206話 Z装置
「倫理観がないお前たちに、従う人間なんか一人もいないぞ」
きつい口調でカズヤが言い放つ。
「ふん、未開人に従う気がないなら強制的に従わせればいい。技術の進歩こそが大事で、正当化するための倫理観など後からついてくる。貴様らには一生理解できないだろう」
「確かに考え方がまるで違うな。それなのにお前は相手の考えを尊重すらしない。他人を尊重しない奴になんて従えるわけないだろう」
カズヤの主張を、オルガドは鼻で笑う。
「はははっ! 口だけはよくまわる。くだらない考えだ。未開人の主張など興味はない。とりあえずザイノイドは戦力になるから連れていく。こいつらの主従関係を設定し直すのは貴様次第だ。貴様ごと私の配下になるか、それとも貴様が殺されるかだ。どちらか好きな方を選べ」
傲慢なオルガドの暴言を聞いて、カズヤの目に反抗の火がともった。
「……お前の支配下に入るなんて、クソくらえだ!」
カズヤは断固としてオルガドに宣言する。
その場にいた全員に戦慄が走る。
緊迫したこの場面では、宣戦布告に等しい行為だ。
だがカズヤには、こんな人間の言うことは信じられなかった。ステラとフォンの支配権を奪ってしまえば、次にカズヤを捕らえる可能性もある。
信用できない相手とは、やはり交渉は成り立たない。
「どうやら頭まで壊れているようだな。では、貴様の機能を停止してやる!」
オルガドは、手に持っていた器具をカズヤにかざした。
その瞬間。
スイッチが切れたようにカズヤの機能が停止した。
支える力を失ったカズヤが、糸の切れた操り人形のように地面に倒れる。
カズヤの身体はぴくりとも動かない。
たった一つの器具で、ザイノイドの機能がストップしてしまったのだ。
「マスターっ!!」
ステラの叫び声が響く。
「Z装置まで持っているのか……」
フォンはオルガドが手にする機械の存在を知っていた。目の前にいるザイノイドを強制停止するための装置だ。
その様子を見ていたアリシアが、憤怒の表情でオルガドの横暴を非難する。
「私はこの国の代理人です。あなた方のこのような一方的な侵略は認められません。ただちに攻撃を止めて交渉のテーブルに付いてください!」
するとアリシアの姿を見たオルガドの表情が変わる。
だがそれは代理人としてではなく、一人の女性として興味を持ったようだ。
「……ほう、まともな見た目の人間種もいるのだな。ザイノイドと一緒に貴様も宇宙船に連れて行こう」
どうやら敵意ではなく、単に女性としてアリシアの美貌に見とれているようだ。
下心にあふれた、オルガドの鼻の下が伸びている。
「ザイノイド2体と、あの女を回収しろ。倒れた運搬型は必要ない」
オルガドが指示を出すと、5体の戦闘型がアリシアとステラ、フォンを確保しようと動き出した。
「お前ら! 姫さんが、このまま黙って捕まると思うなよ!」
「たてえこの命が消えようとも、お前らの身体にこの刃を刻んでみせる」
立ち上がったバルザードが槍を握る。横にいたシデンも魔法剣を構えた。
しかしバルザードたちの実力を知っている戦闘型は、余裕ある態度をくずさない。ゆっくりと飛び掛かろうと近付いてきた。
その時だった。
突然、オルガドたちデルネクス人の宇宙船が爆炎に包まれる。
大きな爆発音が辺りに響き渡った。
「な、何事だっ!?」
何者かの砲撃が、オルガドの宇宙船に直撃したのだ。
防御シールドが張られていたのか、宇宙船が破壊されることはない。しかし、空中での姿勢が大きく揺らぎ、安定せずなかなか立て直せない。
「パーセル、どこからの攻撃だ!?」
「発射元は不明です。かなり遠い場所からこちらを狙っているようです」
「前回の宇宙船が受けたという攻撃がこれか……すぐに特定しろ!」
オルガドが副官のパーセルを問い詰めるが、もちろん答えは出ない。
そこに、さらなる砲撃が飛んでくる。
宇宙船はかろうじてかわすと、素早く上空へあがって回避態勢に入る。
この隙を、ステラは見逃さなかった。
素早くフォンに取り付けられた拘束具を外し、地面に倒れていたカズヤを抱え上げる。
「フォン、逃げるわよ。アリシア、リオラ、阻害魔法をお願い」
ステラがウィーバーを呼び寄せる。
もはやウィーバーの存在を隠している場合では無かった。4機のウィーバーが瞬時にステラたちの元に飛んでくる。
さらに念のため待機させていたバグボットを、ステラは一斉に発射する。
ボットたちが、戦場を攪乱するための電磁波をバラまき始めた。
索敵ボットから情報が入らなくなったデルネクス人たちは、目の前のアビスネビュラに集中するしかなくなった。
4台のウィーバーに分乗したステラたちは、一斉にその場から退却する。
「ステラ、どこに行くの!?」
「ハルベルトに置いてある宇宙船まで急ぎます。もしマスターの身に何かあったら……」
アリシアの問いに、ステラが悲壮な顔で答える。
「ステラ、あれがZ装置なら大丈夫なはずだよ」
「もちろん知っているわ。でも、もし内部まで停止していたらマスターは……」
ステラやフォンが知っているZ装置は、運動機能を瞬時に切断する装置だ。
だがそれは300年前の話だ。
もし万が一、内部機構の生命維持装置まで停止していたら、カズヤの命はない。
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