217話 失った二人
カズヤは、その場に呆然と佇んだ――
……すると、ふとカズヤの目の前が明るくなる。
ステラが昔撮っていたホログラムを空中に再生したのだ。
それは星祭りの最後に、みんなで記念に撮ったホログラムだった。
みんなが楽しそうに笑っている。
このときはアビスネビュラの企みを跳ねのけようと、未来に希望をもって戦っていたのだ。
「マスター、気落ちするのは分かります。でも、まだ戦いは終わっていません。どうか気持ちを奮い立たせてください。戦いが終わったら、またみんなでお祭りに行く約束じゃないですか」
ステラは必死にカズヤを励ました。
ホログラムに写るみんなの笑顔がまぶしい。
カズヤは戦いに臨んだ時の気持ちを少しずつ思い出した。
仲間たちと穏やかで平和な日々を過ごしたい。その為に命を懸けて、無謀とも思えるアビスネビュラとの戦いに挑んでいるのだ。
「……そうだな。戦いに負けてしまえば、残りの駆動時間なんて関係ない。先のことを心配するよりも、今の戦いを何とかしないと」
カズヤは自らを鼓舞しながら、ゆっくりと立ち上がる。
「大丈夫ですか……マスター?」
「ああ、心配かけてすまなかった。エネルギーコアのことは、戦いが終わってから考えよう。まずはこの戦いに勝利しなくては」
カズヤの瞳に、再び闘志がやどってくる。
みんなのあの時の笑顔を取り戻すためにも、ここで諦めるわけにはいかないのだ。
カズヤは自らを鼓舞しながら、ゆっくりと立ち上がった。
*
だが、デルネクス人の攻撃は終わっていなかった。
気を取り戻して立ち上がったカズヤに、更なる凶報がもたらされる。
「カズヤさん! 戦闘型ザイノイドが……!!」
今度は別の戦場からリオラが翼を使って飛んできた。
移動力が大きいリオラが真っ先に伝えに来てくれたのだ。
「そうだ、さっきの情報型はどこにいった!? 戦闘型は5体とも捕まえていたはずだけど……」
「別のザイノイドたちが、戦闘型を奪い返しに来ています!」
「なんだって……!?」
衝撃的な報告に、カズヤは一歩も動けなくなる。
隙がなかった。
宇宙船を攻撃している間に、情報型ザイノイドが戦闘型を助けに行っていたのだ。
戦闘型には拘束具を付けてある。
だが、もしそれらが外されていれば……。
「急がないと……!」
カズヤは気力をふり絞り、戦闘型を捕えていた廃砦へと戻る。
しかし、駆けつけた先は地獄絵図となっていた。
カズヤとステラが倒した2体は破壊されて停止している。
それ以外の3体の戦闘型が拘束を解かれ、今までの鬱憤を晴らすように攻め立てていた。背後には、5体の情報型も連動して攻撃している。
戦場の優劣ははっきりしていた。
アリシアやバルザード、シデンたちが必死に応戦している。
デルネクスの装備や魔法で強化されていたので、前回のような一方的な戦いにはなっていない。
だが、劣勢なのは目に見えていた。
戦闘型は人間を殺すことは制限されていない。前回パーセルが指示していたという不殺の指令も、すでに解除されているはずだ。
「……きゃあ!!」
「姫さん!!」
アリシアの叫び声と、バルザードの取り乱した声が聞こえた。
真っ先にアリシアが狙われていた。
アリシアに執心している艦長の命令かもしれない。
バルザードが必死に守る隙間から、情報型がアリシアに飛び掛かってくる。接近戦では、魔法使いのアリシアは分が悪い。
悲鳴を聞くや否や、カズヤも助けに向かうが他の戦闘型がすぐに加勢する。
押し返すだけで精一杯だ。
「姫さんっ……!!」
バルザードの必死の追撃も及ばない。
情報型がアリシアを捕らえる。
アリシアは抵抗するのを諦めた。
大人しく捕まったアリシアは、ウィーバーに乗せられて上空へと連れられて行った。
「おい、待てっ……アリシア!!」
カズヤの叫びもむなしく、アリシアたちは遠く離れていく。
すると今度は、他のザイノイドがステラを狙った。
戦闘型と情報型が2体ずつ、連携してステラを捕えようとしている。
デルネクス人は戦力となる情報型ザイノイドを欲している。ステラを捕獲することも任務になっているのか。
「ステラ……!」
カズヤが助けに行こうとするが、3体の情報型が阻んでくる。
一対一なら問題ないが、連携されるとカズヤといえども後手にまわってしまう。
情報型の連動攻撃は完璧だった。
カズヤが救援に行けないようにステラから切り離し、さらに戦闘型の2体がステラを前後から挟みこむ。
さすがのステラも、2体を同時に相手をするのは不可能だ。
「あっ……!」
ステラが捕えられてしまったのが、カズヤから見える。
手枷を付けられて拘束されたステラが反抗するのを諦め、大人しく敵の指示に従っている。
カズヤが助けに行こうと駆けだすと、すぐさま新たな戦闘型が行く手を遮った。
目の前で、ステラも宇宙船に連れていかれてしまう。
「くそ、ウィーバーだ」
カズヤがウィーバーを呼ぶが、空中に浮かぶとすぐさま宇宙船から砲撃を受ける。
壊されないように、かわして防ぐだけで精一杯だった。
「アリシア、ステラ……」
放心したカズヤとバルザードが取り残したまま、ザイノイドたちの乗り物が宇宙船へ向けて昇っていくのだった。
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