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230話 星隠しの迷路

 

「そういえば、この世界に来る前にもこんな夢を頻繁に見ていた気がするな。何でアリシアは知ってるんだ?」


 アリシアは少し悩ましそうにカズヤの目を見つめ、やがて口を開いた。



「……あのね、この世界では昔から”星隠しの迷路”っていう言い伝えがあるの。夢の中の巨大な迷路を歩き回って、もし脱出したら違う世界に連れて行かれてしまうと言われているのよ」


「連れて行かれてしまう……。そんな伝承があるのか」


「でも、そんなの迷信よ。信じている人なんか殆どいないわ」



 すると話を聞いていたステラも横から口を挟んでくる。


「別に関係ないと思いますけど。前田さんたちは寝ている時に来た訳ではありません。転移する時は自然にするんじゃないですか」


 たしかにアリシアやステラの言う通りかもしれない。


 でもカズヤは実際にこの世界に転移してきてしまっている。あながちただの空想だとも思えなかった。





「ねえねえ、カズ兄。このあとパーティーがあるんだよね!?」


「ピーちゃん、カズヤに聞いたって分からないよ。あいつ、いっちょ前に朝から緊張してたんだぜ」



 そんなアリシアとの会話を遮るように、ピーナが口をはさんできた。


 ピーナは、お城に来るためにせっかく可愛らしくめかし込んだのに、絨毯の上をごろごろと転がっている。


 ピーナの周りをくるくると回る雲助が、いつもの毒舌を放っていた。



 ピーナの頭には真っ赤な大きなリボンが付けられている。オレンジ色の髪からエルフ特有のとがった耳が顔を出していた。


 服は森に溶け込むような濃淡のある緑色のワンピースで、ポケットには小さな宝物がいっぱい詰め込まれている。



 ピーナは、先日何年か振りに実の母親と再会することが出来たのだが、エルフ族のゆったりとした生活が合わずに、再びカズヤたちに付いてきていたのだ。


「式典は別の日だって言っただろ。今日は衣装を着るだけだよ」


 カズヤは、ピーナの勘違いを正しておく。




「なかなか格好いいじゃないか、カズヤ。これなら貴族様と言われても信じてしまうかもな」


 狼顔の獣人バルザードも、いつもと違って鎧を身に着けていなかった。


 深い紺色の上質な布で仕立てられたトップスは金色の縁取りが施されていて、まるで立派な家柄の騎士のようだ。


 両腕には小さな宝石が埋め込まれた、革製のブレスレットが巻かれている。


 ボトムスは動きやすさを考慮した布のパンツでできていて、足元には磨き上げられた革のブーツを履いていた。



「……お話中のところ、失礼いたします。アリシア様、これより別のドレスの寸法合わせがございます。お時間よろしいでしょうか?」


 着付け役のメイドがやってきて、アリシアにそっと声をかける。


 カズヤたちと楽しそうに会話していたため、話しかけていいものか遠慮して待っていたみたいだ。



「分かったわ。すぐに行くから」


 メイドに向かって優しく微笑んだあと、アリシアは再びカズヤたちの方に向いた。


「アリシア、そのドレスじゃ駄目なのか? すごく似合ってると思うけど……」



「これは気に入っているけど、その日の気温や天気もあるし1パターンだけじゃ心配なの。靴やアクセサリーとの組み合わせもあるし、とてもじゃないけど一日で済ませられることではないわ」


 その日の天気や組み合わせ。そこまで考えないといけないのか。


 主賓に相応しい着こなし方など、カズヤは想像したことも無かった。



「それじゃあ、寸法合わせに行ってくるわ。カズヤたちには大事な話があったんだけど、まだ城内にいるでしょ。あとで時間をくれないかしら?」


「大事な話か。もちろん大丈夫だよ」


 そう言い終えると、アリシアは衣服の仕立てを行う部屋へと歩いていった。



「……何だろうな。あらたまって話だなんて珍しいな」


 カズヤは、アリシアが言う「大事な話」とは何なのか気になった。いつものアリシアであれば、前置きなどおかずに直接伝えてくるのだが。


「『カズヤたち』と言っていたので、マスターへの愛の告白でないのは確かですよ」


「分かってるよ。というか、そんなこと思ってもいないし」


 この後はカズヤたちも、城の役人から式典当日の説明を受ける予定がある。


 しばらくは、堅苦しい話を大人しく聞いているしかなかった。



 *


 ――アリシアと別れてから長い時間が経った。すでにカズヤたちは役人からの説明も受け終わっている。


 しかし、アリシアはなかなか衣装合わせから戻ってこない。その間カズヤたちは、応接室で待ちぼうけをくらっていた。



「……いくらなんでも、さすがに遅くないか?」


「お姫様ですからね。どうしても時間がかかってしまうのでしょう」


 時間がかかるのは分かるが、こんなにもかかるものだろうか。


 部屋にはカズヤとステラ、ピーナだけがぽつんと残されている。バルザードもアリシアと共に席を外していた。



 立ち上がったカズヤが、扉を開けて城の廊下を覗いてみる。


 さきほどアリシアに声をかけていたメイドが、慌ただしそうに城内を駆け回っているのが見えた。


 いつもと少し様子が違っている気がする。



 すると、もっと慌てた様子のバルザードが部屋の中に飛び込んできた。


「カズヤ! 姫さんがどこにいるか知らないか!?」


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