外に出たのかな?」


「城の周辺のボットとも情報を同期しましたが、少なくとも半径1km以内にはいません。捜索範囲をもっと広げてみますか? とはいえ、よほど急いで移動しないと1kmより離れた場所にいるとは思えません。ましてやドレス姿ですからね」


「そうだな……。でも一応やってみてくれ」


 カズヤはステラに頼みながら、少しずつ嫌な予感がわきあがっていた。



 アリシアが黙って姿を消すなんて考えにくい。わざわざ皆を心配させる行動をとることは無いはずだ。


 時間が経つにつれて、アリシアが居なくなったことが配下の兵にも広まっていく。やがて城内のあちこちが騒然としてきた。


 それでもアリシアは見つからず、待機していた兵士や非番の兵士もかき集められて、アリシアを探し始める。



 だがアリシアが見つからないまま、ついに日付が変わってしまったのだった。



 *


 国王夫妻や兵士、役人やメイドも城内の関係者全てが眠れぬ夜を過ごした。


「こういう時は、俺たちが身体を張らないとな」


 生身の人間とはちがって疲れを知らないカズヤたちは、捜索範囲を街の外まで広げて夜通し探し続けた。


 ボットや衛星を総動員させて調べているが、それでもアリシアは見つからない。



 何度も最悪の想定をしてみた。


 しかし、敵国によって送り込まれた諜報員の侵入や誘拐、暗殺は考えにくい。


 移動魔法の可能性も考えたが、城内はアリシアが教えた古代魔術アルカナ・アーツによって探知魔法が施されている。


 攻撃を加えられた痕跡は一切無く、少しでも触れるだけですぐさま感知されてしまうはずだ。


 アリシア自身による脱走も考えにくい。衣装合わせが終わり次第、カズヤたちと大事な話をする約束をしているからだ。


 まさにアリシアは、忽然と姿を消してしまったのだ。



「これじゃあまるで神隠しじゃないか」


 カズヤの頭には、次第に嫌な考えが浮かんでいた。


「ステラ。正直に言うと、俺は嫌な可能性を思いついているんだが……」


「残念ながら私も同じです。ここまで探して発見できないのは、通常の事態ではありません」


 嫌な可能性が残念なのか、カズヤと同じ考えしか思い浮かばないのが残念なのか、どちらとも分からない口調でステラが答える。


「人が忽然と姿を消したのは初めてだが、忽然と姿を現した奴はいたことがあるよな」


「……いましたね。マスターたちです」


 そうだ。


 元々日本にいたカズヤは、突然この世界に飛ばされてきた。


 公務員だった前田たち3人や高校生の吉野マキ、持ち主が分からないオートバイなんかも同じ状況だ。


 突然現れた人間――カズヤたちを、地球から見たらどう映るだろうか。


 前田アカリの話で、カズヤが日本で行方不明扱いされていたように、ある日突然消えてしまったように見えるはずだ。


 日本からこちらの世界に来られるなら、こちらから日本に飛んで行く可能性があってもおかしくないのではないか。


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