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225話 嘘つき

 

 副官のパーセルが、艦長のオルガドにむかって銃口を向ける。


「抵抗はやめろ、オルガド! 船内の状況をよく見ろ。敗戦する時というのはこういう状態なのだ。お前の愚かな作戦は失敗だ。再三忠告したにもかかわらず、この星の住人を甘く見すぎたのだ」


「貴様、艦長に逆らうのか!?」



「当然だ。すでに地上での戦闘も敗北に終わり、全ての乗組員とザイノイドが敵方に捕まっているのだぞ。これ以上無駄な抵抗を続ければ乗組員たちの安否にも影響が出る。お前こそ、この状況が分かっているのか!」


「な、なんだと……!?」



「オルガド。重大な失策により、副官権限でお前の指揮権を剥奪する! 今までは多目に見てきたが、乗組員の命が関わってくるなら話は別だ」


「正気か!? 自分がやっていることが分かっているのか?」



「お前は、自ら強行したこの失敗の責任を問われるだけでなく、これまでに積み重ねた多くの軍規違反もある。その証拠も記録済みだ。全て本国に報告する」


「く、くそ……」


 オルガドが力無くうなだれる。


 抵抗をやめると、パーセルが持っていた手枷を付ける。



「オルガド、最後の最後に協力してくれて感謝する。本国に帰るまで、大人しくしてもらおうか」


 パーセルはオルガドを拘束すると、船内の放送をつかって宣言した。



「副官のパーセルだ。艦長オルガドの指揮権を剥奪して任を解いた。今から私がこの船を指揮する。指示に従えないものは下船してもらう」


 宇宙船内で、無傷でこの放送を聞くものは誰もいなかった。


 地上にいるザイノイドたちにも、内部通信インナーコネクトで伝わっているはずだった。



 これにより、形勢の悪さを悟ったオルガド派の勢いは無くなった。


 パーセルが言っていた、少数の良心派が主導権を握ったのだ。どっちつかずだった中間層も、流れに合わせてパーセルの指示に従うことになる。



「すまない、我々はこれ以上抵抗するつもりはない。捕まった乗組員たちに寛大な措置を希望する」


 パーセルは、アリシアとステラに頭をさげた。



「まずは地上に降りてから交渉しましょう。あなたは話が通じそうだから、悪い話にはならないと思うわ」


 アリシアが笑顔で答えると、宇宙船は地上へと降下を始めるのだった。



 *


 三つ巴の戦いが泥沼化した戦場で、一つの流れが生まれていた。


 デルネクス人の部隊は早々に敗北し、アビスネビュラ対カズヤたちの戦いに雪崩れ込んでいたのだが、これもすでに勝負は決していた。



 カズヤたちが優勢になっていたのだ。



 理由は簡単だった。ここはフォンが治めるハルベルト帝国の領土で、カズヤたちの背後には数万ものハルベルト軍がいる。


 アビスネビュラが連れてきた戦力は冒険者ギルドと魔術ギルドの精鋭50人と、ヴェノムベイン傭兵団100人、サルヴィア神聖騎士団300人ほどだ。


 一人一人の技量で見ると、アビスネビュラの軍勢の方がはるかに強い。しかし、数万のハルベルト軍と比べると、あまりに多勢に無勢だった。



「私は先に退却しますよ、勝ち目のない戦いはしない主義なので。高価な魔導兵器が壊れたら大変です」


 不利な戦況を見極めると、商業ギルド総帥のマグロスがいち早く逃げ出した。



「だから無謀な戦いだと進言したのだがな……。ジェダ、我々の方が形勢が悪い。後ろを見ろ、すでにハルベルト軍に囲まれているぞ」


 ルガンがジェダに呼びかける。


 ジェダは戦闘を継続しようとするが、次から次へと増えてくるハルベルトの軍勢を見て、さすがに不利を悟った。



「くそ、退けっ! 全軍、速やかに撤退しろ!」


 ジェダとルガンが指示を飛ばすと、アビスネビュラ軍はいっせいに撤退を開始したのだった。




 ※


「アビスネビュラも撤退したか。デルネクス人も捕らえているし、これで地上での戦いは終わったはずなんだけど……」


 カズヤはすぐにでも、宇宙船に連れて行かれたステラとアリシアを助けに行きたかった。


 しかしそうではない。自軍での戦いはまだ終わっていない。



 シデンの暴走が止まっていないのだ。



 シデンが戦闘型のダンを倒したところまでは良かった。


 だがその後のシデンは敵味方関係なく暴れまわっている。その勢いはハルベルト軍も近寄れないほどだ。



「おいゼーベマン、どうしたんだ!? シデンの様子がおかしいままだぞ」


「戦いが終われば、影の亡霊は若から離れる約束だったのじゃが……奴が離れないのじゃ!」


 ゼーベマンの顔に焦りの色が浮かんでいる。


「若、戦いは終わりましたぞ、若! くそ、一体どうしたのじゃ。約束と違うぞ。影の亡霊よ、若から離れるのじゃ!」



 ゼーベマンが魔石を握りしめているが、影がシデンから離れる様子はない。


『……この身体は気に入った。約束の魔石の代わりに、こいつの体内の魔石をもらおう』


「どういうことじゃ!? 別の魔石を渡す約束だったはずじゃぞ」



『こいつの方が、より純粋で強い力を秘めている。こんな上物を手放すはずがあるまい』


 戦いが終われば、シデンの身体から離れるはずだった。


 影の亡霊が約束を違えたのだ。


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