222話 皇子と剣聖
「なぜアビスネビュラの後ろに、神聖騎士団が従っているんだ!?」
アビスネビュラにヴェノムベイン傭兵団が従っているのは理解できる。
しかし、その後ろではサルヴィア神聖王国の神聖騎士団も共闘しているのだ。今までも街の教会で見かけたことがある、白くて高貴そうな姿なので間違いようがない。
「闇ギルドと神聖騎士団が一緒にいるなんて信じられないな。相変わらず胡散臭い奴らだぜ」
バルザードが吐き捨てるようにつぶやいた。
闇ギルドと行動を共にするとは、やはりサルヴィア教は一筋縄ではいかなさそうだ。
すでにデルネクス人の攻撃対象は、カズヤたちからアビスネビュラへと変わっている。
アビスネビュラの登場により、戦場は混乱に包まれた。
戦場にはカズヤたち、デルネクス人、アビスネビュラの3つの勢力が入り乱れている。
意図せずに、三つ巴の戦いが始まったのだ――
*
戦場の片隅では、シデンとフォンが別の戦闘型に対峙していた。
それは男性型と女性型の2体だった。
「見慣れない集団がやってきましたね、こちらも早く片付けないと……。シデンさん、どうしますか?」
「剣聖、お前は女性型をやれ。俺は男をやる」
シデンがフォンに指示を出す。
その声から揺るぎない覚悟が伝わってきた。
「分かりました。……ねえ、自己紹介してもらってもいいかな。僕はフォンというんだ」
」
戦場とは思えない気軽さで、フォンは女性型に声をかけた。
「私はルーよ。ただこれから戦うのに、こんな挨拶に何の意味があるのかしら?」
フォンが向き合っている女性型ザイノイドは、水色に染まった戦闘服で髪の色も同じだ。
「君の相手は僕がするんだけど、実は仲間の魔法で能力をかさ上げしているんだ。僕が勝ってしまうから、先に謝っておきたくて」
「最初から私に勝つつもりなのね……気に食わない子!」
話し終えると、ルーが電磁ブレードを構えたフォンに飛びかかってきた。
*
シデンは最後の男性型であるダンと対峙していた。
「やれやれ、まさか俺たちがここまでやられるとはな。だが、この戦いまでは譲らないぜ」
前回の戦いで、シデンは戦闘型に成すすべもなく敗北していた。
今までの人生で経験したことがないような完敗だった。
たまたま戦場が混乱に陥ったため逃げ出すことができたが、苦い経験としてシデンの脳裏に刻まれていた。
(自分が強くなくては国民を守れない)
この譲れない思いが、シデンを追い込んでいた。
しかしシデンは最初からダンに苦戦を強いられた。
他の戦闘型と同じように、ダンは武器を持っていない。
打撃機械のような強烈なパンチが次々とシデンに突き刺さってくる。雷撃のごとき勢いで繰り出されるキックは、衝撃波が襲ってくるようだった。
「ほらほら、どうした! 俺を倒すんじゃなかったのか!?」
疲れを知らないザイノイドの前に、シデンは有効な攻撃手段を見いだせない。少しずつ劣勢におちいっているのを実感していた。
デルネクス人の防具を装備するだけでは、シデンは戦闘型ザイノイドのレベルに到達できないのだ。
「こんなに弱いなら、ルーの奴の助けにでも行くか。お前との戦いはすぐに終わらせるぜ」
勝利を確信したダンが、フォンとルーの戦いに視線をおくる。
だがシデンはこの戦いの前から、ある覚悟を決めていたのだ。
「やはり、このままでは勝てない……。だがどんな手段を使っても勝ってやる、二度も負けると思うなよ!」
シデンは、ふところから真っ赤に染まった魔石を取り出した。
*
ルーが電磁ブレードを構えたフォンに飛びかかってきた。
フォンは電磁ブレードの横払いでルーをけん制する。
さらにルーは驚くほどの敏捷性でかわすと、すぐさま反撃に転じてきた。
ルーの攻撃は正確無比で、美しい肢体を完璧な動作でコントロールしている。
まるで熟練の武道家のように体を動かし、様々な体術でフォンに襲い掛かってくる。戦闘型ザイノイドのキックは、まるでバネのような弾力性をもって放たれてきた。
計算しつくされた完璧なプログラムで、感情のない機械的な動きで一つ一つの動作を完璧にこなしていた。
だがフォンは、その全ての攻撃を軽々とかわしていた。
この100年間、望まない戦場に連れ出されていたフォンは、この世界で莫大な戦闘経験値を手にしていた。
繰り出されるルーのパンチやキックを、全て予想しているかのような動きでかわし続ける。
「認めたくはないですが、ハルベルトでの日々も無駄ではなかったんですね」
そしてルーの全ての攻撃を見切ると、フォンは一気に攻勢をしかけた。
強化魔法で引き上げられた能力を駆使して、ザイノイド同士の戦いを支配する。
正確無比なタイミングでルーを捉えると、強烈なパンチを相手に叩き込む。その攻撃は相手の急所を正確に打ち抜いた。
吹き飛んだルーは、一撃で戦闘不能に陥ったのだった。
「ズルをしてすみません。ただ、今回はどうしても負けられないものですから……」
フォンは独り言のように謝りながら、ルーを拘束するのだった。
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