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209話 地上攻撃


 突然、パーセルの目の前にピーナの姿が現れる。


「き、君はいったいどこから入って来たんだ!?」


「あそこの壁だよ」


「壁って……。君は壁をすり抜けられるのか!? 最近、宇宙船に出没する少女の幽霊とは君のことだったんだな」


「幽霊じゃないよ。ピーナだよ」



 パーセルの目の前で姿を現わしたピーナは、普通の女の子だ。


 落ち着きを取り戻したパーセルが質問する。


「いったい君は、この宇宙船にどうやって入ってきたんだ?」


「みんなと同じ、うぃーばーに乗ってきたんだよ」


「ウィーバーには我々しかいなかったはずだが……。そうか、先ほどのように姿を消していたら誰も気が付かないのか。すごいな、これがこの星の魔法というものなのか」



 デルネクス人は、まだこの星の魔法についての知識に欠けている。


 科学を上回る魔法の力に、パーセルは驚きを隠せなかった。


「それで、君はどうして宇宙船に乗ってきたんだい?」


 パーセルがピーナに問いかける。



「カズ兄をやっつけた、悪いおじさんを懲らしめるためだよ」


「ああ、さっき艦長が転げまわっていたのは君のせいだったのか。あれは痛快だった」


 床を転げまわるオルガドを思い出したパーセルも、つられて笑ってしまう。



「それに、おじさんの手を盗んでやったもんね」


 ピーナの手には、オルガドの右手首と右手が握られていた。


「それは艦長の右手とZ装置ザイノイド・デバイスだね。艦長は痛い目にあわないと気が付かないからな……」


 ピーナの泥棒を、パーセルが咎める様子はなかった。



「カズ兄は少しドジだけど、優しくて頼りになるんだよ。カズ兄がいなくなったら、みんなとても悲しいの」


「そうか……。あのザイノイドの男性は、この星でそんなに慕われていたのか」


 敵兵とはいえ、その周りには大切に思う人々がたくさんいる。


 軍人であるパーセルはよく理解していた。



「ただ、君もいつまでもここにいる訳にもいかないだろう。どうやって地上に戻るんだ?」


「雲助に乗って帰るよ」


「いやいや、ピーちゃん! 宇宙へ出るのはさすがに無理だよ。オイラは大丈夫でも、ピーちゃんが死んじまう」


 雲助があわてて遮った。


 やはりピーナは、宇宙のことをよく知らずに飛び乗ってきたのだ。



「それなら、来た時のようにウィーバーに乗って降りればいい。墜落した宇宙船を探すために、今後も地上へ降ろす予定だ。そこに乗っていけばいい」


「おじさん、ありがとう! こっちはいいおじさんだね」


「まあ、そんなに歳を取っている訳ではないけどね……」


 おじさん呼ばわりされたパーセルは少し自信を失ったみたいだ。



「それと、これは君の仲間に知らせてもらえないか。艦長は衛星やボットたちでは情報を得られない不思議な場所を、徹底的に攻撃して破壊するつもりなんだ。あまりに乱暴なやり方だから私は反対なんだが艦長はやるつもりだ。十分に注意してくれよ」



「分かったよ! それじゃあ、おなかが減ったからご飯を食べに行くね。でも、ここのご飯ってあまり美味しくないよね?」


「ああ、待ってくれ。君が行くとみんなが混乱してしまう。食事をここに運んでくるから、大人しく待っててくれないか」


 個室から出ていこうとするピーナを、パーセルは慌てて呼び止めるのだった。




 *


 ピーナがいなくなった騒ぎから少し経ったとき、ステラは上空で何か異変が起こっていることに気が付いた。


 顔を上げて、空をじっと眺めている。



「ん、どうしたんだステラ?」


「マスター、デルネクス人が衛星を放出しはじめました」


「えっ、まさか宇宙まで見えるのか!?」


 ステラは、じっと衛星軌道を眺めている。


 カズヤにも備わっている視覚センサーだが、そこまで視力がいいとは知らなかった。



「奴らは衛星で何をしようとしているんだ?」


 カズヤたちと同じように、相手は衛星攻撃も行える。自分たちが利用していた武器を逆に使われると、かなり脅威だった。


「通常の衛星ならもちろん調査もできますが……。ですが、どうやら放出したのは軍事衛星のようです。こちらを攻撃する目的です」



 すると、カズヤの目に一本の光の筋が地上に落ちてくるのが映った。


 遥か遠くの大地に直撃すると、わずかな地響きと爆発音が聞こえてきた。


「軍事衛星でメドリカ王国を攻撃しはじめました」


 デルネクス人は衛星を放出するやいなや、新たな兵器を活用して攻撃を始めたのだ。


「あんな攻撃を受けたら、まずいな。こちらの居場所がバレたら大変だ」



 カズヤは、すぐさま目にした状況をアリシアたちに伝える。


 カズヤたちが軍事衛星に対する防衛策を練っているとき、不意に後ろから聞き慣れた声が聞こえてきた。


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